色とりどりの花々が咲き乱れるこの場所は、
聖域の双児宮の傍にある。
処女宮の沙羅双樹の園とはまたどこか違う、
しかし、心和むこの場所に彼女はいた。

「・・・サガ?」

かさっと音がして、その方向を見ると、
教皇補佐の衣を纏った人物が歩いてくる。
しかし、その人物にいつもの神々しさはなく、
変わりに自己の欲望を満たさんとする
禍々しい小宇宙が溢れていた。
それは、双子座の黄金聖闘士サガのもう一つの姿。



「・・・ここにいたか・・・。」

「ええ、サガ。こんにちは、いい天気よ。」

サガはズガズガと花々を踏みつけながらの傍まで
歩いてくると、強引にを己の腕に収めた。

「どうしたのかしら?・・・今日はいつになく甘えん坊さんね?」

「ふんっ・・・・無駄口を叩くな・・・・」

ぐいっとの顎を上に上げ、その唇を塞ごうとする。
が、はすっと両手でサガの唇を塞ぐ。

「駄目よ?」

「・・・・煩い。」

「全く、本当、甘えん坊さん。」

くすくすと笑いながらサガの頭をそっと自分の胸に持っていく。

「・・・・・・・・・今日は大人しくしましょう?」

「・・・・・・・・・・・・」

「ねっ?」

ふわりと柔らかく微笑むを見て、サガはフンっといった表情を浮かべる。
しかし、そのまま瞳を閉じて、

「お前が言うなら仕方なく従ってやる。」

と短く・・・素直に答える。

「まぁ、今日はとても素直なのね。嬉しいわ、サガ。」

はくすくすと笑いながらも、そっとサガの漆黒に変わった髪を撫でる。














「・・・・・・お前は何故俺の思う通りにならん・・・」

「ん?しっかりなっていると思うけれど?」

「俺がしたい事をしたい時にさせん・・・いつもいつも・・・」

「くすくすくす・・・」

「何がおかしい・・・」

チッと舌打ちをしてサガはを睨む。
が、その視線をは何とも思っていないのか・・・
ふふっと笑いながらサガを見つめた。

「いえ、貴方の事を止められるのは私だけかと思うと・・・
とても嬉しいと思ったのよ。だってあのカノンさえ、
貴方を止める事など出来なかったのだから。」

「フン・・・・・・」

「ほら、そうやって照れて・・・」

「照れてなどおらんわ!!」

「そうかしら?」

「俺は俺の好きな様にしたいだけだ!」

「ええ、分かっていてよ?」

「・・・・・・、お前は何故俺の傍にいるのだ?」

急にそんな事を話し出すサガに一瞬キョトンとした表情をする
しかし、次の瞬間にはまた優しい微笑みをサガに向ける。

「何故って・・・それはサガ、貴方を愛しているからよ?」

「愛など・・・くだらん・・・・」

「そうかしら?ならば何故、貴方は私の傍にいるの?」

「くだらん事を・・・お前が一番・・・」

「一番?何かしら?」

サガはくっと一瞬言葉を詰まらせる。
しかし、そのままの背中に己の腕を回し、
その首筋に唇を這わせながらぼそりと呟く。

「−−−−−−。」

「んっ?何?聞こえない・・・」

しかし、サガは答えることなく、そのままを押し倒した。
が見上げる先には、紅い瞳をギラリと光らせるサガの視線。

「・・・・・・・・・・・・・・・もう俺を止めるな・・・・・・」

「駄目よ・・・・・・だって・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・何だ」

「貴方は・・・欲が強すぎるんですもの・・・」

「それのどこが悪い。」

「とても悪いわ・・・でもね・・・・・・」

そっと手を伸ばし、サガの両頬に手を添える。
そしてニコリと微笑みながら、サガの顔を近付ける。

「その欲が私だけに向けられているのなら・・・・
たまには許してあげてよ?」

「お前にそんな権利などない・・・・」

「いいえ、あるわ。だって貴方は私の愛しい人なんですもの・・・」

「愛しいなど・・・虫唾が走るわ!二度とそのような事言えぬようにしてやる」

そう言うサガにはふふっと不敵な笑みを浮かべる。

「いいえ、何度でも言ってあげる。サガ・・・貴方も言って頂戴?」

「誰が言うか・・・・」

「貴方の欲を受け入れているのよ?私の欲も受け入れて頂戴。」








そのまま重なる影。
ただ、甘い香りだけが記憶に残った。


互いの欲が果たして叶ったのか・・・・

それはその場の花と二人だけが知っている