逢いたいと…
貴女に逢うために、こうして生きている…

ミロは自室で物思いに耽っていた。
考える事はただ一つ。
どうすればこの想いに終止符が打てるのか…
いや、答えは簡単だった。
しかし、自分の立場がそれを拒絶していた。
黄金聖闘士…
いつか、この身体は戦場で散るだろう。
だから悲しませたくない。
そう思って、距離を置いた…


「……お前に逢いたい…」
ミロはテーブルの上のコーヒーに口をつける。
そして、ため息を一つこぼした。



『ねぇ、ミロ!あたし、ずっとミロの側にいたい!』

『ああ、俺もだ。の側にいたい。』

ミロはの身体をそっと抱き寄せる。
そして交わされるキス。

『大好きだよ…、ミロだけが好き。』

はそう言って微笑む。
ミロも微笑んでを抱きしめ直す。
そうして日々が過ぎていった。
しかし、ふとミロは思った。
この幸せが崩れた時の事を。

は気丈そうに見えて本当はか弱い。
人一倍淋しがり屋で、繊細な精神の持ち主だ。
そんな彼女を置いて、もし自分が死んでしまったら…

そして、距離を置いた。
彼女とは任務のこともあって半年以上あっていない。
還ってきてから一度だけ手紙を書いた。



『君の為に…もう逢わない方がいい。
 俺は聖闘士だ。
 だからいつ死ぬか分からない。
 俺が死んだ後、悲しむの姿を想像したくない』



そういった内容だった。
正直、後悔している。
この手紙の後、の噂は聞かない。
きっと穏やかな生活をしているのだと、ミロはそう思っていた。

「ミロ…少しいいか?」

「カミュか…」

カミュはミロの前に座り、神妙な面持ちでいた。

「どうかしたのか?」

のことだ。」

一瞬、さっきの言葉を聞かれたのかと思った。
目を見開くが、すぐに元の顔に戻した。

が…どうかしたのか?」

「お前、にもう逢わない方がいいと手紙を書いてたそうだな」

「ああ。その方がの為になると思ってな。」

「そのなのだが…ずっと臥せっている事を知ってるか?」

「なっ…」

「ふっ・・知らなかったようだな…」

カミュは終始ミロの目を見て話をした。

「…いつから…いつからだ!カミュ!!」

「半年前からだ。…食事も殆ど取っていないようだな。」



半年前だと!?
俺がに手紙を書いた頃じゃないか。
その時からずっと…



ミロの頭の中には、幸せそうに笑うしかいなかった。
その彼女が…
自分の責任だ。
が弱い事を知っていたにも関わらず…
突き放して…後悔して…


「…なぁ、ミロ。」

「何だ…」

「俺達は聖闘士だ。いつ死ぬか分からん。」

カミュは微笑んでいた。

「が…一人の女を救う事で世界を救う事が出来るという事もあるのではないか?」

「………」

「いや…たった一人を救う事が出来なくて、世界を救えるのか?」

カミュの言葉を聞いたミロの表情は真剣になっていく。
カミュの言うとおり…
ミロは、立ち上がりカミュの肩を軽く叩く。

「ありがとう、カミュ。知らせてくれて。」

のところに行くのか?」

「ああ、もう迷わないさ」

そう言うミロの表情から陰りは消えていた。
そんなミロを見て、カミュは頷く。

「行って来い、ミロ」

「ああ!」

ミロの背を見送りつつ、カミュはほっと胸を撫で下ろした。

(親友の悩んでいる姿はごめんだ…)

カミュそんな事を思いつつ、自宮へと戻った。











!!」

ミロはの家に入ると、すぐにの部屋に駆け込んだ。

「…………?」

ベッドに横たわるは別人のようだった。
青白い顔…首筋がかなり細くなっている。
シーツに浮かび上がる肢体は…本当に筋肉がついているのかと疑うほど細くなっていた。

…俺だ…ミロだ…」

ミロはそっとベッドの脇に座り、の頬に手を添える。
こみ上げてくる後悔の波に、ミロの瞳からは涙が流れた。
その涙が、の頬に落ちる。

「………んっ……だ…れ…?」

がうっすらと瞳を開ける。
そして…

「ミ……ロ……?」

「ああ、俺だ。……

「ミロっ!!!!!」

はミロに抱きつく。
そのの身体を抱きしめるミロ。

「逢い……たかっ……た…逢いたかった!!」

「すまない…。俺のせいで…こんなに苦しめて…すまない…」

「いい…の…また逢えた…だから…だから…」

はミロの身体にしがみ付いている。
もう離れないで欲しいと…
幼子の様に泣きじゃくる
そんなの姿を優しく見つめ、包み込むミロ。

「もう…迷わない…だから、。もう君を離さない…」

「ミロ…」

「君に書いた手紙…後悔した。月日が経つにつれ…逢いたいと…」

ミロはの髪を撫でながら話す。

「でも、俺からあんな事を言った手前…逢いに来れなかった。」

「あたし、嫌われたと思ってた。でも、ミロは優しいから…あの言葉に託したんだと…別れたいって・・・」

「違う…俺はの悲しむ姿を想像したくなかったんだ。いつ死ぬか分からない俺を好きになってくれて…」

ミロはの首元に顔を埋める。
そして、抱きしめる腕に力を込めた。

「俺のせいで悲しませたくないと…でも本当は違っていたのだな…」

「あたしは…ミロとの時間を大切にしていきたい…もう離れないで…」

どちらからともなく交わされるキス。
二人はずっと抱き合ったままだった。
今までの時間を埋めるように・・・・







その後、はミロの妻になった。
他の黄金聖闘士たちとアテナからの祝福を受け、幸せに過ごした。

がいるから…俺は死なない。…とずっと生きていきたい…』

プロポーズの言葉通り…
どんな戦いの後も、ミロはの元に還ってきた。
そして、二人はずっと仲睦まじく生活していった。