どうすればあいつを振り向かせる事が出来るのか

いつも いつも あいつの事ばかり考えている。

だけど、俺は俺らしく・・・結果は・・・




双児宮の奥にあるプライベートルームで

カノンは煙草をふかしながら、何もない天井を仰いだ。

サガの趣味であろう、ギリシャ神話をモチーフとしたタペストリー

木目を基調としたテーブルに、濃紺のソファ

そのソファに横になりながら、カノンは苦笑していた。




「で、今日はカノンが来ているの?」

「ああ、。どうだ?食事でもしていくか?カノンも喜ぶだろう。」

「じゃぁ、そうしていくよ。久しぶりだし、作ろうか?」

「それは私も嬉しいな。」



ふとプライベートルームのドアが開いた。

カノンは、教皇補佐の正装をしたサガと

その隣にいたと呼ばれた女性に視線を移す。


「カノン!!また寝煙草なぞして!!!」

「ああ?」

「お前は少しはこのサガの弟であるという事を自覚し、生活態度を改めようとは思わんのか!!」

「ああ、はいはい。悪かったな〜出来の悪い弟で」

「全くだ!どうしてお前のような愚弟がいるのか…」

「そこまでになさいよ、サガ。カノンもそういう言い方しない!」


二人の争いを人差し指をピシッと立てて仲裁する

サガもカノンも目を合わせてからの方を見る。

いつもいつもこの二人の面倒を見てくれるだからこそ、

二人はケンカをすぐに辞める事が出来るのだろう。


「さ〜てと、なら私は三人分の食事でも作ろうかな?」

「私はとりあえず着替えてこよう、おい、カノン」

「何だ?」

の手伝…」

「手伝いだろ?わーってるさ」


そう言うと早く行けと言わんばかりに手をヒラヒラとさせる。

サガはふんと鼻で笑うと、自室へと向かっていく。

カノンは、そんなサガを横目で見ながら、の手伝いにキッチンへと向かった。


「あ、カノンが手伝ってくれるんだ〜」

「何だ、嬉しくないのか?」

「そんなんじゃないけど、カノン、料理上手じゃないの」


そう言いながらニコニコと手際よくサラダを作って盛り付ける。

カノンは、メインになる魚介類のソテーに合うようソースを作っていった。

芳しい香りが充満していくキッチン。

カノンはふっとを見た。

横から見る顔は本当に自分と同じ年なのかと言わんばかりに幼さが残っている。

しかし、その奥にすでに覚醒しているであろう『女』をカノンは見出していった。

ふとその視線に気がついたのか、が手を止め、カノンを見た。

一瞬高鳴る心臓の鼓動にカノンはそれこそ表には出さなかったが動揺に近いものを感じた。


「カノン、私の顔になにか付いているの?」

「いや。違う。」

「じゃぁ、何?相変わらず不細工だって言いたいの??」

「い、いや、そうじゃなくて・・・」

「じゃぁ何??」

「あああああああ!!」


カノンは自分の頭を掻きむしりながら声を上げる。

はその様子にクスクスと笑っていたが、ふと感じた温もりに完全に静止してしまった。

自分の唇に重なるカノンの唇。


「・・・・・・っ!」

「・・・・・・・・・・・すまん」


小さく呟き、に背を向けるカノン。


「お前は俺じゃなくて、サガの方が好・・・!!」

「・・・・・・ばぁか・・・・・」


本当に聞こえるか聞こえないかの声。

その言葉と同時に、背中に感じる温もり。

今度はカノンの方が静止してしまった。


「私が、サガにずっと付いていたのは・・・・カノンが好きだからだよ」

・・・本当か?」

「嘘付いて・・・どうすんのよ」

「は、ははは」

「嘘だったら悲鳴上げてサガ呼んで、異次元にでも飛ばしてもらってる」

「・・・・それは勘弁してくれ・・・」


そう言ってカノンはぐいっとの腕を引き、己の胸の中へと誘い込んだ。

抱きしめたの身体はいつも見ているのとは全く違って、

とても華奢で、そしてとても温かく感じた。


・・・」

「はい?」

「その・・・なんだ・・・俺と付き合え」

「くすくすくすくす・・・言葉と行動が伴っていません」

「・・・・結果オーライという奴だ。」

「もう、強引だね」

「嫌いか?」

「ううん、そんな強引なところも好きよ。でも・・・」

「でも?」

「デっちゃんとかと遊びに行って他の女の人の香りなんかつけてきたら・・・」

「・・・・きたら?」

「サガのものになっちゃうからね!」

「!!!」

「そうならないようにしてよね?」

「ああ、アテナに誓って」


そう言ってカノンはもう一度、今度はゆっくりとにキスをした。

俺はサガとは違う。

だから俺は俺らしくしていればいいんだと自覚した瞬間だった。

そうすれば多分、愛する人は振り向いてくれるんだと・・・

ただ一つだけの誤算・・・

それはダイニングへの扉の前で、腕組したサガが二人の会話を聴いているとは知らなかった事・・・




2010.8.24