眩暈がする・・・

そう思いながらも今日の執務をこなす為に、は一歩一歩教皇宮へと歩みを進める。

もう少しで執務室へと入るドアノブに手をかけた時、

グニャリと視界が揺らいだ。


「あっ!!」


倒れる!そう思ったのだが、感じたのは堅い床の感触ではなく

代わりに柔らかく温かい感触だった。


「・・・おい、大丈夫か?」

「えっ・・・ああ!!す、すみません、ミロ様」

「お前、具合が悪いんじゃないのか?」

「いえ・・・ちょっと眩暈がするだけです。」


寝不足ですかねっと微笑むに、ミロはじっとを見つめる。


「な・・・何で「お前、熱いぞ?」

「えっ?」

「ほら」


そう言ってミロはの額に手を当てる。

一瞬心臓が高まったは、自分では気付いていない赤い顔がさらに赤くなった。


「やっぱり・・・お前、今日は休めよ」

「え、で、でもサガ様やアイオロス様が・・・」

「いいって。あの仕事馬鹿と筋肉馬鹿はほっとけよ。それよりお前の方が心配だ。」

「ミ、ミロ様!?!?!?」


ミロはそう言いながらにウインクすると、すっとをお姫様抱っこしていた。

そして足でドンと執務室のドアを開けると、教皇席に座っているアイオロスとサガを見る。

サガはそんなミロの行動に眉間にしわを寄せる。


「ミロ、お前、足でドアを開けるなとあれほど言っていただろう・・・ん?」

じゃないか。どうしたんだ?ミロに抱っこされて??」

「お二人さん。コイツ、熱があるんだ。だから今日は休ませてやってくれ」

「それは大変だな・・・うん」


アイオロスは席を立つと、ミロに抱っこされたままのの額に手を当てる。

ほんわりと温かい小宇宙が流れ込んでくる。

心なしか、身体の芯の熱が引いたような気がした。


「ア・・・アイオロス様、すみません」

「いやいや、は仕事が早いし気がきくからサガも俺も重宝してるんだ。」

「そうだぞ?そこのミロなんかよりもずっと仕事が早いからな」

「それはないぞ?サガ」

「現に提出されるべき書類が2日分溜まっているのだが?」


ピラピラと真っ白な書類を手にするサガにミロはうっと小さく呻く。


「ま、あれだ。とにかく今日はは休め」

「で、でも・・・」

「アイオロスの言う通りだ。早く治してまた仕事に復帰してくれればそちらの方がいい」


サガの言葉にはこくりと返事をする。

するとミロはふふんと笑って、ドアの方へと歩いて行く。


「おい、ミロ。お前どこにいくんだ?」


アイオロスの言葉に、ミロは知れた事だと答える。


「今日は俺も休みだ。の看病をしないとな」

「・・・・おい」

「まぁまぁサガ。いいんじゃないか?」

「アイオロス、お前まで・・・」

「ではそう言うわけで、手伝いはカミュにでもさせてくれ。」


そう言うが早いか、ミロはスタスタと執務室から出て行った。


「おい、サガ。」

「何だ?アイオロス」

「あれは絶対だ」

「?」

「お前、分からなかったのか?」

「何がだ?」


書類と睨めっこをしているサガに向かって、アイオロスは頬杖をついたまま答えた。


「あれはミロも恋煩いって病を持った顔だな」


あはははと豪快に笑うアイオロスの声を聴きながら、サガも苦笑するしかなかった。








カツカツカツカツ


「あの〜ミロ様?」

「ん?」

「えっと・・・その・・・降ろして頂けないでしょうか・・・?」

「駄目だ。」

「私、歩けます」

「熱がある」

「・・・・・・・」


は大人しくミロに抱かれたままでいた。

確かに熱はまだあったのだが、そんな事より自分の心臓の鼓動の早さを知られるのが嫌だった。


「なぁ、お前、好きな奴とかいるのか?」

「はぃ?」

「いや・・・」

「??」


天蠍宮への階段を降りながら、ミロはふっと足をとめた。

じっと自分を見つめるミロに、の心臓はますます高まる。


「俺、お前の事が好きだ」

「ミロ様・・・」

「なぁ、俺と付き合ってくれないか?」


ミロの真剣な眼差しに、はふわっと微笑んだ。

そして同時に緊張した面持ちで答える。


「私、ずっとミロ様を・・・お・・・お慕いしておりました」

「ほ、ほんとか!?」


子供のような表情を見せるミロに、自身も少し驚いていた。

こんな顔をされるんだと・・・


「でも・・・ミロ様は私のような者の事など・・・」

「そんな事ない!俺はずっとお前だけ見ていたんだ。」

「ミロ様・・・嬉しいです。」

・・・」

「はい?」

「ずっと呼びたかったんだ・・・」

「はい、ミロ様」

「『様』・・・はなしだぜ?」

「で、でも・・・」

「ミ・ロ・だ」

「は・・・はい・・・ミ・・・ミロ」


それに満足したのかミロはぎゅうっとを抱きしめた。

そして天蠍宮に着くと自分のベッドへ寝かせた。

手の平を額に当て、小宇宙を注ぐ。


「ミロの手は優しい手ですね。とても安心出来ます。」

「そっか?ならずっとこうしているから、少し寝てろよ」

「はい、ありがとうございます。ミロ」


すぐに小さく寝息を立て始めたにミロはくすっと笑うと

そっとまだ熱のあるの額に軽くキスを落とした。


「ゆっくり休んで・・・早くよくなれよ。」