「好きだ・・・」

「な・・・」

「どうしようもなく・・・貴女が好きなんだよ・・・


その眼は今まで見た事がない・・・『男』が『女』を見る目。

後ずさるはトンと壁に追いやられる。


「・・・ちょ、冗談は止めっ」

「本気なんだ・・・」


壁に両腕を付き、の逃げ場をなくす男。

は恐怖に怯えた目で男を見つめる。


「・・・冗談でこんな事は言わない」

「わ、私は気持ちはどうなのよ!!」


その声に一瞬ピクっと眉を動かすも、男はただじっとを見つめる。


「・・・関係ないね」

「っ・・・アフロディーテ!!」

「第一、10年以上も離れていて・・・私をも魅了する美しさになって」


より鮮やかな蒼い瞳が妖しく輝く。

女性にすら羨ましがられるような美貌と

いつも薔薇の香気を纏う美しき魚座の黄金聖闘士・・・アフロディーテ。

そして彼の世話をする為に、双魚宮にいた

彼にも負けないほどの美しさを持つ彼女は聖域に住まう聖闘士達の憧れの的だった。

それは黄金聖闘士達も例外ではなく、果てはアテナもを姉と慕う程だった。


「私以外の誰かと話をしている貴女を見ていて嫉妬に狂うかと思ったよ?」

「な・・・んで・・・」

「なのに・・・私の気持ちも知らないで・・・私はを姉と思った事なんかないのにね」

「そん・・・な。だって貴方だって・・・!!」

「ああ、あの女の事を言っているのかい?あんなのはただの捌け口だよ?」


そう言って笑うアフロディーテ。

が聖域に住んでいる人と仲良くなったと話した時は

驚いた表情を見せたものの、ご近所付き合いは大切だと喜んでくれたアフロディーテ。

一緒にいた小さい頃はよく【姉さん!】と呼んでいつも一緒にいた。

も4歳年の離れた隣家のアフロディーテを本当の弟のように可愛がっていた。

アフロディーテが聖闘士になる為に聖域に呼ばれた時も

必ず会いに行くからと約束して二人で抱き合って涙した。

そして歳月は過ぎて15年・・・

聖戦も終わり、失われた命は復活を遂げ、晴れて聖域へと足を踏み入れただった。


「・・・・これでも我慢していたんだよ?」

「ディー・・・テ・・・」


少しずつ近くなる顔。

ふっと顔を背けようとしただったが、それをアフロディーテが許してくれなかった。

ぐっとの顎を掴み、自分の方を向かせる。


「愛しているんだ・・・どうしようもなく・・・」

「ぃ・・・いやっ!!」

「どうして・・・」

「わ、私は貴方を実の弟のように思っていたのにっ!!」


その言葉に一瞬憂いを帯びた表情をするも、くっと唇の端を上げて笑い出す。


「ふふ・・・・・・そんなのは今この瞬間から終わるよ。」

「一方的だわ!!」

「いいね、その美しい眼・・・でも、もう終わりにしようか?」

「ディーテ!!・・・・・っん!!」


強引に唇を奪うアフロディーテ。

の目に溜まっていた涙が零れおちる。

角度を変え、より深くその唇を貪る行為は恋人のそれと同じ。

弟として大切にしていたのに・・・とは考えるが、

アフロディーテの行動に、いつしかの思考は止まってしまっていた。


「・・・・・・・ぁ・・・・」


離れた唇から一番に零れたの憂いに満ちた視線に、アフロディーテは不敵な笑みを浮かべる。


「言ったでしょう?終わりにしようって・・・ねぇ【姉さん】?」


そしてすっと薔薇の花を一輪出すとクルクルと花弁を遊ばせる。


「あ、貴方は・・・!!!」

「ああ、その眼。だが私は何でもするよ?それで貴女を私だけのものに出来るのならね?」

「ざ、残酷だわ!!」

「ふふふっ、・・・残酷なのは貴女だよ?」

「デ・・・ディ・・・テ・・・・な・・・に・・・」


ガクッと崩れおちるの身体を抱き支えるアフロディーテ。

一輪の薔薇が足元に堕ちる。


「速攻性の睡眠効果がある薔薇の香りはどう?私には効かないけど、ね?」


閉ざされた瞳から流れる涙にそっとキスをすると、その身体を優しく抱き上げる。

そしてそのまま双魚宮の魔宮薔薇の園・・・・

その奥にひっそりと佇むコテージに足を運ぶアフロディーテ。

ギィィィっと音を立てて扉をあける。

格子に囲まれた部屋のベッドの上に、すっとの身体を寝かせる。




「逃がさないよ・・・。その眼に映るのは私だけでいいんだ」




そう言うとの唇に自分の唇をゆっくり重ねてから、アフロディーテはその部屋に鍵をかける。

そして踵を返すと、アフロディーテは至極満足した笑みを浮かべながら園を出る。









嫌われてもでも構わない。

この胸を支配するのは愛する人己のものにした恍惚感だけ。