いつからだったっけ?
あまり記憶にはないのだけれど・・・
私がこの行動を始めたのは・・・



ふぅっと息を吐くと同時に広がる紫煙。
はそれを見て自嘲気味に笑う。

目の前のテーブルには何種類かの煙草の箱。
色とりどりに、乱雑に置かれた煙草を横目に、
は灰皿に手を伸ばす。

「あまり吸いすぎはよくないと思うが・・・」

ドアに凭れかかる様に話しかけるその人物に、
は苦笑して見せる。

「・・・誰のおかげだと思っているの?・・・シュラ。」

シュラは

「それも俺のせいか・・・」

と言いつつ、の隣に座る。
そして、置かれた煙草から自分の好みに合うものを選ぶと、
カチッと火をつける。

「今回も遅かったのね、任務。」

「ああ・・・デスマスクの奴がしくじってな・・・」

「怪我したの?」

「いや・・・女と戯れすぎだ。」

「くすくす・・・彼らしいね。」

そう言いながらも、は今日何箱目になるか分からない
煙草の箱に手をつける。
そして、シュラの手からライターを奪い取ると、
火をつけ紫煙を吐き出す。

「おい・・・」

「ん?」

「いくらなんでも吸いすぎだ・・・」

「ああ、ごめん。でもね、シュラ。」

自分から煙草を奪い取るシュラの手をぐっと握る。

「貴方の身体からする女の人の香りは好きじゃないのよ。」

と言い、シュラから煙草を奪い取る。
シュラはため息をつきながら、席を立った。

「コーヒー・・・入れてくる。」

「どーぞー。豆はいつものとこよ。」

「ああ。」

そんなやり取りをしつつ、はポフっとソファに横になった。



いつもいつも私のところに来るくせに、
いつもいつも違う女の人の香りをさせてくる憎い人。
そんな人に惚れたのは自分だから仕方ないと言い聞かせつつも、
どうにかして、自分だけのモノにしたいと思う。

そんな思考をあざ笑いながら、また煙草に火をつける。

「あっ・・・そっか・・・そうだったんだ・・・」

「何がだ?」

シュラはコーヒーメーカーをセットして戻ってきた。

「んー?あたしが何でこんなに煙草を吸うのか理由が分かっただけだよ。」

「そうか、俺に聞かせてもらえないか?」

「何で?」

するとシュラは

「理由が分かれば、お前が禁煙出来るだろう?」

と答えた。
その答えには大声で笑う。

「あはははははは!!!!」

「何かおかしなことでも言ったのか?」

お腹を抱えながら、目には涙を浮かべている
怪訝そうに見やるシュラ。
そんなシュラに、

「ごめんごめん・・・あはっ・・・シュラには無理だよ・・・あははは。」

と何度も答えた。
シューシューとコーヒーメーカーが鳴る。
シュラはキッチンに向かい、コーヒーをカップに入れて戻ってきた。
それを受け取り、はふーっとようやく落ち着いて話し出した。

「あたしが禁煙したら、何かシュラにとっていい事あるの?」

「お前は吸いすぎだと言っているだろう?
・・・いくら何でも身体に悪い。・・・まあ、
俺も吸っているから説得力はないが・・・」

「んーどうしようかな・・・」

「ったく・・・」

シュラはすっとの腰に腕を回し、
顔を近付けていく。
唇に触れる温もりを素直に受け入れながら、
はくすっと笑った。

「・・・・・・何だ?」

「んっ・・・別に。」

「・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・・」

もう一度と言わんばかりにシュラが身体を密着させてくる。
が・・・

「そろそろ時間でしょ?」

の言葉にシュラは壁にかかっている時計を見る。

「・・・ちっ・・・もう時間か・・・ではまた来る。」

小さく舌打ちをし、名残り惜しそうにから離れるシュラ。
はシュラを見送る為に、一緒に外まで出た。

「・・・また来る。」

「ええ、期待せずに待ってるわ、シュラ。」

「いつも来るのはお前だけだ。こんな事を言うのもな・・・」


別れ際にまたキスをしようと顔を近付けるシュラ。
そんなシュラの顔ををすっと避けると、
は片手を振った。

「そうかもしれないけれど・・・やっぱり期待はしないわ。」

「全く・・・素直じゃないな・・・お前は・・・」

「そうかもね・・・じゃぁ今度は女の人の香りがないようにして欲しいわ。」

そのの言葉にシュラは苦笑しながら

「分かった・・・」

とだけ言って聖域に戻っていった。

「・・・分かってないわね」

そう呟くとは部屋に行き、先程シュラが吸っていた
煙草を取り出し火をつけた。


「いつも来てくれるのは嬉しいけれど・・・
私だって嫉妬くらいするのよ?」


そう言いながら瞳を閉じた。





「Porque es solitario recordar el tabaco」

「煙草を覚えたのは寂しいから」