時計を見ると午前2時。
真っ暗な寝室に緑色の小さな光がある。
充電が終わった携帯電話。
そっと手を伸ばして開くとそのディスプレイにはオーロラが映し出される。
「・・・・・・」
パタンと携帯の画面を閉じるとまた充電器へ。
そのままはベッドに潜り込んだ。
ここ3週間、ずっと聞いていない音楽。
そして同時にずっと聞いていないあの人の声。
「カミュ・・・」
ははぁっとため息をつくとゆっくりと瞳を閉じた。
もう鳴らないはずの音楽。
それなのにいつまでも待ってしまう。
もう逢えない事は分かっているのに。
決して嫌いになったからではない。
けれど・・・近くに居ればきっとカミュに迷惑をかけてしまうから。
そう思って二人で出した答え。
それなのに・・・やっぱりカミュが好き。
そんな事を考えながらも、訪れる睡魔にその身を委ねて行った。
「カミュ。」
「何だ?」
カミュはフランスでムウと共に任務を行っていた。
今回は視察という形の追跡。
最近、アテナの聖闘士と名乗って好き放題をしている輩の排除が
二人の任務内容だった。
「最近ちゃんとと話はしたのですか?」
「いや・・・していない」
「携帯は持っているのでしょう?」
「ああ。」
スーツ姿の二人はフランス郊外にある小さな店でコーヒーを飲んでいた。
ふとテーブルの上に出されている2つの携帯電話。
一つはムウのもの。
そしてもう一つはカミュのもの。
ムウはカミュの携帯をひょいっと取りディスプレイを覗き込む。
そこには純粋な微笑みを持つ一人の女性の姿があった。
「・・・・・・・・・あのですね、カミュ。」
「何だ・・・・・・・・・」
「ここまでしているのにそれはどうかと思いますよ?」
「何がだ?」
「これですよ!」
くるりとディスプレイをカミュに見せるムウ。
カミュはくすくすと笑いながらムウから携帯を取り上げる。
「仕方ないだろう?もう終わった事だし。
それにこの事はと十分に話し合った・・・だが・・・・・・・・」
「だが?」
そう言いつつムウの携帯を取り上げ同じようにディスプレイを見せる。
「私にはこちらの方が問題だと思うのだが?」
そう言うムウの携帯画面は何故かシオン。
ちなみにシオンの持つ携帯画面はムウ。
「これこそ仕方ないでしょう・・・・あの方はこうしないと泣くのですよ・・・」
「何だかんだ言ってもお前は愛弟子だしな・・・」
「それは関係ないでしょう・・・」
「シオンからしてみればお前のことが心配なのだ。」
「年を考えてください・・・」
「いくつになっても弟子に違いはあるまい?」
楽しそうに笑うカミュにムウは多少不貞腐れた表情をするも、
あれで執務に支障がでなけりゃそれでいいとため息をついた。
「で、うまく問題を摩り替えましたね?」
「何のことだ?」
「の事ですよ・・・・電話くらいしてあげればどうなのです。」
「だから・・・」
「貴方、本気でが離れたと思っているのですか?」
ムウの言葉に一瞬眉間に皺がよる。
「あのですね・・・あれでは心底貴方に惚れているんですよ?」
「・・・・・・」
「それは貴方だってそうでしょう。・・・・・・確かに私達の仕事はいつ死ぬか
分からないものですけれど・・・それでもは貴方を愛しているんですよ?」
「私だとてを愛しているさ。この命さえ、許されるならばアテナではなく、
に捧げたいと想うほどに・・・・」
「だから私が思うに、はきっと貴方の負担になりたくないが為に
離れたのでしょうね。」
「?・・・負担?」
「ええ。きっと貴方を愛しく想うが故に・・・ね。
は我々の使命をよく理解してくれています。
だから余計に自分のせいで貴方の使命が揺らぐ事を心配しているのでしょう。」
そう言いつつ、ムウはコーヒーを啜る。
カミュはふと自分の時計を見る。
午後5時・・・
日本との時差は8時間。
「・・・・・・電話して差し上げなさい?
留守電でもいいではないですか・・・貴方の本心を聞かせて差し上げれば・・・・」
ムウのその言葉にカミュは苦笑しつつも席を立った。
携帯電話を持って・・・
――――――――♪
かすかに音楽が聞こえる。
はうっすらと瞳を開ける。
そして気付いた。
携帯から流れる音楽。
「・・・・・・?・・・・・・!?」
慌てて携帯を手に取り通話ボタンを押す。
「もっ・・・もしもし?」
『・・・・・・?』
「う・・・うん・・・・・・」
『眠っていたのか?』
「転寝・・・して・・・・た」
聞きたかった声。
大好きなあの人の声。
は流れる涙を必死でこらえようとしたが、
そう簡単に止まることはない。
『・・・泣いているのか?』
「ちがっ・・・違うよ・・・」
『・・・・・、もう遅いだろうか・・・・』
「なっ・・・なに・・・・・・・・・?」
『もう一度・・・・私と生きてくれないだろうか・・・』
「えっ・・・・」
『お前がいなければ意味がないのだ・・・・がいるからこそ、
私は使命を果たせる・・・・』
「でっ・・・でも私、カミュの負担になりたくっ・・・なりたくないか・・ら・・・」
『違う、がいなければ私は何も出来ない・・・』
「カミュ・・・・」
『愛している・・・・・・・・』
「カミュ!!私も・・・・私も貴方を愛してる!!!!」
受話器越しに聞こえるの声に、カミュの顔が自然と綻ぶ。
『明日で任務が終わるから・・・・そうしたら・・・・』
「?」
『迎えに来てほしい・・・・いけないか?』
「行くよ!」
『そうか・・・・ならばの笑顔を見せてくれ』
空港では待ち人を探している。
待ち合わせ場所は一回のロビー。
キョロキョロと辺りを見回すが、人が多くて分からない。
そんな時、もう一度携帯から『』が流れた。
「カミュ、どこ?」
『すぐそこだ』
そう言われて辺りを見回すがなかなか見当たらない。
はもう一度携帯を耳に当てる。
「人が多くて分からないよ・・・カミュ?」
「ただいま、」
携帯を当てている方とは逆の耳元で聞こえる声。
その声には振り返り、一番の笑みを浮かべる。
そして・・・・
「おかえり!!!カミュ!!!!!」
抱きつくをしっかりと抱き締め返すカミュ。
「ああ、ただいま。」
「うん!無事でよかった!!」
「もうこれからはずっと一緒だ。」
「うん!!」
「だから携帯もいらないだろう・・・」
「?」
「今日から私の伴侶だからな」
そう言ってカミュはポケットから一枚の紙を取り出す。
【婚姻届】
「カミュ・・・?」
「断る理由、あるか?」
その瞬間、は笑顔で首を振る。
「ない!!!」
嬉しさのあまり涙するをもう一度強く抱き締めるカミュ。
その姿をムウが苦笑しながら見ていた。
「私もいるのですけれど・・・・まっ、いいでしょう。
お幸せにね、二人とも・・・・」