もう少しだけ時間を下さい。

アテナよ・・・天上の神々よ!!

もう少しだけでいい!

あと5分だけでもいい!!

俺に時間を下さい!

どうか・・・どうか愛する女の為に!!!!




そう頭で叫ぶように祈りながらカノンは駆ける。

目の前に見えてきた12宮。

自分と兄の守護する宮は3番目。


【間に合ってくれ・・・!!!】


そう心で叫んだ時、小宇宙を感じた。


『カノンか!?』

「サガ!!」

『今どこだ!!』

「もう白羊宮を抜けた!」

『急いでくれ!!!もう・・・』

「ちっ!!!」


金牛宮の入り口にムウとアルデバランが立っている。

二人とも状況を知っているのだろう。

カノンの姿を見ると、すっと入り口をあける。


「早く行っておあげなさい」

「すまん!!」


走り去る途中でムウが発した言葉に、カノンは足を止めることなく答える。


「ムウよ・・・間に合うのか?」

「分かりません・・・ですが彼女は待っているはずです。」


悲しげな瞳で二人はカノンが駆けて行った方を見ていた。




金牛宮を抜け、双児宮に入ったカノンは、

寝室の扉を見つけると、思いっきり開けた。

バンっという音が辺りに響く。

ベッドの周りには、サガとアイオロスが立っていた。

サガは膝をつき、ベッドの横にいた。

アイオロスがカノンに声をかける。


「カノン・・・」

・・・は・・・?」


その言葉にアイオロスは黙って俯く。

足が動かなくなった。

たった数歩でベッドサイドまで行けるのに・・・

そこに行くのが怖かった。


「・・・カノン」

「!!!!」


サガが振り返り悲痛な表情でカノンの名を呼ぶ。

カノンは止まっていた足を必死に前に出す。

近寄ると、わずかに胸の上下している姿のがいた。

サガがの手を握っていた。


「ずっと・・・お前の名を呼んでいた。」

「・・・・・っ!」

「もう・・・目も開けられないのだろう・・・ずっとお前の名を呼びながら手を・・・」

「サガ・・・」

「私をお前と思って握ってきた・・・・・・さぁ」


きっとカノンの手を求めて彷徨っていたのだろう。

サガの手を握りしめている

サガはそっとカノンの手を取ると、自分の手と入れ替えた。

そしてアイオロスと二人、ベッドから離れたサガはカノンの背を押した。

カノンはすっとベッドに近付き、前かがみになる。


、分かるか?」

「・・・・・・・・」


優しく耳元で声をかけるカノン。

ぴくりと睫毛が動く。

そしてゆっくりと少しだけ目を開けた。


「カ・・・ノ・・・ン」

!!」


苦しいはずなのに・・・はカノンの姿を見てふわっと微笑む。


「お・・・かえ・・・り」

「ああ、ただいま。」

「よか・・・た・・・間・・・に合・・・」

「もう大丈夫だ、。ずっとここにいるか・・・ら・・・」


ぐっと込み上げてくるものを必死で押さえるカノン。

はカノンの手を握っていない方の手で、カノンの前髪をすっとなでた。


「走っ・・・た?」

「ああ」

「ごめ・・・な・・・さ・・・」

「もう、いいから。な?」

「だ・・・て・・・時間・・・ない」

「何言ってるんだ!これからたくさんあるじゃないか!!」

「あは・・・・カノ・・・ン・・・う・・・そ・・・下手・・・」


の手が下がる。


!!!」

「・・・・・・・ね」

「何!?何だって!?」


しっかりと目を開いて、カノンの方を見る

もう声さえ出なくなる。

カノンはの口元に耳を当て、必死にその言葉を拾う。


ーーーーー!!!」


カノンが目を閉じたを抱きしめる。

はとても安らかに目を閉じていた。

カノンの声が部屋中に響く。

サガも・・・アイオロスも・・・

そんなカノンとを見る事すら出来なかった。

じっと二人から背を向けているサガは、ぐっと拳を握っていた。

アイオロスも同じように両手の拳を握りしめる。


「・・・・待っていて・・・くれたんだよな?」

「・・・・・・・・・・・」

・・・いつもお前が来るのを待っていたのに・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「これからはお前が待つ番だと言うのか?・・・っ!!」


もう眠ってしまったの胸元に顔を埋めて、声を出さずに泣くカノン。

サガもアイオロスも居た堪れなくなりその場を後にした。



『今度は私が待ってるね』


の最後言葉がカノンの胸を締め付けた。


「待っていろ・・・。必ず・・・また会えるから・・・」


そっとの唇にキスを落とすと、カノンはもう一度の身体を抱きしめた。





(2010.09.12)