幸せな生活ってなんだろう?
小さいながらも自分の家があって・・・
大好きな人と一緒に暮らす・・・
そんな平凡な生活が私の夢です。
そして、私の幸せは・・・
「カノン様?」
双児宮では大好きな恋人に声をかける。
「どうした?」
「うん・・・カノン様の幸せって何ですか?」
の質問にカノンはニコリと微笑む。
そして、を自分の腕の中に包み込む。
「きゃっ・・・」
「こうしてを独り占めする事だ・・・の夢はどうなんだ?」
カノンはそう言いながらの首元に顔を埋める。
「私は・・・好きな人と結婚して、好きな人の子供を産みたいです。」
その言葉にカノンはすっとを離す。
そして窓の外に視線を移した。
「カノン様・・・?」
「俺は・・・子供が苦手だ。」
「・・・・・・・」
「あの純粋な存在を見ると今までの俺が犯した罪を思い出す。」
カノンは少し悲しげに笑う。
はそっと立ち上がり、カノンを後ろから抱き締めた。
「でも・・・それが私の夢です。カノン様。」
「・・・。すまない・・・俺は・・・」
の手をそっと握ろうとしたカノン。
しかし、カノンの手はの温もりを感じる事はなかった。
「・・・?」
「・・・・・・ごめんなさい。」
その言葉と同時には双児宮を駆け出していた。
「!!!」
カノンの手は今度も虚しく空を掴んだ。
はカノンの声に振り向きもせず、ただ走った。
自分はそんなにカノンにとって酷な事を言ったのだろうか?
ただ、自分の幸せを言っただけ。
でもそれに対してカノンは謝った。
それはの想いに対する謝罪。
そして、同時にそれは叶わないという事。
「私、そんなに贅沢な事を言ったのかな・・・」
しばらく走り続けたが来た場所。
そこは気をつけなければすぐに崖の下に落ちてしまうような場所。
だから他の女官は近寄らない。
そんな場所にも少し開けた小さな花畑がある。
カノンもこの場所は知らなかった。
だから、にとってそこは一人になれる唯一の場所だった。
はその場にしゃがみ込んだ。
自然と涙が溢れ出す。
「・・・っく・・・っ・・・」
両手で顔を覆い隠しても、その涙は溢れ出す。
悲しさと後悔。
もしかして自分はカノンに嫌われたのではないか・・・と。
カノンが小さい子を見るたびに悲しそうな目をしていた事を
知っていたのに。
「っく・・・か・・・帰らな・・・くちゃ・・・」
しばらくその場で泣き続けていたが、
気が付くともう辺りは暗くなっていた。
はゆっくり立ち上がると、聖域に向かって歩き出した。
しかし・・・
「きゃぁぁぁぁ!!!」
双児宮の入り口ではカノンが柱にもたれて立っていた。
「・・・俺は、何をしてるんだ」
呟く言葉は、カノン自身への疑問。
どうしてあんな事を言ったのか。
はただ自分の幸せを教えてくれただけなのに。
確かに子供は苦手だと思っている。
でも・・・
はずっと幸せになりたがっていた。
「本当は・・・」
その時、カノンの脳裏に声が響く。
『きゃぁぁぁぁ!!!』
「・・・・・・!!!」
カノンは駆け出していた。
が走り去った方向へ、全速力で。
(!何があった!!!)
嫌な予感だけがカノンを支配する。
カノンはその予感を振り払うように必死にの小宇宙を探した。
しばらく走ると、愛しい小宇宙を見つける。
その場所は、崖の下にある小さな洞窟だった。
「!!!」
「カ・・・ノン・・・様?」
カノンの目の前には、
壁に寄りかかり弱々しく自分を見つめるの姿。
「大丈夫か!!」
「ちょっと・・・ドジっちゃいました。」
そう言って微笑むにカノンは駆け寄り抱き締めた。
「怪我は!!」
「足を捻ったのと・・・少々打撲が・・・」
身体を動かすと痛いのだろう。
時折は小さなうめき声を上げた。
「俺があんな事を言わなければ・・・」
「違います。慣れている場所だったから・・・つい」
「俺は・・・お前をこんな目に合わせたかったんじゃない・・・」
「カノン様?」
の頬にそっと手を当てるカノン。
「俺は・・・ただお前を幸せにしたかっただけだ・・・なのに」
「いいんです。」
「?」
「本当は、カノン様の幸せが、私の幸せですから・・・」
そう言って微笑む。
カノンはゆっくりとを抱き上げた。
「帰ろう・・・」
それに頷く。
視線はまっすぐ前をみているカノン。
カノンはの身体に負担がないように
ゆっくりと歩く。
は、そんなカノンの優しさがとても嬉しく感じた。
「・・・カノン様、私、何か今、幸せです。」
の言葉にふと歩みを止める。
そして、視線をに移した。
「何故だ?」
「だって・・・カノン様がいるから。」
「ああ。俺も、幸せだ。」
「どうしてです?」
は優しい微笑みを浮かべながら聞いた。
「を失わずにすんだ。俺の腕の中にいるからな。」
カノンも優しく微笑みを返す。
「もっと・・・幸せにしてやるさ。」
「はい。」
そしてゆっくりとキスを交わす。
カノンは耳元でそっと呟いた。
その言葉には顔を赤くしながらも頷いた。
『愛している・・・だけを』
本当の幸せは貴方がいることです。
そして、貴方が私を見つめて、触れて
愛してくれることです。