聖域から少し離れた森林の奥にある小さな湖。
その湖の辺には、絨毯の様に咲き誇る白い花達。
そしてその中に一際目立つ真紅の華があった。
その華・・・・は、静かに湖面を見つめている。
小さくため息をつくと、手近にあった花びらに触れクスッと微笑む。
「何をしていたんだい?」
「あっ・・・・アフロディーテ。」
に声をかける人影。
絶世の美女と言わんばかりのその美しさは、誰をも魅了する。
その人物はアテナの聖闘士。
その最高峰に位置する黄金聖闘士であり、
88の星座の守護を持つ者の中でも
もっとも美しいと言われる美の聖闘士、
魚座ピスケスのアフロディーテその人だった。
「君はいつもここにいるんだね、。」
「ええ、だってこの場所大好きなんですもの。だって・・・・」
「私も好きだよ、この場所は。・・・・こうして・・・・・」
「きゃっ!」
の言葉を遮るようにアフロディーテが話すと同時に小さな悲鳴を上げる。
アフロディーテがくいっと自分の腕の中にを閉じ込めたからだ。
そのまま少し強めにを抱き締めるアフロディーテ。
「君を独り占めに出来るからね・・・。」
そう言いながら優しくの首筋に唇を寄せる。
それを少しくすぐったそうに・・・でも愛おしそうに受ける。
「ふふっ、くすぐったいわ。アフロディーテ。」
「そうかい?・・・ならやめようか?」
意地悪そうに言うアフロディーテには首を振り、
自分の腰に回された腕にそっと触れる。
「いいえ、貴方の好きな様にしていいわ。」
その言葉にアフロディーテは満足そうな笑みを浮かべると、
を自分の方に向けさせる。
そして、その唇に指をなぞらせた。
「本当に、君という人は・・・・どこまで私を魅了するのか・・・・」
「ん・・・・・・私は貴方を魅了しているなんて思ってもいないわ?」
「それは大変だね。自覚がないのかい?」
「ええ、全く。・・・私は貴方に魅了されている者の・・・・
んっ・・・一人だという自覚はあるけれど。」
そう答えるにアフロディーテはくすくすと笑う。
「いや、君は確かに私を魅了しているよ。その仕草も、
その唇から紡がれる言葉も、そしてその声も・・・
全てがこのアフロディーテを魅了しているのさ。
それに、こうして美しい花々に囲まれていても、
君という華だけはすぐに分かる。」
「だって人間ですもの?」
「ふふふっ、違うよ。そうだね・・・例えば多くの女性の中にいても、
という女性ならば私はすぐに見つけられる。」
「ん・・・・・・・・・」
話している最中にも触れるだけのキスを何度も重ねる。
アフロディーテは自分を見つめるその漆黒の瞳に吸い込まれるような・・・
そんな感覚に内心苦笑した。
「さて・・・・」
すっとを離して立ち上がるアフロディーテを名残り惜しそうに見上げる。
「・・・行くの?」
「ああ、と離れるのは辛いけれどね。
・・・・アテナの聖闘士だから仕方ないさ。
・・・・でもね、覚えておいで・・・・」
両手を広げ、その手にの手が重なる。
もすっと立ち上げると、アフロディーテを見上げた。
「このアフロディーテが愛しているのはだけ。
・・・・今もこれからも・・・・」
「私だって・・・・貴方だけよ?」
「そんな事は当然だね。」
シニカルな・・・そして余裕に満ちた笑みを浮かべるアフロディーテ。
そんなアフロディーテの胸に身体を預ける。
「くすっ・・・その自信はどこからくるの?」
「君が今、身体を預けているこの胸からさ」
くすくすと笑いながら答えるアフロディーテ。
ふと強い風が吹き、の髪がふわりとなびく。
「ねぇ、。」
「何?」
「もし、私が死んだら・・・・」
「分かっているわ。」
分かっている。
貴方が例え死んでも私は後を追う事はしない。
ただ・・・・
「ただ、忘れてはあげないわよ?」
「・・・・」
「忘れてもあげないし、許してもあげないから」
そう不敵な笑みを浮かべ、きゅっと抱きしめる腕に力を込めた。
「それは大変だね。・・・君に許してもらえなかったら
私は死んでも死にきれない・・・」
「でしょう?だから貴方はどんな事があっても生きて帰るの。」
「ああ、。私は君の為に生きよう・・・私の帰る場所は君以外ないのだから」
そしてまたこの場所でこうして触れ合う。
この水辺で・・・・
・・・君と言う最高の水辺の華と・・・・