追いかけても・・・追いかけても・・・

貴方はいつも背中しか見せてくれない。

それでも私は追いかけずにはいられないんだよ。

だって・・・貴方は私のすべてだったのだから・・・



「10年・・・か・・・」

ぼそりと呟いた言葉は風に消えた。

「あの人、ここで生きてるんだ」

濃紺の着物を纏い、髪を頂点で結い上げている。
ゆらゆらと流れるような赤の入った黒髪を
少しくすぐったそうに手でよけた。

「・・・・・・クゥン?」

その様子を見ていた一匹の黒い仔犬が、女の腕の中に飛び込んできた。

「あは、お前心配してくれてるの?」

そう言ってほほ笑む。
すると仔犬は嬉しそうにペロペロと女の顔を舐めた。

「!!!!!」

鋭い視線を感じ、振り返る。
そこに立っていたのは町を守るにしては全く不似合いな警官の姿。

「・・・・・・・・か?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

黙ったままその警官を見つめる。
紛れもなくそれは探していた人。
高鳴る鼓動を必死に隠す。
常人には分からない高鳴りだが、この人にとっては違う。

「あの・・・どなた様?」

冷静を装い、微笑みながら答える。
警官・・・斎藤一は一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに女の手を握ろうとした・・・が・・・

「!?」

「警官さん、いきなりなんですか?」

「・・・・阿呆。この俺を騙そうなんざ100万年早いんだよ、

そう言いながら斎藤はもう一度、腕を伸ばす。
今度はがっしりと掴んだ・・・はずだった。
が・・・その先には女・・・の姿はなく、いた場所から数歩下がった場所にいた。

「相変わらず、貴方は無粋ものだ。」

「フン、そう言うお前はなぜ女の姿なんぞしているんだ?」

「・・・・・・・・は?」

しばらくの沈黙。
そして・・・・

「まさか貴方は気付いていなかったのか?私は女だ。」

「・・・・・・・・・・・・はぁ!?」

拍子抜けした斎藤の横に一匹の仔犬

「壬生!」

「ワンッvvv」

壬生と呼ばれた仔犬は嬉しそうにに駆け寄る。

・・・女・・・だが確かに・・・」

そう言ってを下から眺め上げる斎藤。
そして一言。

「貧相だが胸がある・・・」



どかっ!!!!



見事に水下に命中するの鉄拳。

「あんたはそこが全てか!!!!」

「・・・・・・・・・阿呆」

「あっ・・・・」

未だ水下にあったの手を今度はしっかりと掴む斎藤。
そしてそのままその腕を引きよせ、自らの腕の中にしっかりとの体を捉えた。

「どこで何をしていた?」

「私の台詞です。」

「・・・・・・・まずはその口を塞いでやろうか?」

「・・・北から旅をしていました。」

斎藤の言葉には冷や汗をかく。
単純に口を塞ぐだけならまだしも、この男にそれはあり得ない。
そういう男だと知っているはすぐさまに答えた。

「それから色々と、何せ元新撰組で私の事を知っている人は少ないですから」

「・・・・そうか」

「ま、誰か生きていればいいかなぁって思っていたんですよ」

「フン」

「ですがみーんな死んじゃってて。と、その時貴方が生きていると知ったので・・・」

そこまで言うとふっと自分の髪をなぞった。
逆光に見えたの姿に、斎藤は自分の鼓動が少し早くなったと感じたが
いつもと同じ口調で、ニヒルに笑いながら言葉を紡ぐ。

「で?俺が恋しくなってここに来たのか?」

「既婚者に興味はありませんよ、斎藤さん」

若干冷たく、そして斎藤には何か分からない感情を含んだ視線で
答えるに、斎藤は間をおいて答える。

「・・・時尾の事か?」

「へぇ、時尾さんっていうんですか。」

「・・・・・・・・」

「ま、私としては貴方が落ち着ける場所が見つかっていて何よりでした。
――――――――――――――――――」

そう言って、そのまま斎藤の腕の中から抜け出す。

「っ・・・おい。」

「そうですね、しばらくはこちらにいると思いますが。
いついなくなるかはわかりません。飽きるまで。」

そのままは壬生を抱き上げるとさっさと歩いて行く。
とすぐに振り返ってにこりと微笑む。

「そうそう、私の名前はです。」

抜け出す間際に言った事に少しの後悔を感じながらも
・・・は東京の人ごみに紛れた。

「・・・・・・・・・阿呆が。俺から逃げられると思うなよ、。」


斎藤は懐から煙草を取り出すと、機嫌悪そうに火をつける。
紫煙を吐き出すと、髪をかき揚げ一言小さくつぶやいた。
ニヤリと笑うとそのまま斎藤は足を動かした。
昔から惹かれていた。
本当は女だとも知っていたが、あえて口には出さなかった。
斎藤は今まで見失っていた獲物を狩るような目でを追った。







【貴方が好きでしたよ、斎藤さん。
今度会うときはと名前で呼んで下さいな。】