貴女に触れる事を恐れて
わざと冷たくしている事に気が付いていのたか?
双魚宮の魔宮薔薇の園
アルバフィカは聖衣を脱ぎ去り、ゆったりとした服装でじっと薔薇を見ていた。
この香気の中で平気なのは彼のみ・・・
ふっと園の入り口に気配を感じた。
いつも想う女性の気配に、アルバフィカは小さくため息をつく。
「・・・アルバフィカ」
「・・・・・ここには来るなと言ったはずだ」
また冷たく言い放つ・・・
内心、これでいいと思う感情と何をやっているのだという感情が入り乱れる。
視線だけを彼女へと向けると、
園の入り口に立ち優しい微笑みでアルバフィカを見ていた。
想いを告げられた日、彼女を突き放したアルバフィカに
彼女は美しすぎる涙を流した。
悲しみではない・・・慈しみの涙。
「でも、貴方がまた一人だと思ったから・・・」
「ここは猛毒の園だ・・・私以外ここに長く居ては香気にやられる。」
「そうかもしれないわね・・・っ」
ふらりと彼女の身体が揺れる。
咄嗟に体が動くアルバフィカ。
彼女の身体を支えると、そのまま抱き上げる。
「やっぱり貴方は優しいのね・・・」
「・・・・・・」
「いつも冷たく突き放つのは貴方の体に流れる毒のせい?」
「・・・・・・」
その言葉にいつだったか起こった出来事を思い出す。
偶然、棘を刺してしまった手が、宮に仕える女官に触れた。
途端に、その女官は痙攣を起こして倒れてしまったのだ。
それはアルバフィカの毒の血のせい・・・
気を付けていたはずなのにとアルバフィカはそれ以来、
以前にも増して人を避けるようになっていた。
「私は大丈夫よ・・・アルバフィカ」
「・・・・」
「私は貴方に耐性があるから大丈夫」
そう言うと自分の手をそっとアルバフィカの頬に添える。
ぱっと顔を後ろにやろうとしたが、その瞬間には
アルバフィカの頬はの胸元に触れていた。
まるで子供を抱きしめる母のような。
「っ!!」
「・・・・ね?私は貴方に触れても大丈夫。」
「君は・・・」
「ん?」
「どうしてこうも私の心に入り込んでくるんだ・・・」
「アルバフィ・・・」
の手を掴み、その体をぐいっと自分に近付ける。
アルバフィカはの体を強く抱きしめる。
は、そんなアルバフィカの背に手を回して
その温もりを感じていた。
「・・・私は貴方の中に入り込んでなんかいないわ」
「じゃぁっ!この感情は何なんだ!!」
ぐっと腕に力を込めるアルバフィカには瞳を閉じた。
「・・・・聞かせて?」
「いつも・・・いつも!!君は私の所に来る度に!!」
「・・・ええ」
「私の中にどうしようもない感情が出てくるんだ!」
「・・・・そう」
「どんなに振り払おうとしても君の存在が私の中に流れてくる・・・
そしてそれは止まる事を知らずに私を襲ってくるんだ!!」
「・・・・・・・」
「いつもいつも!!君を抱きしめたくて!!」
「・・・アルバフィカ」
「君に触れたくて!!私だけのモノにしたいのに!!だが私はこんな体だからそれも出来ない!!」
関を切ったかのように叫び出すアルバフィカ。
こんなにも感情を出す人だったのだろうかとは思った。
以外でもいつもアルバフィカは
どこか冷めていて誰も近寄りがたい孤高の人だった。
それが今、自分の体を抱きしめ、感情を露わにして叫んでいる。
「ねぇ、アルバフィカ。私は大丈夫っていつも言っていたわ?」
「そんなもの!!」
「私、愛する人に抱かれて死ぬのなら本望だわ。」
「君はっ!」
「でもね?私はただでは死なない。だって、貴方を残して死ねると思って?」
「っ!!」
アルバフィカの静止を振り切って、はアルバフィカの唇に自分の唇を重ねた。
「・・・・ほら・・・私は大丈夫」
「・・・・・・・・っ!!!」
「アルバフィ・・・・」
アルバフィカは離れたの後頭部をぐっと掴むと
己の唇をまたに重ねた。
もはやアルバフィカの行動は止められない。
深く口づけられ、は眼を閉じながらもその感触に浸った。
ようやく離れたアルバフィカだったが、
を抱きしめる腕の力を緩める気配はなかった。
「・・・・離さない」
「ええ・・・私以外、貴方に触れられる人はいないのだから」
「離すものか・・・ずっと命尽きるまで」
「はい、アルバフィカ」
「私の傍に居られるのは君だけだ・・・」
「貴方の傍に居られるのは私だけね・・・アルバフィカ」
そう言うと、もう一度二人はキスを交わした。