どんなに叫んでも貴女は私の所へ還っては来ない。
この想いは行き場を失っている・・・

あの時、引き止めておけばよかった。
同じ聖闘士だから、戦いで死ぬ事がある。
それはお互い十分理解していた。

だから、俺が任務でいなくなっても・・・
貴女が任務でいなくなっても・・・
連絡がつかなくても・・・

還って来る事を信じていた。
生きて・・・・還る事を・・・
いつもそうだったから。


そう言えば、あの日の貴女は素直だった。
俺が嫌がることを何もしなかった。





『ねぇ、もっと愛してるって言って?』

『どうしたんだ?』

『ねぇ・・・聞きたい。』

『どうしたんだ、急に・・・らしくない。』

『そうかな・・・カノン。』

『ああ、本当にどうした。何か不安なのか?』

『不安はいつも。だけど、たまには聞きたいじゃない?』

そう言って微笑む
カノンはふっと笑い、を優しく抱き締める。

『俺の想いはいつも伝えているだろう?』

『態度じゃなくて、言葉で聞きたいんだよ。』

『恥ずかしくて言えるか・・・』

『・・・・・・くすっ』

『なんだよ。』

『やっぱりカノンだなぁって。いいよ、無理強いはしない。』

そう言ってカノンの胸に顔を埋めた。
カノンはの顎に手を添え、顔を上げさせる。

『・・・・・・ん』

『・・・・・・・・・今日はやけに大人しいじゃないか?』

唇を離し、カノンがニヒルに笑う。
はふっと笑い、カノンの唇にそっと人差し指で触れた。

『たまにはね。』







あの後、俺達は別々の任務で逢えなくなった。
俺が聖域に戻ったのは4ヶ月後。
その時、貴女は還ってきているはずだった。
俺の任務より、早く終ると言っていたから。





『う・・・そだろう?』

『・・・・・・・・・本当だ、カノン。』

『おい!サガ、また何の冗談だ!?』

カノンはサガの両腕を掴む。
かなり力が入っていたが、サガは顔を逸らして言う。

『冗談で・・・言えるはずなかろう・・・』

『嘘だ!!が・・・死ぬなんて・・・』

『カノン、現実を受け入れろ!』

『何故だ!!!!!』

サガの両腕を掴んだまま、カノンは床に座り込む。

ポタッ・・・・・・ポタッ・・・・・・

床に落ちる雫。
サガはカノンと同じように床に座った。

『・・・・・・カノン。』

『・・・・・・ど・・・うし・・・て』

『・・・・・・私が聞いた話では、仲間の聖闘士を庇って・・・』

『うっ・・・・・・サガ・・・・・・』

『なんだ・・・・・・』

は・・・』

『アテナの元にいる。アテナが見送りたいと仰ってな。』

そう聞くと、カノンは走り出していた。
アテナ神殿では、アテナとアフロディーテがを清めていた。

『アテナ・・・アフロディーテ・・・』

『カノン・・・・・・』

『・・・・・・もうすぐ清めは終るよ。』

アフロディーテはそうカノンに告げる。
アテナはの髪を梳くと、そっと奥の間に行った。
すれ違いざまにカノンにそっと告げる。

『カノン・・・今は、気の済むまで泣いておあげなさい。』

そう言うアテナの瞳には涙が溢れていた。
アテナにとって、は親友であり
かけがえのない命持つ聖闘士だった。

『アテナ・・・』

アフロディーテは、に化粧をしていた。

『さぁ・・・終った。・・・・・・カノン。』

『・・・・・・・・・』

『綺麗だろう?』

『ああ、綺麗だ・・・』

『・・・・・・私は双魚宮に戻るから・・・』

『ありが・・・とう・・・』

『礼などいらないよ。私だって・・・アテナと同じ想いだからね。』

アフロディーテにとっては妹の様な存在であった。
それをカノンは知っている。
アフロディーテは、カノンの肩を軽く叩き戻っていった。
アテナ神殿にはもう誰もいない。


・・・あの時ちゃんと言ってやればよかったな・・・』

そっとの頬に手を添える。
その身体にもう温もりはなかった。

『・・・・・・。』

カノンはの唇にそっとキスをした。

『愛している・・・。』



もう俺の声は届かない。
それは分かっている。

だけど、伝えたいと想った。
この想い。

墓所に眠る貴女。
その前で膝をつき、涙する姿を貴女は笑うだろうか?

それでも構わない。
それほど、俺は貴女を愛しているのだから。
この想い、冥界まで持っていく。
そして、もし、そこで逢えたのなら・・・

今度は離しはしない。
そしてずっと囁き続ける。


愛していると・・・