まだ・・・まだ残っている・・・

身体の中にある小宇宙を奮い立たせて・・・

もう一度・・・もう一度だけでいい・・・

お前の笑顔の為に





ジュデッカに12の黄金聖衣が終結した。

コキュートスでふと感じる女神の小宇宙と聖衣の共鳴に

重たい瞼をあけ、私は辺りを見回した。


「・・・・」


手は動くのか・・・いや、動かしてみせる

そう思い拳を握る。

ガリガリと音を立てながらも、永久に溶ける事はないはずの氷から這い上がる。


「カミュか・・・」

「サガ、貴方も感じたのか?」

「ああ」


そう言って、遠くジュデッカの方を見つめるサガ。

その隣には、シュラが立っていた。

私は視線をシュラへと向ける。


「カミュ、お前もか」

「ああ、聖衣が・・・アテナが呼んでいる」

「まだ・・・我々に出来る事があるのだな」


そう言ってサガは瞳を閉じた。


「カミュ、我々も行こう」


すでに向かったであろう、ムウ達の小宇宙を感じる。

そして私の弟子・・・氷河を含む青銅聖闘士達の小宇宙も・・・


「・・・・ああ。行こう!」


魂だけになっていても、感じる温もりに私は小宇宙を高める。

まだ・・・残っている。

アテナに刃を向け、シャカを死に追いやり、賊の烙印を押されても

アテナの聖衣の為に、地上の愛と正義の為にと

血の涙を流したこの心の慟哭も・・・

全て今の私の小宇宙の糧になる。


だが、無意識に浮かんだのは愛しいあの笑顔


「カミュ・・・いいのか?」


シュラが私の肩を掴む。


「・・・・・・」


サガも同じ事が言いたいのだろう。

その顔は何故か憂いを帯びている。


の事はいいのか?」


サガの言葉に私は思わず苦笑した。

そんな事、言われなくとも分かっている。


・・・か・・・」

「カミュ、もう二度と逢えないのだぞ・・・俺達は・・・俺達はこの魂さえも消える」

「もう・・・の笑顔も、声も何も聞けない・・・私達は・・・」


二度と転生など出来ず、消滅するのだと・・・

そんな事、分かり切っている。


「サガ、シュラ。私は思うのだ・・・我々は・・・いや、私は地上の愛と正義の為に
愛する人の笑顔を護る為に・・・これから行くのだと」


そう言って笑う私に、サガやシュラも笑う。

思う事はみな同じ。

それぞれが愛する人の生きる地上を護る為に行くのだと。


「そうだな・・・俺達は・・・」

「私達はその為に生きてきたのだ。」

「ああ、だからこそ・・・逆賊の汚名も」


そう・・・例えこの身が逆賊に堕ちても、それでも護りたいモノがある。

かすかにアテナやムウ達、青銅聖闘士達の小宇宙以外の何かを感じる。


「「「!?」」」


ジュデッカではない・・・この冥界の天高くから感じるこの小宇宙は・・・

!!!

間違いない、の小宇宙を感じる。


『カミュ・・・カミュ・・・愛している・・・貴方をいつまででも愛している』


温かい小宇宙・・・アテナのように慈愛に満ちている小宇宙を確かに感じる。

サガやシュラも感じているのだろう。

私と同じように天を仰ぐ。


「カミュ・・・」

「シュラ、何も・・・何も言うな・・・カミュも分かっているんだ・・・」


二人の声を聴きながらも、私はぐっと拳を握りしめ、瞳を閉じる。

浮かぶのはの笑顔・・・

意を決して瞳をあけ、私は二人を見た。


「行こう、サガ、シュラ」

「「カミュ・・・」」

「私はの未来と笑顔を護りたい」


その言葉に二人は頷く。

そしてジュデッカへと走りだした。

せめて・・・この想いが届くようにと私は一旦足を止める。

そしてもう一度、天を見上げた。


・・・私も愛している。例え消滅しようとも・・・私はお前を愛している」


そう呟いて、ありったけの想いを飛ばした。

この瞬間くらい・・・いや、今だからこそ、アテナよ、許して頂きたい。

ただ一生に一度だけ・・・愛している女性の為に小宇宙を燃やす事を!!


「せめて・・・この声がお前に届く事を祈る・・・・・・永遠に愛している」







『愛している』







「カミュ・・・カミュ・・・愛している・・・貴方をいつまででも愛している」


宝瓶宮の入り口で、空を見上げる


「カミュ・・・っ!!」


ふっとの中で声が聞こえる。

それは今までにないほどの柔らかな・・・温かい声・・・


・・・永遠に愛している』


きっとあの声が聞こえたのだと信じて、

は流れる涙をそのままに、もう一度空を見上げる。


「カミュ、聞こえたよ?貴方の声・・・きっと・・・ううん、絶対に私の声も聞こえてるんだよね?カミュ!!」


涙を流しながらも、精一杯の笑顔では叫んだ。

チラリと小さな雪の結晶が舞い降りてくる。

天使の羽根のように・・・それはゆっくりとの手に落ちた。

そしてすぅっとの体温で溶けて行った。

カミュの想いが・・・声が・・・

の身体に溶けて行った。





(2010.09.09)