死んでもいいと思った。
このまま、貴方に想いを伝える事が出来ないのなら。
貴方に、なじられ続けるのなら・・・





「…サガ、貴方に聞きたい事があるのだが。」

教皇宮でサガは執務に追われていた。
そんなサガに声をかけるのは、水と氷の魔術師。
アクエリアスのカミュである。

「どうしたのだ、カミュ。私に何かあるのか?」

ふと書類を見る手を止める。
カミュは執務室にあるソファにゆっくり腰掛けると、
まっすぐにサガを見る。

の事なのだが…」

「・・・・・・・・・」

「確か貴方たちは恋人だったはず。」

「・・・・・・・・・」

「だが、最近、への貴方の態度は酷いのではないか?」

見ているこちらが辛いほどだとカミュはサガに言う。

「ここ数ヶ月の貴方の態度は尋常ではない。
彼女が何かしたのか?…いや、それはないな。
はああ見えてよく人に気を使い、誰よりも貴方の事を
考えているからな。」

「・・・・・・・・・」

「・・・少なくとも私やミロ、カノンはよくと話をしていた。
だから、少々気になってな。余計な詮索はしたくないのだが・・・」

終始無言のままカミュの話を聞いていたサガ。
すっと立ち上がると、近くの窓に向かう。
そして、窓から12宮を眺めながらようやく口を開いた。

「・・・私はあれが信じられんようになった。」

「何故?」

「・・・・・・噂を聞いたのだ。」

そう言ってその話をカミュにし始めた。


「あれは丁度4ヶ月前の話だ。
他の聖闘士達がについて話をしていたのだ。」






『なぁ、聞いたか?』

『ああ、の事だろ?』

『そうそう。私も聞いたわ。』

『ひでぇよな〜サガ様が可愛そうだぜ。』

『ほんとほんと。』

『だってあんな裏切り者で偽善者のと恋人だって。』

ふとという名が聞こえたサガは、
その話し声の方に小宇宙と気配を消して近寄った。

『だいたいさ、仲間が死んでも涙を流さないんだぜ?』

『うわっマジかよ!!最低だよな!!!』

その言葉にサガは一瞬その聖闘士達に殴りかかろうとした。
だが・・・

『そうそう、しかも一緒に任務に行った聖闘士だけが怪我して、
は無傷でしょ!?何かが自分の盾に使ってるって話よ。』

『うわ〜だからか。あいつだけいつも生き延びてるのは。』

『私、絶対彼女と任務に行きたくないな。』

カサッ・・・

小さく聞こえた草を掻き分ける音に、振り返る。
そこには無言のまま、表情を変えずに彼らを見据えるが立っていた。

『げっ・・・今の話・・・』

『ねぇねぇまずいよ。殺されるかも・・・』

『にっ・・逃げようぜ。』

そう行って走り去る聖闘士達を、は見送る。
そして・・・

『・・・・・・・・・サガ。いるのでしょう?』

『・・・・・・ああ。』

『・・・・・・・・・今の話聞いてたの?』

『・・・・・ああ。・・・・・・お前が・・・』

『何?』

『私はお前が任務に行くたびに気が気ではなかった。
いつもいつも・・・。だから無事に帰ってきてくれて嬉しいとも思っていた。
だが・・・彼らの話を聞いて、・・・・・・私も同感なところがある。』

『・・・・・・』

『どんな危険な任務でもお前は・・・お前だけは傷一つ付いていない。
他の聖闘士が重症でもな・・・。、今の話は本当なのか?』

サガの言葉には全く表情を変えない。
いや、サガが気付いていないだけだった。
の瞳の奥に深い悲しみが溢れている事に。

「・・・さぁ・・・・・・」

「なにっ!?」

「サガ、貴方は私の話と他の人の話、どちらを信じているの?」

「私はっ・・・・・・」

「真実が知りたいだけだ・・・・・・でしょう?
・・・・・・いくら私が真実を言っていてもそれは
所詮私の真実。貴方が信じた方が、貴方の真実。
違って?サガ・・・・・・・・・。」











「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「で、貴方はその後何と言ったのだ?」

カミュの言葉に、サガは視線を向けずに何もと答えた。
カミュはふぅっとため息をつくと、おもむろに一枚の書類を差し出す。

「知っているのだろう?この任務。」

「・・・ああ。本当はシュラとデスマスクで行ってもらうはずだったのだが。」

「そうだ。丁度別の任務があるからと他の聖闘士に任せたものだ。
我々黄金聖闘士が二人がかりで行うはずの任務だが・・・」

そう言ってカミュは立ち上がり、扉に向かいながら歩いていく。

「・・・・・・だからと他2名の聖闘士で行かせたつもりなのだろう?
生憎、この任務先にいるのは一人だ。」

「何っ!!!!!」

「貴方は気付かなかったのか?他の2人の聖闘士が、
今、貴方が話してくれた噂をしていた人物だと。」


パタン・・・・


カミュは静かに部屋を出て行った。
サガはの任務地が書いてあるその書類を見つめた。











「ふんっ!どんな奴が来るかと思ったら、女かよ。」

目の前にはこの地方を脅かし続けた敵がざっと50人ほど。
は、一人でその敵と対峙していた。

「女だからどうするの?」

は仮面の下でくくっと自嘲気味に笑う。
本当は3人で来るはずの任務。
そして本来黄金聖闘士2人が来るはずの任務。
それが、たかだか白銀聖闘士の一人。

「けっ、強気だねぇ〜俺達は
アテナの聖闘士と戦えるだけで満足だがな。」

「そうだぜ、俺達は星座の守護すらねぇが、そんじょそこらの
聖闘士よりは強ぇからな〜いつだったけか。」

「そうそう、お前みたいな白銀聖闘士が5人ほど来たが、
泡吐いて逃げていきやがったぜ。」

げらげらと下品な笑いをする奴らを前に、
は腰に手を当て、じっとしていた。

「・・・・・・・・・か」

ぼそっと呟く。

「んっ??何だって???」

「聞こえなかったのかしら?」

そう言うが早いか、は風のように前に走る。
そして一気に3人を倒した。

「ぐぇっ!!」

「がぁはっ!!」

「ぎゃっ!!!」

ばたばたと倒れる仲間を見て、他の連中がざぁっとを囲む。

「てっ・・・てめぇ!!!!」

「馬鹿だって言ったのよ!!
あんた達なんか相手じゃないの!!!!」

そう言って天高く飛び上がる。
と、同時に彼らに光の雨が降り注ぐ。

!!!!!」

一瞬にして、の周りにいた者は倒れて行った。
すとんと地面に降り立ち、キッと後方を睨む。
そこには・・・手を叩きながら歩いてくる一人の影があった。

「おみごと・・・とでも言っておこうか。」

「貴方ね、この首謀者は。」

「そうだ、私がこの地を統べる者だ。
そして君が水蛇座ヒドルスのか。」

「よくご存知で。でも生憎、この地は女神アテナの加護なしでは
平和ではないのよ。・・・貴方はそのアテナに歯向かう者。
ここで終わりにさせていただくわ。」

はそう言って駆け出す。
だが…

「なっ、早い!!!」

が拳を突き出した先には誰もおらず、
逆に背後を取られてしまった。

「違いますね、貴女が遅いのだよ」

「くっ、きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

背中に直撃する攻撃的小宇宙。
は空中でとっさに体制を整えようとする。
が・・・

「甘い!!」

「うぐっ・・・がっ・・・はっ・・・!!!!!」

ダンッと大きな音が頭の中でする。
の首を捕まえ、容赦なく地面へと叩き付ける。
一瞬気が遠くなるが、それを必死で食い止める。

「ほぉ・・・今までの聖闘士とはちょっと違うようだ。
・・・なかなか面白い。だが・・・これで終わりだ!!!」

「な・・・めない・・・でよ・・・ねっ!!!!!!」

自分の首を掴む手に向かって意識を集中する。
すると、その掴む手の周りに小宇宙が集まる。

!!!!」

小規模な爆発がの首元で起こる。

「ぐぁっ・・・!!!」

「ぐふっ!!!」

は首を押さえ、敵は両手が吹っ飛んでいた。
の首から止め処なく溢れる紅い滴。
それはみるみるうちに足元に血池を作っていく。

「ばっ・・・ばかな!!!」

「何・・・が?・・・これ・・・くらい・・・ア・・・アテナの・・・為なら
な・・・ん・・・ともない・・・わ・・・ぐふっ!!!」

「じっ・・・自分の命が・・・惜しくないのか!!!」

「・・・アテ・・・ナの為・・・地上の・・・為なら・・・惜しくは・・・ない!!!」

薄れ行く意識の中、は必死に小宇宙を燃やす。
そして・・・

「なっ・・・何だ・・・ヒドルスの後ろ・・・あの小宇宙・・・
まっ・・・まさか・・・」

「そう・・・これは水蛇・・・すべての水・・・流を操る水蛇よ・・・
さぁ・・・これで全てが・・・終わる。」

じわりじわりとは前に向かって歩く。

「やっ・・・やめろ・・・」

「この私・・・のっ・・・全ての・・・小宇宙を・・・持っ・・・て・・・
観念・・・なさい・・・!!!!」

今までより大きな光の雨・・・いや豪雨が周辺に降り注ぐ。

「が・・・」

その光を受け、身体が次第に溶けて蒸発していく。
ぐらりと回る視界の中、の脳裏に浮かんだのは
自分が愛した男の姿だった。










「サガ様・・・ど・・・どうか・・・私の話を・・・」

執務室に夕日が差し込む頃、一人の聖闘士がサガを尋ねてきた。
その聖闘士はと行動をしていた聖闘士。
まだ、傷が癒えてないらしく、身体に巻かれた包帯に血が滲んでいた。

「お前はこの前と任務に行った・・まだ動いては・・・」

「いっ・・・いいえ。がいたから・・・これで済んだのです。
がいなければ・・・我々は全員死んでいました。」

「何?」

サガはその聖闘士を寝かせ、話を聞いた。

いつも任務で無茶をしている自分達を護ってくれるのがだと。
そして、彼女が無傷なのは、見せ掛け。
自分の技を利用して、傷が見えないようにしているだけだと。

「本当なのか・・・」

「はい、彼女の力は水を操ります。だから、自分の周りに薄い膜を
作り上げ、我々の眼をごまかしているのです。」

「なっ・・・」

「本当は、我々より、いつもの方が深い傷をおっているのです。
でっ・・・ですから今回の任務も行かない方がいいと・・・で・・・ですが」

はニコリと微笑んで大丈夫だからと。

『今度行くはずの人たちはきっと来ないとは
思うけれど・・・私、そんなにヤワじゃないから。
だから安心して養生して?私も帰ってきたら
今度はゆっくり傷を癒すわ。そうしたら、
一緒に食事にでも行きましょう?』

そう言って任務に行ったのだと教えてくれた。
それを聞いたサガは驚愕すると同時に急いでカミュを呼んだ。
そして、一刻も早く、私との手助けに行ってくれと頼んだ。

「分かった、サガ。急いで行こう。その聖闘士もゆっくり休め。」

「はい・・・サガ様、カミュ様、どうか・・・を・・・」

「分かっている、ではサガ今からわた・・・!!!!!!」

「!!!!!」

「!!!!!」

その場にいた3人はすぐに感じ取った。
の小宇宙が爆発したのを・・・











「・・・・・・・・・あ・・・め・・・?」

重たい瞼を開ける事すら出来ず、は感覚だけで呟いた。

【そ・・・か・・・わた・・・し・・・】

それでも必死に瞼を開ける。
視線の先には、先程倒した者達が冷たくなっていた。

【これ・・・で・・・終わり・・・か・・・】

ゆっくりと瞳を閉じる。
体中の感覚がなくなっていくのが分かる。
首から流れる血も雨で流されていく。

「・・・さ・・・む・・・い・・・よ・・・・・・サ・・・ガ」

!!!」

幻聴が聞こえる。
はそう思った。
愛しい人の声。

ああ、神様が最後に聞かせてくれたのかと思った。
自分の身体がふわりと宙に浮く。
暖かい感触が身体に触れているのがかろうじて分かった。

!!!しっかりしろ!!!!」

「サガ、このままでは・・・」

「分かっている!!!!!!!!!」

サガとカミュが小宇宙をの身体に流し込む。
だが、の血は止まらない。

「ゆ・・・め・・・でも・・・・うれ・・・しい・・・な」

!?」

瞳を開ける事なく、が呟く。

「あ・・・い・・・たく・・・て・・・仕方・・・なかっ・・・た・・・」

「もういい!!!もう喋るな!!!」

サガは必死に小宇宙を高める。
が、の身体はその小宇宙でもどうしようもなかった。

「サ・・・ガ・・・に・・・・逢え・・・て・・・よかっ・・・」

!?」

うっすらと瞳を開け、サガを見つめる。
そして・・・ゆっくりと微かな声で囁いた。

「あり・・・がとう・・・それか・・・ら・・・さ・・・よな・・・ら」

「何を言って・・・?・・・・・・ーーーーー!!!!」

サガはただ抱きしめた。
もう動かないの身体を。
カミュはそんな二人に背を向け、雨を降らす空を見上げていた。

・・・私は・・・私は・・・こんなにお前を・・・・・・
頼むから・・・もう一度目を・・・開けて・・・くれ・・・」

サガの瞳から溢れる涙がの頬にいくつも落ちて行った。

「これが・・・私への罪なのか?・・・お前の事を信じられなくなった・・・
私は・・・私は・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

サガの悲痛な叫びは雨音に消えていった。