貴女が生きていてくれるならそれでいい。
例え、私が二度とその温もりを感じる事が出来なくても・・・
せめて今は・・・この瞬間だけは・・・・
強く強く抱き締めさせて欲しい・・・
貴女が・・・私より先に逝くのは何よりも辛い・・・
だから・・・貴女は生きて欲しい・・・
「・・・・」
「あっ・・・カ・・・ミュ?」
「起きなくていい・・・」
ベッドに横たわっていたが、カミュの姿を見つけ
その身体を起こそうとするが、カミュはそれを優しく止めた。
「・・・・・・具合はどうだ?」
「ん・・・今日は・・・少しいい・・・みたい・・・」
「そうか。」
そう言いながらそっとの髪を撫でる。
はその仕草に微笑みながら、そっとカミュに口付ける。
カミュは一瞬驚くも、ゆっくりと眼を閉じてに優しく口付けた。
「ん・・・カミュ・・・」
「どうした?」
「・・・・もっと・・・貴方を感じたい・・・」
「だが・・・・」
「大丈夫だよ・・・だから・・・・」
そう言ってはカミュの首に腕を廻す。
カミュはの背に手を廻し、そっと抱き締めた。
「・・・・・・辛かったら言うんだ・・・・・・」
「ん・・・・分かってる・・・・」
カミュは壊れ物を扱うように、
出来るだけに負担がかからないように
優しくその腕に抱いた。
甘いはずのその吐息も・・・・
何故かの悲鳴に聞こえる
触れ合う素肌に感じる熱も
最後のような気がして・・・・
何度も何度も囁く
「愛している」
という言葉が痛いほどカミュ胸に突き刺さった。
抱き締めあい、その腕の中で感じるの温もり。
日増しに痩せ細るその身体に悲しみよりも悔しさが込み上げる。
「カミュ・・・」
「何だ?」
「あたし・・・もう治らないんでしょ?」
「何を言っている。・・・・そんなはずな・・・」
「嘘はもういいの・・・・」
カミュの言葉を遮るように、がカミュの手を握り言う。
「みんな知ってるんだ・・・もう長くないんでしょ」
「・・・」
「今までずっと辛い事ばっかりだった・・・。どうしてあたしがって・・・何度も思ったよ。
でも、あたし後悔なんかしてないんだよ?
だって、どんなに辛かった事ももういい思い出だし・・・
それに・・・カミュにこんなに愛してもらっているんだから・・・」
そう言って微笑むをカミュは堪らず抱き締める腕に力を込める。
「っ・・・カミュ?」
「そんな事を言うな!!!」
「カミュ・・・・」
「後悔してないなんて!!!
私はこんなにお前を愛しているのに・・・何もしてやれない!!!
代われるのなら代わってやりたい!失いたくないのだ!!
もう・・・終わりのような言い方・・・・っ・・・」
カミュの悲痛な叫びには苦笑する。
こんなにも自分を想ってくれているカミュ。
そんなカミュには心苦しくなった。
同時にカミュの震えるその身体をそっと抱き締めた。
「カミュ・・・・あたしだって本当は逝きたくない。
貴方とずっと一緒に生きて、貴方の子供を生んで・・・
年老いて逝くまでずっと・・・・
だけど・・・ね。これがあたしの運命なんだよ。」
「・・・・・・」
「だから・・・あたしはちゃんと受け止めてる。
カミュも・・・ねっ?幸せになって欲しいんだ・・・
カミュが幸せならあたしも幸せなんだもの。」
そう言うの微笑みがいつもより儚げで・・・
カミュは瞳を閉じた。
「・・・・そんなに酷いのか?」
「ああ・・・・」
「もう助からないのか?」
「・・・・・・・・ああ」
自分の宮に戻った後、偶然宮を訪れたカノンと酒を酌み交わす。
「一度診てやろうか?」
カノンがそう言うとカミュはふっと苦笑した。
カノンは兄サガと同じように医術に心得があるとは、
普段の言動からは想像出来ない。
しかし、確かに知識があるカノンの申し出にカミュは「そうだな」と短く答えた。
「・・・・飲みすぎではないのか?」
いつもにも増したハイペースな飲み方に、酒豪と言われる
カノンも眉間に皺を寄せていた。
「そう言う貴方も私に付き合っているではないか?」
「俺は元から飲むんだよ・・・カミュ」
そう言いながら琥珀色のブランデーを一気に飲み干す。
カミュは苦笑しながらもカノンにブランデーを継ぎ足し、
己もグラスを空けた。
「・・・カノン、貴方ならばどうする?」
「んあ?」
カランと音を立てて氷が割れる。
カノンはカミュが言わんとしている事が分かり、すっとグラスを置いた。
カミュはグラスの縁を指でなぞり、ぐっとグラスを握る。
「愛している人が居なくなった世の中など今の私には・・・・耐えられない」
「カミュ・・・・」
「彼女を私は小さい頃から知っている・・・
どんな不幸な事があっても直向きに生きてきた。
いつも明るくて・・・何十年か振りに逢った時も変わらずに・・・。
いつでも頭の隅にあったのだ・・・の笑顔が・・・
その笑顔に何度も救われていた・・・そんな彼女に惹かれ、
愛して・・・なのに・・・それなのに私は何も出来ないっ!!」
「カミュ!!」
パリーンと音がしてカミュの手の中にあったグラスが割れる。
床に散らばる破片と紅い雫。
カミュはそのまま両手を強く握り、額へと押しやり俯く。
「・・・・・・・・・・・・・・・そんなに生きていて欲しいのなら・・・」
ふとカノンがカミュを見つめる。
カミュはその言葉に顔を上げ、カノンを見た。
「・・・お前にしか出来ない方法があるだろう?」
「何だと言うのだ・・・カノン・・・・・・・っ!!」
「・・・分かったか・・・・だがそれはお前が苦しむ結果になるかもしれん・・・」
「構わない・・・が生きていてくれるなら」
「・・・・・・・・そうか」
カノンは暫く瞳を臥せっていたが、次にカミュを見た時、
その瞳には確かな決意が見て取れた。
「どうしたの?カミュ・・・その人は?」
の部屋にカミュともう一人。
海色の長髪を一つに結わえ、シンプルなダークスーツを着こなす人。
その人物は片手をに差し出しながら微笑んだ。
「ああ、初めまして・・・俺の名はカノン。
カミュの知り合いだ・・・」
そう答えるカノンにもそっと片手を差し出し握手をした。
「、この人がお前を診てくれる。
こう見えても腕は確かだ・・・」
カミュのその言葉にカノンは少し不貞腐れた表情をする。
「おい、こう見えてってどういうことだよ。」
「ああ、すまない・・・いや失言だった。」
「くすくすくす・・・」
久しぶりに楽しそうに笑うの姿に、カミュも顔を自然と綻ぶ。
しかし、すぐに真剣な眼差しに戻ると、カノンに目で合図を送った。
「さて・・・じゃあ早速で悪いが・・・」
そう言ってカノンはベッドの端に腰掛け、の脈を取ったりした。
簡単な問診などを終えた後、に優しく話しかけた。
「話によるとあまり寝つけていないようだな。
まずはしっかりと休養を取る事から始めたほうがいい。」
「ええ・・・ありがとうございます。」
「礼にはおよばんさ。カミュの為だ、疲れただろう?しっかり休め。」
「はい・・・」
そう言うと、は静かに瞳を閉じた。
そしてすぐにすぅすぅと静かな寝息がカミュ達の耳に届く。
「ありがとう、カノン。」
「いや・・・」
「やはり長くないか・・・・」
「正直なところ・・・よく保っていると思う。」
カノンは視線をに向けながら話た。
カミュはふぅっとため息を着きながら隣の部屋に行き、
ソファにぽふっと座り足を組んだ。
後に続いたカノンも同じように向かい側に座ると、
ポケットから煙草を取り出し火をつける。
「・・・・・・・・・カノン」
「ああ?」
「火を貸してもらってもいいか?」
「あっ?・・・ああ・・・・・・」
カミュの突然の言葉に驚きながらもカノンはライターを手渡す。
上着のポケットからカミュは煙草を取り出しそれに火をつけた。
ふーっとカミュの口から紫煙が吐き出される様は異様な感じだとカノンは苦笑した。
「お前、煙草吸うのか?」
「いや・・・・・・稀だ・・・」
「・・・・・・・・・知らなかった」
「だろうな。私も自分で煙草手に入れ、それを吸うのは初めてだ。」
そう言いながらカミュは苦笑した。
カノンはすっとカミュに錠剤を手渡す。
カミュはそれを見てさらに苦笑した。
「・・・・・・この薬、睡眠薬だろう?」
「そうだ・・・・・・即効性のな・・・」
「・・・・・・カノン」
「何だ?」
「すまないな・・・・ありがとう」
そう言うカミュの憂いを帯びた瞳にカノンはただ黙って頷くだけだった。
「カミュ・・・もうカノンさんは帰ったの?」
「ああ。」
あれから数時間後、カミュはの部屋で過ごしていた。
目が醒めたに微笑みながらその手を取り、
優しくキスをする。
「いい人みたい・・・カノンさんって何か海の香りがしたね」
「そうだな・・・なぁ、」
「何?」
「私がこれから言う事を忘れないで欲しい」
そう言うと、カミュはぎゅっとを抱き締めた。
「私はを愛している」
「カミュ・・・・」
「例え私に死が訪れても、何があっても永遠にを愛している」
「どうしたの・・・急に・・・」
「忘れないで欲しい・・・・私が愛していくのはだけだと・・・」
「カっ・・・・・・!!!!」
突然カミュがキスをした。
同時に口の中に何かが流れ込む。
ゴクリとの喉が鳴る。
「なっ・・・・何を飲ませ・・・・あっ!?」
ぐらりと廻る視界。
急激に抜けていく身体の力。
「カ・・・・・ミュ・・・」
「愛している・・・」
「愛している」
カミュのその甘い声と抱き締められた腕の強さだけがに残った。
「・・・・・・・・・・・・・生きて・・・・・」
そう小さく囁き、すっと片手を上げ小宇宙を高める。
ふわっと浮き上がるの身体。
部屋中に広がる凍気・・・
そして・・・・
「フリージング コフィン!!!!」
ピキィィィィィ
の身体の回りに決して解けることはない氷の棺
カミュは一筋の涙を流した。
いつか・・・・
貴女が目が醒めた時には
その病は治るだろう・・・・
その長い眠りの間・・・私はきっと甦る・・・
そして貴女をもう一度この腕に抱いて囁くから・・・
愛していると・・・・