「はぁ・・・」

双児宮・・・
今日何度目になるか分からないため息をつくサガ。
デスクには大量にある未処理の書類。

「どうした?」

「・・・・・・ノックもなしに入るなといっただろう?カノン・・・」

「ふんっ、ここは俺の宮でもあるんだ。」

「・・・・・・・・・・」

鼻で笑うカノンにいつもならば罵声の一つや二つ出るのだが、
今日のサガにはそんな素振りは微塵も感じられない。
そんなサガを不振に思う弟カノン。

「・・・・・・らしくないな・・・」

「・・・・・・」

「悩み事か?」

「・・・・・・」

「・・・・・・か?」

「・・・・・・煩い」

そう言って目の前の書類に視線を移すサガ。
その様子にカノンはくくっと笑う。

「・・・・・・何だ、最近逢っていないのか?」

「・・・どこかの愚弟が期日通り書類は出さんは、筋肉馬鹿兄弟が
派手にやらかしたコロッセオの修復は間に合わんは、
おまけに年寄り共の言い争いで教皇の間が破壊されるは・・・・
この状況で私以外誰が処理をするのだ?」

そう言うサガに、カノンは

「はははは・・・・」

と後ずさりをする。
するとサガは何か思いついたのかカタンと席を立つとカノンに歩み寄る。

「なっ・・・何だ、サガ・・・」

ポン!

肩を軽く叩くサガを見やるとそこにはありえないほどの笑み。
同時にユラユラと揺れる蒼銀の髪。

「そうだよな、そうだよ。私でなくともお前でもいいのだよ。」

「サ・・・サガ・・・?」

にこやかな笑みを浮かべつつ小さな呟きは次第に大きくなる。

「そうそう、元はと言えばカノン、お前の不備から始まったのだ。
それを私が優しく丁寧に処理をしていたのがいけなかったのだな。
うんうん。これからはもっと厳しくせねば!そうすれば、お前も私の苦労が分かり、
以後このようなことはしないと思うだろう?それなら私も、もっととの時間が
取れるであろうしな。お前も私の弟だ。いくら愚弟とは言え、甦ったあいあつらや
老人共よりは実年齢的に上なのだし、他の聖闘士に比べれば
いくらかは働けるだろう!」

「おっ・・・おい・・・サ・・・」

「そうそう!それに海界もまとめて来たお前だ。聖域くらいなんともないだろう?
まぁ・・・アテナがああだから多少の問題もあるかもしれんが、そんな事は問題ない!
幸運にもお前と私の体格は全く一緒だ!私の教皇服も着れるだろう。
よし、そうと決まればカノン、服を脱げ!」

そう言ってマシンガントークを終わらせ、サガはカノンの服に手をかける。

「待てーーーーーーー!!!!!!」

そんなカノンの叫びは双児宮から聖域中に響くだけだった。









「はぁ・・・」

「どうした、。」

「あ、シャイナ姉さん・・・」

「浮かない顔して・・・ははぁん、さてはサガだね?」

「ブーーーーッ」

飲みかけのお茶を見事に噴出しつつ、はシャイナを見た。

「あ〜あ〜・・・・ったく、あいつもうちのになんて事を・・・」

そんな事を言いながら、シャイナはテーブルを吹く。

「んーしょうがないよ。」

は答えると、バンっとテーブルを叩くシャイナ。

「いいかい!あたしはあいつがを幸せにするって言ったから
関係を認めてやったんだ。なのに、サガの奴、仕事だ何だと抜かして
ちっとも逢いに来ないじゃないか!全く・・・本当にが大切なんかね?」

と拳に力を込める。
シャイナにとっては可愛い妹みたいなものであった。
またにとってもシャイナは頼りになる姉のような存在だった。

「シャイナ姉さん・・・」

「全く本当に、サガには勿体無い!!
!今からでも遅くはないよ!あたしがもっといい男紹介してやるから!
そうだな・・・ムウはああ見えて腹黒いし・・・・ミロは子供っぽいところがあるな。
かと言って蟹は駄目だし、シュラは・・・・いや、アフロも駄目だな。
・・・・カミュとかはどうだい?あっ、そうか。あいつは弟子を溺愛しているから
サガと一緒だな。アルデバランはああ見えて優しいぞ?カノンは論外!
リアとロスは駄目だな・・・あの筋肉兄弟ならの身体が持たない。」

「シャイな姉さん!!!」

最後の言葉にが顔を真っ赤にして抗議する。
シャイナはくくっと笑って冗談だよと優しくの頭を撫でた。

「あんまりあんたが可愛いからついね。悪かったよ。
でもサガの奴・・・一度シメた方がいいんじゃないか?」

「・・・・シャイナ私が何だって?」

その声には入り口を見た。
そこにはカジュアルスーツを着たサガが腕を組んで立っていた。
全く小宇宙を感じなかったは驚いてサガを見る。
しかし、シャイナは仮面の下で微笑していた。

「サガ!?いつからいたの!?」

「先ほどからだな・・・シャイナが私以外の男の話をしていたとこ辺り。
まあ、シャイナは知っていて言っていたようだが・・・」

そう言って苦笑しつつもシャイナに視線を向けるサガ。
シャイナはくくくくっと笑いながら答えた。

「小宇宙を消してもあたしへの強い視線はあった。
仮にも黄金聖闘士だろう?殺気がバリバリだった。」

「バッ・・・バリバリって・・・」

シャイナの発言にはたじろぐ。
が、すぐに自分の背中に暖かな感触を感じた。

、今から出かけるぞ」

「えっ?ちょぁっちょっ・・ちょっと!!!!」

ひょいっとを抱きかかえてサガは部屋を後にすろ。
その光景にシャイナはくくくっと口元に手を当てて笑った。

【シャイナ、悪いな。だがは私のものだ。】

頭に直接響くサガの小宇宙にシャイナは声を上げて笑った。
そして・・・

【そんなにが大事ならそれなりの事をやんな。
じゃないと本当に誰かに取られるよ?
は人気だからね〜?】

と答え、

「さて、あたしは年寄りの相手でもしに行こうかね」

と支度を始めるのだった。








聖域を出て、アテネ市街にある洒落たレストラン。
サガに途中で買ってもらった薄黄色のクロッカスの刺繍がしてある
白いドレスに着替えた
町を歩く度に痛いほどの視線を感じていた。
何せ、長身長髪美男子と一緒に歩いていたのだから。

「さて・・・」

そう言うとサガはレストランの扉を開けた。
そして何やらウエイターと話をして、奥へと案内された。

「うわ〜素敵なところね。」

「ああ、本当は予約制なのだがな。」

「えっ!?予約してたの?」

「いや。だがここのオーナーとは知り合いでな、顔パスというやつだ。」

そう言ってウインクを一つ。

「・・・・・・・・・///////」

その仕草に頬を少し赤らめるに、サガはにこりと微笑んだ。
しばらくするとテーブルには美味しそうなギリシア料理が並べられる。

「さて・・・私はワイン、は・・・」

「あっ、何でもいいけど・・・甘いのがいいな・・・」

「そうか、ならばロゼを。」

「かしこまりました。」

ウエイターにそう言うとすぐにボトルとグラスを持って注いだ。

こんなに楽しくてドキドキする食事は初めてとは微笑む。
そんなを見てサガも自然と口元を緩ませた。
食事が終わった頃には、もう夜になっていた。
サガはそっとの肩を抱き道を歩いていく。

「ん?サガ、こっち方向違うよ?」

「ああ、いいのだ。」

「????????」

「くくっ、そんな顔をするな。」

そう言いながらサガがを連れてきたのはアテネでも1、2を争う高級ホテル。
しかもここは城戸沙織嬢の配下。

「サ、サガ!?」

「何だ?」

「ここってすっごく高いでしょ!?」

「ああ、大丈夫だ。」

そう笑いながらサガはホテルに入って行く。
多少たじろぎながらもは後を追った。
ホテルの中に入ると、支配人らしき男が頭を下げている。

「これはこれは、サガ様。」

「ああ。最上階は空いているか?」

「はい、そちらのお方は?」

「あっ・・・」

「ああ、私の恋人だ。」

さらりと言いのけるサガには顔を真っ赤にしてサガを見る。

「左様でございますか、オーナーの大切なお方ですね。」

「おっ・・・オーナー!?サガが!?」

今までの恥ずかしさはどこへやら。
サガの腕をぐっと掴んではサガを見上げた。

「ああ、沙織嬢からこのホテルを預かっているのだ。
幸い、私はギリシア出身だし土地勘はあるからな。」

「しっ・・・知らなかった・・・」

「言ってないからな」

「サガ!!!」

「はははははははは。」

「ではオーナー、ご案内致します。」

「いや、いい。何かあったら頼む。」

「かしこまりました。では失礼致します。」

そう言って支配人らしき男は奥へと引っ込んだ。
サガはそっとの腰に手を廻すと、エレベーターに乗る。
部屋に案内されたは目の前の光景に魅了された。
アテネ市街地が一望できる。
思わず窓へと駆け寄り感嘆の声を上げた。

「わ〜凄い!凄いね!綺麗、ずっごく綺麗・・・。」

「だろう?」

そう言いつつ、サガは足音も立てずに後ろからを抱き締めた。
そしてその細い首筋に唇を寄せる。

「サっ、サガ・・・何!?なに!?何か変だよ???」

恋人のあまりの積極的な行動に目を丸くする
そしてマジマジとサガを見る。

「髪は黒くない・・・目も赤くない・・・」

「当たり前だ!!!・・・・、私とて男なのだぞ?」

「ほえっ?・・・・きゃっ・・・・ん!?」

サガはそう苦笑しつつ、の唇を塞ぐ。
そしてそのままを抱きかかえると寝室の方へと歩いていった。

ぽふっ・・・

キングサイズはあろうベッドに下ろされ、はサガを見上げる形になる。

「えーっと・・・あの・・・・」

「何だ?」

「この状況って何でしょう・・・・」

つまりがサガを見上げているということは、
サガがに覆いかぶさるような格好になっているわけで。
サガの海色の髪が時々、の頬を掠めた。

「この状況か・・・・そうだな・・・・」

「んっ・・・くすぐった・・・・・・」

サガはの唇、首筋、胸元にキスをしていく。
そして・・・・


、男が女にドレスを送る意味、分かるか?」

「へっ?」

「・・・・送った相手に着せたドレスを己の手で脱がせる為だそうだ。」

そのサガの言葉に一気に顔が赤くなる
そんなを見てくすくすと笑いながら、サガはの頬にキスをした。

、愛している。」

「ん・・・・私も・・・サガが好き。大好きだよ。」

コツンと互いの額をあわせて微笑む。
サガはの頬に手を添えてもう一度キスをした。
深く甘い・・・それでいてとても熱いキス。










サガとが次の日双児宮に戻ってみると、そこにはたった1日しか
経っていないのに、何週間も寝ていないようなカノンの姿。
あの後、サガに無理矢理仕事を押し付けられたカノンは、
サガの苦労を身を持って体験し、それ以来、素直にサガの言うことを
聞くようになったとか。
サガがカノンから聞いた第一声は

「俺が悪かった、悪かったからもう許してくれ」

だったそうな