触れたい
触れていたい
ずっと貴女その手に・・・温もりに・・・
なのに、何も出来ない・・・
「おはようございます」
「ああ、おはよう!。」
「おっ!おはよう!!」
そう言って執務室の本棚からファイルを取りながらあいさつをするアイオロス。
隣には、まだあるのかと言いたげに大量の書類を持つカミュがいた。
「アイオロス様、早くしてあげないと、カミュ様が・・・」
「あははははははははっ!!」
「・・・・笑っていないで早くして欲しい」
二人の会話を聞きながらはくすりと笑う。
そしてカミュから自分が持てるだけの書類を取ると、
自分の席について、羽ペンを使って整理し始めた。
「・・・・」
「はい?」
カミュが自分の席に近付いてきて耳元に顔を近付け小声で話しかける。
「辛いのだろう?」
「・・・・ぇ?」
「・・・・今日は帰るか?」
「・・・・・・・大丈夫」
「貴女は嘘下手だな・・・・」
カチャ・・・・
音がした方を見ると、そこにはカミュを睨んでいるサガが立っていた。
カミュはため息をすると、顔をの耳元から離す。
「お、サガ!」
「ああ、アイオロス」
「・・・・・・・・・・・・おはようございます。サガ様」
「ああ、おはよう。」
会話の途中だったが、カミュはすっとから離れて机へと向かう。
サガは視線をアイオロスに向けたまま執務室へと入ってきた。
は、サガの声を聞いた瞬間、体が震える。
本当は、執務に来たくはなかった。
それよりも、この教皇宮への執務自体したくはなかった。
何カ月経ったと思っているの・・・と自分で苦笑しつつも体が反応してしまっていた。
執務が終わって双児宮に帰るサガ。
居住区の扉を開くと、そこには先ほどまで一緒に書類を整理していた人物がいた。
『ただいま、。』
『おかえりなさい、サガ。ご飯出来ているよ』
『ああ、ありがとう』
そう言って食卓に座ると、も食器を持って向かい側に座る。
想いを通じ合ってもう2年。
一緒に暮らし始めて1年。
執務で忙しいサガではあったが、は何も言わずに
いつもこうして笑顔で迎えてくれる。
『今日は早かったのね』
『ああ、いつもより書類が少なかったのと、お前のおかげだ、』
『私は私の仕事をしているだけだもの。でもこうしてサガが少しでも楽になるならいいな』
『助かっている、ありがとう』
『どういたしまして』
そんな会話をしながら食事をする。
いつもと変わらない日常。
食事が終わった後、が後片付けをしている間、
サガは入浴を済ませる。
お風呂から上がったサガが部屋に戻ると、冷たいワインが用意してあった。
サガはそれに手を伸ばすと、ソファに座る。
『さっぱりした?』
手にチーズや果物を乗せた皿を持ったが部屋に入ってくる。
『ああ、も飲むか?』
『そうだね、少しだけ飲もうかな?』
『ああ』
そう言ってにグラスを渡し、サガはワインを注いだ。
しばらく他愛もない会話をしていたが、
サガはふっと真面目な顔になって、を見た。
はそれに気付くと、コトンとグラスを置いた。
『、話がある。』
『何?サガ』
『・・・・距離を置かないか?』
『・・・・・・・・・・・・・なっ』
『私はやはりお前を近くに置いておく事など・・・』
『それは私が嫌いになったという事?』
『・・・・違う・・・違うのだ・・・』
『貴方の中のもう一人が犯した罪の事!?』
『・・・・・・・・・・』
『ねぇ、サガ!黙っていては・・・っ!!』
ぐっと掴まれた手首。
いつもとは違う・・・痛みを伴う力。
は苦痛に顔を歪めた。
『サ・・・ガ。痛っ・・・』
『!!す・・・すまない!』
ぱっと手を離し、その赤くなった手に今度は優しく手を添える・・・はずだった。
『・・・・・もう・・・いい。』
『っ・・・私は!!』
『貴方はいつもそう。大切な事は黙っていて・・・何も話してはくれない。』
『・・・・・・・・』
『そうやって・・・・何かあれば貴方はいつも『罪だ。罪だ』って・・・』
『それは・・・』
『貴方の罪はもう清算されているのに・・・貴方だけが罪だと言っているだけなのに・・・』
『・・・・すまない、私は・・・・』
『いつも貴方は謝ってばかり・・・』
そう言うとポロポロと涙を流し始めた。
の体を抱きしめようと腕を伸ばすが、触れる直前で手を止める。
その行動に、はフッと悲しげな顔で笑う。
『・・・・・・出て行きます、サガ【様】』
『まっ・・・待て!!!!』
サガの言葉を聞かないよう、手を耳に当てて、
は双児宮を駆け出た。
『すなまい・・・・・・私は・・・お前を愛しているのに・・・・』
小さく呟くサガの声は、誰に聞こえる訳もなく双児宮に響いた。
己の手のひらを見つめるサガは、ぐっと目を瞑る。
一度に触れてしまえば・・・汚してしまうかもしれない。
穢れを知らないを・・・この手で穢してしまうかもしれない。
サガはそれが何よりも怖かった。
『私は・・・・』
遠くなる双児宮。
走りながら、はドンと何かにぶつかる。
『どうしたのだ・・・・』
『カミュっ・・・・』
『サガと・・・・何かあったのか?』
『・・・・多分・・・・別れた』
『・・・・・・・・』
そう言って、涙を流す。
カミュはぐっとの体を抱きしめた。
『カ・・・カミュ』
『・・・・私では』
『え?』
『私ではダメだろうか・・・貴女の隣に・・・』
『何・・・・』
『こんな時に・・・自分でも卑怯だと思う・・・だが・・・私はが大切なのだ』
『カミュ・・・・私・・・・私』
そう言うの体をふっと離して、カミュは困ったような笑顔を向ける。
『すまない。』
『・・・・ううん』
『でも・・・・私は貴女を泣かせたりはしない。』
『カミュ・・・・・』
『・・・・私は、待っている。貴女の事をずっと・・・・』
そう言ってカミュはの手を取ると、その甲にキスをした。
すっと離れるとそのままカミュは自分の宮へと足を向けた。
『私・・・・』
ふっと痛みがない事に気がついたは自分の手を見る。
先ほどまで赤く腫れていたはずの手は、いつもと変わらなかった。
恐らくカミュがキスをした時に治してくれたのだろう。
今すぐにどうとか言わないカミュ。
何も言ってくれないサガ。
二人の間で揺れてしまう自分の心に苛立ちさえ覚え始める。
流されてしまおうか・・・・あの深紅の想いに・・・・そう思った。
何も出来ないのなら・・・・