夢の中の貴方は優しい笑みであたしに声をかけてくれる。
もうこのままでいいと思っていたのに…
「まだは眠ったままですか?」
ムウは一日置きに宝瓶宮を訪れている。
「…ああ」
カミュはムウに紅茶を入れながら言う。
「そうですか…」
あれから2週間、は眠ったままだった。
カミュは執務の時間以外ずっとの傍にいた。
「…時々」
「えっ?」
「時々微笑むんだよ…」
カミュは紅茶を見つめながら言った。
「私がから視線を逸らしていて…ふっと見ると微笑んでいるのだ。」
「…どんな夢をみているのですかね。」
ムウは少し寂しげにカミュを見る。
「を見てきてもいいですか?」
「ああ…」
カミュはムウをが眠る部屋に案内した。
アイスブルーの寝台の上に横たわる。頬に多少赤みを帯びていた。
「…、早く貴女の入れたお茶が飲みたいですね。」
ムウはの髪を軽くなでた。
「そうだな…」
カミュはそっとの髪を一房取り、その髪にキスをした。
「!?カミュ!!」
ムウの声にカミュはを見る。
かすかに瞼が動いたのだ。
「!!!」
カミュはをそっと抱き起こす。
「……」
ゆっくりの瞳が開かれていく。
「…?」
完全にの瞳が開かれた時、ムウはある異変に気付いた。
の焦点が合っていないのだ。
「!私が分るか?!!!」
カミュの声に反応を示さない。
を抱きしめる腕の力が次第に弱まっていく。
ムウはの目の前に手をかざし、振ってみるが何の反応も示さない。
「…もしや」
ムウはカミュに向かって静かに話し出した。
「は…まだ夢の中にいるのかもしれません」
「夢の中?」
カミュは意味が分らない顔をしている。
「…カ…ミュ…待っ…て」
は途切れ途切れに言葉を発する。
「私はここにいる…」
カミュはをもう一度抱きしめる。
「待っ…てよ…カ…ミュ…歩くの…早い…よ」
しかし、はカミュを見て話しているのではないとすぐに分かった。
の視線の先にはカミュはいない。
あるのは開かれた窓だけだった。
「…一体…これは…」
カミュは今までにない悲しげな顔でを見つめる。
「おそらく…にとって夢の中のカミュの方が大事なのでしょう。」
「夢の中の私…」
「ええ。よく見てください。の表情を」
ムウの言葉通り、の表情を見るカミュは気付いた。
は微笑んでいる。
それは実在するカミュに対する微笑ではなく、夢の中にいるカミュに対して。
「私のせいか…自業自得だな」
カミュはやはり悲しげな顔でムウに笑いかける。
「…クールに徹して…を傷付けた。大事にするあまり…私は」
「時間が解決してくれるでしょう。それと貴方次第ではないのですか?」
ムウの瞳を見て、その意図を感じ取るカミュ。
「そうだな…これからはずっと傍にいるさ」
2ヶ月後
「…そんなに急ぐと危ない。」
「綺麗!!!綺麗ね!!!」
カミュはを連れて湖に来ていた。
ここはカミュが一番好きなところだ。
は湖の中に膝まで浸かり、木々に囲まれた空を見ていた。
「あまり先に行くな」
「綺麗!!!」
は相変わらず…いや多少はカミュを見るようになった。
しかし、がカミュの名を呼ぶ時、その視線の先にはまだカミュはいなかった。
バシャンッ
「!!!!」
が突然に深みにはまった。
カミュは急いで湖に入り、を抱える。
「大丈夫か!!!!!」
カミュの言葉には答えない。
「水!!!綺麗ね!!!」
空に舞い上がる水しぶきに手を伸ばしながら、
は極上の笑みを浮かべる。
「空も!!水も!!!みんな綺麗!!!カミュも!!!みんなみんな綺麗!!!」
「…?」
今、確かにはカミュの名を呼んだ。
確かにカミュを見つめて。
「みんな大好き!!!鳥も、空も、水も!!!カミュも、みんな大好き!!!」
は確かにカミュを見つめている。
そして、カミュにしっかり抱きついていた。
「…」
カミュはを強く抱きしめる。
「苦しい…よ」
の言葉にカミュは抱きしめる腕の力を少しだけ緩めた。
「私も、が大好きだ。」
カミュはそっとの頬にキスをする。
「、カミュが大好き!!!」
は空に向かって叫ぶ。
その様子を見て、カミュは微笑む。
そして胸の中で思った。
『いつか…私をきちんと見つめてくれるようになったら伝えよう。…愛していると。』
『私だけの人魚姫』