最近デスマスクの様子がおかしいと、同僚は話していた。
普段は女遊びの激しいデスマスクが、ちっとも女の話をしてこない。
まして、夜の街に飲みに行こうという誘いすら断る。



「一体何があったんだ?」

シュラとデスマスクに教皇から任務が降りた。
最近のデスマスクの行動に興味を持っていたシュラは、
思い切ってデスマスクに尋ねた。

「ああ?何がだ?」

デスマスクは煙草を吹かしながら答える。

「最近、お前ちっとも遊ばないじゃないか。」

「ああ。」

「・・・・・・・・・恋人でも出来たか?」

「ああ。」

ゴンっと柱にぶつかるシュラ。

「大丈夫か?」

デスマスクは笑いながらシュラに手を貸した。

「真顔でお前が答えるから驚いた。」

「悪かったな・・・」

「どんな女だ?お前をそこまで尻に引く女は。」

シュラはくすくすと笑いながら聞く。
デスマスクは少し悲しげな表情で答えた。

「病弱な女さ。俺がいないと・・・駄目なくらい。」




彼女の名はという。
偶然、街のカフェで知り合って、
何度か逢う内に付き合うようになった。
その時から、は病気がちでよく病院に行っていた。
はどんな苦しいときもデスマスクの前では笑う。
優しい微笑で、デスマスクを癒してくれる。
そんなが愛しくてたまらない。
なのに、の病気は悪くなっていき、
今では起き上がることすら出来ない。




デスマスクはその事をシュラに話した。

「酷いのか?」

「ああ、手の施しようがないんだと・・・」

それっきりデスマスクは口を閉ざした。
シュラはそんなデスマスクを見て淋しそうに微笑む。

「・・・そうか。悔いが残らないようにな・・・」

そう言ってデスマスクの肩を叩く。
デスマスクも少し微笑んでシュラの肩を叩いた。

「さて、任務と行きますか?」

「ああ!」

そして、シュラとデスマスクは任地へと赴いた。





目の前には真っ白い壁。
自分の腕には何本ものチューブがある。
息をするのが酷く辛い。
身体は必死に空気を取り入れようとしているのに、
肺にちっとも入ってこない。

「・・・はっ・・・はっ・・・」

何か話さなきゃいけないと、は口を動かした。
苦しさが増していく。

「デ・・・ス・・・」

はゆっくりと辺りを見回した。
でも、そこには誰もいない。

「逢い・・・た・・・い」

今頃デスマスクは任務の途中のはず。
いくらなんでもここには来ない事をは十分承知していた。
こんなに苦しいのは初めて。
もしかしたらもう終わりなのかな?
病気が酷くなってから、は気弱になっていた。

「逢い・・・たい・・・よ」

自然と涙が零れる。
自分がこんなにデスマスクの事を愛しているなんて気付かなかった。

っ!!!!」

突然、部屋のドアが勢いよく開かれる。

「デ・・・ス?」

は茫然とデスマスクの方に顔を向ける。

、もう大丈夫だ!」

デスマスクはしっかりとの手を握る。
一瞬、は幻かと思ったが、その手の温もりは
確かにデスマスクのモノだった。

「会いた・・・かった」

「何泣いてんだ?」

「だ・・・って・・・逢いたく・・・て」

デスマスクはの体温が異常に低くなっていくのに気付く。
同時にの呼吸が乱れていく。

「おいっ!!!苦しいのか!?」

「だ・・・い・・・丈・・・夫・・・」

はそう言って微笑む。

「少・・・し・・・眠・・・い・・・の」

「寝るなっ!」

デスマスクがそう言って強くの手を握る。
しかし、の瞼は少しづつ閉じられていく。

「お願いだ!俺を見てくれ!」

「見・・・てる・・・デス・・・」

「目を開けて・・・俺を見てくれ!!!!」

もう一度、は目を開けた。
本当は重くて仕方ない瞼。
それでもデスマスクの言葉に答えようと必死に開ける。

!お前を愛しているんだ!だから・・・」

「嬉・・・しい・・・」

はデスマスクの手を握り返した。
そして・・・

『愛し・・・て・・・る・・・わ・・・デスマ・・・スク』

唇だけ動かした。

?」

そのまま、は大きく息を吐くと静かに瞳を閉じた。

ーーーーー!!!」

デスマスクはの身体を抱き起こし必死に呼びかける。
しかし、は答えてはくれなかった。
その表情は、優しく微笑んでいた。





・・・お前にこれをやろうって思ってたんだ」

デスマスクはの左手の薬指にそっとリングをはめる。
そのリングにはルビーが埋め込まれていた。

「この任務が終わったら・・・結婚してくれって・・・」

自然と溢れる涙。
その涙がの頬に落ちる。

「愛している・・・・・・だから・・・」

そっとにキスをする。

「もう苦しまなくていいんだ・・・」

何度も何度もデスマスクはにキスをした。

「ゆっくり・・・眠れよ・・・」






それから暫く、デスマスクは落ち込んだままだった。
しかし、仲間の支えでどうにか立ち直っていた。

・・・俺はお前を愛したこと忘れないからな!」

聖地を見渡せる丘の上に、一つの墓標。
それにはデスマスクの最愛の妻と書かれていた。
そして、いつも任務が終わった後訪れるデスマスクの姿があった。

『愛しているわ・・・デスマスク』

あの時のの言葉を胸に、
デスマスクは前を向いて戦い続ける。