君がいてくれたから
私はこんなに強くなれたんだ
知ってるか?
君が私の側からいなくなってから
いつも君の姿を探している事を・・・
何気ない物音に、
他愛もない女官達の声にも
君の姿を探しては
もうこの手に抱く事は出来ないのだと
拳を握りしめた。
愛していた
愛している
たったそれだけの事だった
だけど
たったそれだけの事が出来なかった
私はあれからずっと君のいるこのアテナ神殿の像の前で
君の小宇宙と話をしている
『今日は寒いわね』
「そうだな」
『みんな元気?』
「元気だ・・・昨日は双子が大喧嘩してな」
『いつまでたっても子供なのね』
「あれは仕方なかろう・・・」
『貴方のお友達の蠍座の子は?』
「あいつは毎日宮に来ては、騒いで帰る」
『ふふふ』
「まったく・・・暇な奴だ」
『でも嬉しいんでしょ?貴方、そんな顔してるわ?』
「だが・・・君がいない」
『・・・・・・』
「君がいないんだ」
『ごめんなさい・・・』
「謝る事など・・・謝るのは私の方だ・・・」
そう言って、私は声をかける。
愛しい女性が自ら望んだとはいえ
これは残酷すぎる・・・
永遠の時の中で
動く事も出来ず、石造として生きながらえなければならないとは・・・
『私はずっと貴方を見てるわ。この聖域を見渡せるこの丘で』
「ああ・・・」
『そろそろ帰らないと』
「そうだな」
『愛している、水瓶座』
「私もだ・・・ニケ・・・」
『いつか・・・また出逢えるわ』
「そうだな・・・私の魂はいつも貴女の側に・・・ニケ」
はっとして目が覚めた。
カミュは深紅の髪を掻き上げると、手元にあった水差しから水を飲む。
最近よくこんな夢を見るようになった。
あれはきっと神話の時代の事なのだろう。
聖域と言っても、まだ美しく、現在のような感じではない。
草花が咲き乱れ、ニンフと思うような女官がせわしなく動いていた。
「アテナの右に必ずある・・・勝利の女神ニケ・・・か」
ふとカミュは連日の夢が気になっていたのか
聖衣を纏うと、深夜にも関わらずアテナ神殿へと向かった。
さすがに黄金聖闘士なだけに、
アテナ神殿へはスムーズに行ける。
カミュは神殿の奥、アテナ像の前にくるとそれを見上げる。
ふと視線を感じ、見上げた先はアテナの手に乗せられている女神だった。
ひらひらと見える白い衣にカミュは飛躍するとその姿を確認した。
「!!!」
「あ・・・きゃぁっ!!」
突然現れたカミュに驚いたのか
その人物はニケの部分から落ちそうになる。
カミュが手を伸ばすと、人物は二コリと微笑みながら
カミュの手をとる。
その瞬間、またカミュの脳裏に先ほどまで見ていた夢が
フラッシュバックしてくる。
『この感覚・・・どこかで・・・』
「あなたは・・・カミュ様!?」
「か。」
その手を引き寄せながら、カミュはストンと着地する。
自分の宮に仕える女官であるが、何故こんな夜更けにここにいるのか。
カミュはそれを問おうと思っていたのだが、
は、じっとカミュを見つめるとふっとアテナ像を見上げた。
「こんな時間に何故・・・いや、その前にどうやってここへ来た」
「・・・呼んでいたのです」
「何?」
「あの首のない・・・アテナ様の右手にある・・・勝利の女神が。」
「・・・・・っ」
またカミュの脳裏にあの姿が浮かぶ
「・・・君は・・・一体」
「・・・・・・・」
「・・・・ニケ・・・・なのか?」
は黙ったまま、小首をかしげながら微笑む。
「・・・何故・・・」
『いつか・・・また出逢えるわ』
その言葉を口にしたにカミュは驚きの表情を浮かべる
「私の小宇宙はアテナ様の元へ・・・そして私の魂は貴方の元へ・・・」
「!!!」
「幾年月、魂の廻る世界の中、私はずっと貴方の側におりました。」
「なっ・・・」
「貴方が思い出してくれるまで、何度も転生を繰り返しながら」
「・・・本当に・・・・」
「『私の魂はいつも貴女の側に・・・』そう言ってくれた貴方の言葉を忘れた事はありません。」
「本当に・・・あれは夢では・・・」
「きっとアテナのお力ですかね?」
「アテナの?」
「はい。遠き神話の時代、あの方が人として転生された折・・・」
『ニケ、貴女には感謝しています。』
『アテナ様』
『いつも私の側でその勝利を確実にしてくださいました。』
『はい。』
『私は・・・人界に降下します。』
『何を!!』
壮大なオリュンポスの神殿から人界を見つめながらアテナは言葉を続ける。
『私は・・・貴女に酷な事を言っているようですね』
『いいえ、アテナ様。わたくしはいついかなる時も貴女様のお側に。
その右の御手におります。』
『しかし・・・』
『この姿では無理でしょう・・・ですからわたくしは貴女様の右手に。黄金の錫杖として・・・』
そう言うとニケはその体から黄金の小宇宙を溢れさす。
まばゆく光った後には、アテナの右手にしっかりと錫杖がもたれていた。
『ニケ・・・』
涙を流すアテナに杖から小宇宙が溢れる
『アテナ様、泣かないでください。』
『しかし、貴女には・・・』
『分かっております。わたくしもあの方も、全てはアテナ様の為にいるのですから』
その後、アテナは自身の神衣を巨大なアテナ像とし、
ニケもその神衣の一部としたのだった。
『ニケ・・・貴女の小宇宙は確かに私が頂きました。ですが魂は自由に・・・』
「そんな事が・・・」
「カミュ様、貴方はあの時の水瓶座と同じ魂をお持ちになっている」
「私が・・・だから」
「ようやく思い出されましたか?」
「ああ、私はニケを愛していた。そして・・・ニケの転生した貴女を愛している」
ようやく巡り逢えた
探し逢えた愛しい存在のの体を
そっと優しく抱きしめるカミュ。
はくすりと笑うと、その逞しい体に腕を回す。
「カミュ様、ようやく逢えました」
「ああ」
「愛しい水瓶座の君・・・・」
「愛している、。待たせてすまなかった」
そう言ってカミュは近くに咲いていたをに摘んで渡す。
「貴女が好きだっただ・・・私もこの花が好きで・・・通じていたのだな。気付かなかっただけで」
そのを手にとりながら、は微笑む。
そしてゆっくりとカミュとの影が重なった。
もう二度とこの温もりを離さないと誓って・・・