聖域にある宝瓶宮
水瓶座の黄金聖闘士であるカミュは自室で読書をしていた…
いや、先ほどからちっとも文字を見ていない。
理由は簡単だった…

…」

ぼそりと呟く。
カミュはもう1ヶ月、愛しい彼女に会っていない。
始まりはホンの些細なことだった。


「ねぇ、カミュ。今度の休みなんだけど…」

「すまない、。その日はサガ達と出掛ける事になっているのだ…」

「ねぇ…カミュ。次の休みにさ…」

「その日は氷河が来るのだ。久しぶりだからな…訓練でもしようと思っている。」


こんな感じで、と二人っきりで過ごす休みなど殆どなかった。
その事で、今まではカミュを攻めたりはしなかった。
しかし、いくらが優しくてもそう何度も断られていたら堪忍袋の緒も切れる。

「カミュにとってあたしは何なの?」

?」

夜中に突然カミュの下を訪れた

「…あたし、カミュと二人で過ごす時間が欲しいって思ってた。カミュも同じ気持ちだって…」

はカミュと距離を開けて話す。

「でも…カミュはいつも誰か違う人と一緒で…。友達とか大事なのも分かるよ。でも…!!」

そこまで言っては黙り込む。

「…。」

カミュはを抱きしめようとした。
しかし、は一歩後ろに下がってしまう。
その事に驚きを隠せないカミュ。
いつもは、嬉しそうに…恥ずかしそうにしながらもカミュの腕の中で微笑む
それが、今、その抱擁を拒絶したのだ。

「………」

「…ごめんなさい。我が侭だよね…急に来てこんな事言って…迷惑だったね。」

「………」

の言葉にただ、静かに見つめるカミュ。
そんなカミュに淋しげに微笑む

「あたし、帰るから……おやすみなさい。」

「待てっ!!!!」

カミュに背を向けるとは宝瓶宮を走って出て行った。
その背を見ながらカミュは考え込む。



『カミュにとってあたしは何なの?』




その言葉を聞いた時、の瞳は深い悲しみの色に染まっていた。
決して涙は見せず…
カミュを見るの瞳は、とても寂しそうだった。

「…はぁ」

カミュはパタンと本を閉じる。
窓から入る風がカミュの紅い髪をなびかせる。

「…私は何をしていたのか…」

どうして分かってやらなかったのか…
は私と二人で過ごしたかったのだと…
いや、気付いていた。
しかし、カミュにとってという存在がいることが…
愛しい人が自分の側で微笑んでいることが何よりも幸せだった。

「…私がを追い詰めていたのか…」

クールに徹するあまり、と同僚を同じように扱っていた。
その事に後悔するカミュ。

「……、逢いたい。」

カミュはそう呟くと、自室を後にした。
今の時間なら、きっとあそこにいるはずだ。
カミュは急いでその場所へ向かった。






「……

振り返るとそこには愛しい人が立っている。

「……カミュ?」

カミュはそっとに近寄り、その身体を抱きしめた。

「……逢いたかった」

今度は拒絶されなかった。
その事を嬉しく思うカミュ。
同時にを抱きしめるカミュの腕に力がこもる。

「……、痩せたか?」

自分の腕にいるの顔を見つめる。
顔色があまり良くない。
それに、身体が一回りほど小さく感じられる。

「………そう…かな」

はカミュの顔を見上げる。

「ああ、私…のせいか…?」

その言葉に静かに首を振る。

「違うよ……あたし、あの後からずっと考えてたの。」

「何を…?」

「我が侭…言ってたんだなって…カミュが大事にしているものなら、あたしにも大事なものなのに…」

そっとカミュの胸に顔を埋める。
肩が震えていて、泣いているのが分かる。

「…ご…めん…ね…」

「謝るのはこちらだ…。」

カミュは優しく震える身体を抱きしめ直す。

「お前の気持ちに気付いてやれなかった…簡単な事なのに…」

「カ…ミュ?」

「私と共に過ごす時間を作ろうとしてくれていたのに、私は友や弟子ばかり優先して…」

そっとの髪を撫でる。

が近くにいるのが当たり前に思って蔑ろにしていたんだな…すまなかった。」

そう言っての顔を上げさせる。
その涙に濡れる頬を唇で拭った。

「カミュ…」

、これからは二人の時間をたくさん作ろう…」

カミュはそう言うとにそっとキスをした。
そのキスをは嬉しそうに受け入れる。

「カミュ…好き…大好きよ…」

「私もが好きだ…愛しているよ」

カミュはの笑顔を久しぶりに見た。
その笑顔は今までにないほど美しく思えた。

「二人でたくさん一緒に時間を過ごそうね!」

「ああ、だからもう悲しまないでくれ…。」

「うんっ」

「離れないで…私との時間を過ごして欲しい…これからずっと…」

はその言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

「?」

そんなにクスリと微笑むと、カミュはを抱き上げた。

「きゃっ…カミュっ??」

「単刀直入に言うとな…結婚して欲しいということだ…」

「カ…ミュ…」

顔を赤らめながらそう言うカミュ。
今ばかりは、本当のカミュを見ている気がした。
の瞳から大粒の涙が溢れ出す。
そんなの涙を唇で拭いながら、カミュは耳元で囁いた。

「返事はくれないのか?」

「カミュ!!!」

返事の代わりに、カミュに精一杯の笑顔を返す
そんなをカミュは愛しく感じる。

「これからは、二人っきりの時間が多くなるな……」

「そうだね…嬉しい!」

「この1ヶ月間…ずっと我慢していたのだ…これからは今までの分まで愛さなければな」

「カミュ//////」

、愛しているよ…愛している…」

もう一度交わすキス。
そのキスは二人の誓い。
二人だけの時間を過ごすための…