小さな糸を手繰り寄せるかのように、また悪夢に苛む。
そんな時、貴女の声が聞こえる。
「・・・・・・・・・はっ!!!!!」
がばっと起き上がり、胸の辺りをぐっと掴む。
時計を見れば午前3時。
夜明けまではまだ遠い。
「ゆ・・・め・・・・か・・・・・・・・・・」
シュラは、はぁはぁと荒く肩で呼吸しながら、ベッドの近くにあるテープルに手を伸ばす。
そこにおいてあった飲みかけのブランデーを一気に飲み干すと、ゆっくりとベッドへ横たわる。
右腕を額に載せると静かに瞳を閉じた。
「・・・・・・俺は・・・・・・」
「っ・・・・・・・」
息苦しさで目が覚める。
ふと窓から月光が差し込み、テーブルの赤いバラを一層儚く見させる。
同じように儚げに目を伏せるアフロディーテ。
「私は・・・・・・・・・っ!!!」
ガシャンという音と共に、ベッドサイドの花瓶が砕け散る。
床に広がった真紅のバラを虚ろ気に見つめながら、
アフロディーテはため息をついた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・くっ!!!」
寝返りを打つと同時に、目が覚める。
そのまま自分の両手をしみじみと見つめる。
決して汚れているわけではない。
いや、今まで殺してきた血で汚れたその手をデスマスクは見つめた。
枕元においてあるタバコに火をつけ、一口吸いながら、
髪を掻き揚げる。
「・・・・・・・・・俺は・・・・・・」
ふわりと夜風が舞う中、は聖域十二宮の一番上にあるアテナ神殿にいた。
正確に言うならば、そのアテナ像の上。
ニケの隣にちょこんと座っていた。
「・・・・・・また苦しんでるの?」
小さくそう呟く。
「「「!?」」」
それぞれ3人が自宮で気がつく。
「「「・・・・・・」」」
そして同時に同じ名を呼ぶ。
3人はそのままアテナ神殿へそれぞれ向かった。
向かった先、3人が目にした光景はまさに幻想的なもの。
アテナ像の上にいる、女性の姿は、まるで本物のニケのようだった。
漆黒の髪を靡かせ、薄い衣がまるで天使の翼のように宙を舞う。
「・・・・・・」
デスマスクの言葉に、はにこりと微笑むと、トンっと地面へと飛び降りた。
そのをふわりとシュラが抱きとめる。
「ありがとう、シュラ。」
「いや・・・」
そのまま地に降ろしてやると、はくるりと身体の向きを変え、
アフロディーテに向かって優しく微笑みかける。
「今にも泣きそうよ?」
「そんな事はないさ・・・」
そう言うアフロディーテには苦笑すると、すっと3人の間を通り抜ける。
無言のまま、3人に手を差し伸べながら・・・
「たまには・・・私と散歩でもしましょう?」
アテナ神殿から少し脇に入った場所。
そこがの散歩道。
がすっと手を前に出すと、そこに咲く華がぽぉっと輝きだした。
「美しいな・・・」
「ああ・・・・」
「私のバラも見劣りする・・・」
シュラ、デスマスク、アフロィーテはそのまま先を行くの後に続いた。
「ねぇ、もう苦しまなくていいのよ?」
歩きながらが言う。
「貴方達は十分苦しんだ・・・その償いは生きる事。
生きる事は時に死よりも残酷だわ。
それでも人は生きる・・・何故かしら?」
まるで何かの詩を読むようにが囁く。
「きっとそれが償いなのでしょうね。
その人が苦しむ事が・・・・その人が幸せになる事が・・・」
しばらく歩くと、開けた場所に出た。
「ここは?」
デスマスクは辺りを見回す。
こんな場所を彼らは知らない。
「ここは私の秘密の庭。」
はそう言うとすっと歩いて中心部に異動した。
そこへ座ると、3人を手招きした。
3人はの傍まで来ると同じように腰掛ける。
「この場所はこの時間しか見れない・・・いれない・・・幻想の庭。
私だけが知る・・・私の幻想の庭。だから・・・・」
そっと自分の胸に手を当てる。
そして小さく唇を動かした。
「ΑΠελεθερώνει」
次の瞬間、辺りに色とりどりの光が溢れる。
「・・・・・・もう悩まなくていいのよ。シュラ、デスマスク、アフロディーテ。
貴方達はその信念のまま生きていけばいいの。誰かを傷付けずに生きていけたら・・・
それはどんなに素晴らしい事か分からないわ。でもそれは不可能な事よ?
人間として生きているのだもの・・・」
そう言って一人づつそっと触れるだけのキスをした。
「、お前の言うことは分かる・・・だが・・・・」
「そうね、シュラ。貴方達が犯した罪は並大抵のものじゃないわ。」
シュラを優しく抱き締め、その額にキスをする。
シュラはゆっくりと瞳を閉じる。
の体温の心地よさに酔いしれた。
「だったら俺達はどうすればいいんだ?俺達は・・・・」
「慌てなくていいのよ、デスマスク。ゆっくり考えればいいの。」
デスマスクが悲痛な表情で俯く。
はそっとシュラの頭を自分の膝の上へと横たわらせると、
もう片方の膝の上にデスマスクの頭を乗せた。
は同時に自分の背中に暖かな感触を感じる。
アフロディーテはを後ろから抱き締め、
その首筋に顔を埋めていた。
「だが・・・考えれば考える程私の胸は張り裂けそうになる。
・・・苦しいんだ。」
「それでいいのよ、アフロディーテ。その苦しみが生きている証なのだから。
でもどうしてもその苦しみに耐えられなくなったら私を呼んで・・・」
アフロディーテの言葉にはふわりと微笑む。
そして優しくアフロディーテの頭を撫でる。
「その時はまたこの場所で過ごしましょう?
私が歌ってあげるわ・・・・一時だけの幻想を・・・・・・」