氷のようだと…
皆が私の事をそう思っている。
だけど…貴方は違っていた。
二人が揃えば…きっとこの氷は溶ける…



「ダイヤモンド…ダスト…」

そう呟くと、手のひらに無数の氷の結晶が生まれる。
その結晶一つ一つが意思を持つかのように目の前のモノに向けて放たれる。

「……お前、凄いな。」

声を掛けたのはミロだった。

「………別に。」

ミロが声を掛けた女…彼女の名は
まだ聖闘士ではないが、彼女は氷の技をいくつも使える。
は声をかけるミロをじっと見ている。

「俺の顔に何かついているのか?氷の姫君?」

その言葉に一瞬反応する
しかし、はっきりと表に出すことはない。

「お前さ、もう少し感情を出したら可愛いのに…」

ミロはの心境に構わず言葉を続ける。

「サガも言ってたぞ?は氷のような女だって。」

はその言葉を聞いた瞬間、ミロに刺すような視線を送る。

「……あっ、いや。そんなお前が聖闘士になったら敵も早く倒せるだろうなという話を…」

ミロは懸命にフォローするが、の視線は止まない。

「…ったく、本当に氷のようだな。」

「………特に用件がないのならこれで失礼致します。」

ようやくの口から出た言葉。
ミロに対してきつく言うことが出来るわけがない。
相手は黄金聖闘士なのだから。
はそれだけ言い放つと、ミロに背を向けた。
残されたミロはふっと笑うと宝瓶宮の方へと向かって歩き出した。





『氷の姫君』



それがを指す名になったのは昔からだった。
自身が知らないうちに使えるようになった氷の技。
これと同じことが出来るのは聖闘士だと教えられた。
そして、アテナに見出された彼女は聖闘士候補として聖地にいた。
しかし、は仮面をしていなかった。
理由はアテナの一言。

『貴女がもし素顔を隠したくないと言うのであれば、仮面をつけなくてもいいのです。』

その言葉に素直に応じた
例え仮面などつけても、自分という存在が変わる訳ではないし、ならばそのままにしたいと思ったからだ。

「…………」

はふと視線を感じ、その場で立ち止まる。
視線と僅かに感じる小宇宙。

「………フリージング…」

「…いきなりその技はないのではないか?」

その声と同時に小宇宙がはっきりしたものになる。

「……カミュ…」

が口にしたのはアクエリアスのカミュ。
自分と同じ技を使う黄金聖闘士。

「…ミロに会った。どうしたのだ?いつものお前らしくない。」

カミュはそっとの頬に手を添える。

「…氷の姫君」

「と言われて腹が立ったのか?」

カミュの言葉には黙ったまま。
カミュはふうとため息をつくと、の頬に添えていた手を離した。

、私は本当のお前を知っているから言う。」

はカミュの目を見つめた。
緋色の瞳に吸い込まれそうだ。
はそう思いながらカミュの言葉に静かに耳を傾ける。

「氷の技が使えるからといって、感情を殺す必要などないのだ。」

「……うん」

「私は氷河たちに常にクールであれと教えている。私自身も常にクールでありたいと思う。だが…」

カミュはそう言ってを抱きしめる。

を見るとクールではいられない。」

はカミュの腕の中で何故か安心していた。
いや、カミュの温もりだからこそ安心できるのだ。

「カミュ…溶かして…」

はカミュを見上げる。
カミュは微笑むとそっとにキスをした。

「んっ…」

優しく、甘いキス。
にとって本当の自分が出せるのはこの瞬間だけ。
カミュといるこの時間だけが、を本当の姿に戻してくれる。

…私は本当にお前を愛している。」

カミュは今まで、そんなことを口にしたことはなかった。
カミュの言葉に驚く
そんなを見てカミュはふっと笑う。

「どうした?何か珍しいことでもあったか?」

「初めて…言われた…」

の瞳には涙が溢れている。
その涙を拭うように、カミュはキスをした。

「カミュ…私…氷の姫君って呼ばれるの…嫌いじゃない。」

「どうして?」

「だって…水と氷の魔術師の一番近くにいても…違和感ないでしょ?」

がそういって微笑む。

「初めてだ…」

カミュはがこんなに優しく微笑んでいるのを見たことがなかった。

「?」

が首をかしげると、カミュはを抱く腕に力を込めた。

がそんな風に笑うのを見たのは初めてだ。」

「私だって…笑う…でも…カミュだからかもしれない。」

カミュの背に手を回しながらを言った。

「ならば、その笑みも…自身も…私だけのモノに…」

カミュはに深くキスをした。
そして

「…ミロに何か言われそうだ。」

と。

「ミロはああ見えてに好意を抱いているようだったからな…」

「…私はカミュしか見ていない。」

「そうだろうな。あの時も…」


初めて出会ったとき。
アテナの御前だったが、その時からはカミュを見ていた。

自分と同じ技を使えるヒト。
このヒトなら分かってくれるかもしれないと…

それは、カミュも同じだった。

この娘は自分と同じ技が使える。
そして自分の側にいても一番理解してくれるのではないかと…


「カミュ?」

不意にに声をかけられた。

「あっ…ああ。」

「思い出してたの?」

と初めて出会った時から、私は惹かれていたのかもしれない。」

カミュはの温もりを感じながら呟く。

「そうか…カミュなら私を分かってくれるって…」

なら、本当の私を理解してくれるだろうと…」

ふたりは顔を見合わせて微笑む。
そして…


「さっき言ったこと、嘘ではないからな。」

「?」

「私がを愛していることだ。」

「うん…私もカミュを愛している。」

「…今日は眠れなさそうだ…」

カミュはを抱き上げる。

「どういうことかしら?」

意味を知っているのにはいたずらっぽく笑いカミュに問う。



「クールではない私が見れるのはだけと言うことだ。覚悟しておいてもらおうか?」


カミュの言葉にクスと笑う
はしっかりカミュの首に手を回していた。
そんなを見て微笑みながら宝瓶宮へと連れ帰るカミュ。


二人の恋は今本当に始ったばかり…
氷のような二人が熱くなれる瞬間…
それは二人が揃うことで初めて…