ただ、側にいて・・・
悲しみよりその温もりを感じる事が出来るのならば、
きっと私は生まれてきたことを後悔などしない。
だから、お願いだ。
側にいて欲しい。
その温もりを感じさせて欲しい・・・




今日も一人、空を見上げる一人の男がいた。
聖域の近くには小高い丘がたくさんある。
そのひとつの場所で男・・・サガは教皇服を身に纏いただじっとその場にいた。

「・・・・・・

そう呟く声は辺りに虚しく響いた。
サガは一人苦笑すると、近くの木に寄りかかる。

「私は・・・何を恐れていたのだろうな・・・」

【何をそんなに怖がっているの?サガ・・・】

あの時のの声が頭に響く。







「何をそんなに恐れているの?サガ。」

サガと同じ色の髪をなびかせながら、淡い碧の瞳でサガを見つめる。
はサガの目の前に座り込み、
そのエメラルドを思わせる碧の瞳から真珠の様な涙を零していた。

・・・」

「ねぇ!何をそんなに恐れているの?
もう一人の貴方の存在?それとも聖闘士としての自分?」

―いつかアテナの為に死んでしまうかもしれない・・・
―聖闘士としての誇りの為に・・・

・・・すまない。だが、私はこれ以上お前を・・・」

―カナシマセタクナイノダ・・・―

「これ以上愛せないとでも言うの?」

キッとサガを睨む
そんなの視線を真正面から受けるサガは切なそうな表情をしていた。

「・・・・・・そうだ・・・」

―チガウ・・・―

「サ・・・ガ・・・」

止め処なく溢れる涙を隠すことなく、
はサガを見た。

「私は・・・これ以上お前を愛する自信がないのだ。」

―ソンナコトヲイイタイノデハナイ―

「だから・・・」

―チガウ!ワタシハコレイジョウ・・・―

「もう終わりにしよう・・・」

―カナシマセタクナイダケナノニ―

その言葉を発するのと同時に、はふいっとサガに背を向けた。
そのか細い肩は小刻みに震えている。
サガはそっとその肩に触れようと手を伸ばした。
しかし、寸でのところでその手は止まった。

「それが・・・貴方の意思なら・・・私は何も言う事はない・・・わ・・・サガ・・・」

そう言って振り返り微笑む
必死に微笑んでいるのが痛いほど分かる。

・・・」

「・・・私は・・・貴方の傍に・・・いられれば・・・それ・・・だけで・・・」

「・・・・・・・・・・・・・!!!・・・

はそっとサガの唇に己の唇を重ねた。
そして、そのまま振り返ることなく走り去って行った。
唇が離れた瞬間、が囁いた言葉がいつまでも耳の奥に残っていた。









「本当は・・・悲しませたくなかったのだ・・・・・・」

ふと気付くと、空は白んできていた。
サガは一人苦笑すると、シャラっと法衣の裾を鳴らしながら立ち上がった。

「ふっ・・・一人になって初めて気付くものだな・・・」

足取り重く双児宮へと戻るサガ。
今日はカノンはいない。
海底神殿に行っているから。
以前はが待っていてくれた寝室に入る。

「一人とは・・・こんなに虚しいものだった・・・のか?」

ぎしりと音を立ててベッドに腰掛ける。

「・・・今、こんな私をが見たら何と言うだろうか・・・」

サガが髪を掻き揚げながら呟く。
ふと触れた頬が濡れていた。

「くくっ・・・愚かだな・・・私は・・・」

流れてくる涙を止める術を知らず、サガはそのままベッドにもぐりこんだ。
自身の身体をきつく抱きしめ、想うのはただ一人・・・

・・・私は・・・まだお前を愛している・・・」

【サガ・・貴方の傍にいられるだけで私は幸せなの・・・】

その言葉だけが、サガの胸に残っていた・・・







貴女の存在がどれほど大きかったか知らされる。
私が選んだ道のはずなのに・・・

それは間違いだったと気付く。
何があっても離してはならなかった。
何があっても離れてはならなかった。


貴女のぬくもりが欲しくてたまらない・・・
貴女の存在が欲しくてたまらない・・・


そして・・・


貴女の愛が欲しくてたまらない・・・