本来ならば、『俺』はここにいるべきではないのかもしれない。
いや・・・『俺』こそが本質・・・・
全ては俺の思惑通りに運ばねば気が済まん・・・

だがな・・・・・・

どんなに、俺がお前を・・・・・

などとは・・・・決して・・・・・







涼しげな夜風に蒼銀の髪が揺れる。
その髪と同じ蒼銀の瞳をすぅっと細め、彼女はそこに立っていた。

「・・・・・・・・・誰?」

と呟くと同時にふわりと舞い上がる髪。
それは同時にそこへ訪れた者への警戒心の現われでもあった。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

闇夜に溶け込んだかのような黒い髪。
ギラリと光るその真紅の瞳に苦笑しながらも彼女・・・・は振り返った。

「・・・・・・サガ・・・・・・・・・」

「俺がここに来る事がおかしいか?」

「ええ。『貴方』がいること自体がおかしな話よ。」

真正面から、怖気づくことなく話しかけるに、サガは「ちっ・・・」と舌打ちをした。

「私は『サガ』と約束をしていたはずなんだけど?」

「だから俺が来たではないか・・・」

「いいえ、私はもう一人の『サガ』と約束をしていたのよ?『サガ』、貴方ではなくってよ?」

くすくすと笑いながらもサガの目の前まで歩み来る。
サガは面白くなさそうに鼻で笑うとぐいっとを抱き寄せた。
の身体から香る甘い香りに一瞬目を細めるが、
くいっと顎を持ち上げるとその首筋に唇を這わせた。

「・・・・・・・・・っ・・・・・・」

ちくりと微かな痛みを感じ、は眉間に皺を寄せる。
サガが唇を離すと、そこには紅い華が散っていった。

「くっくっ・・・・・・・・・」

「何がおかしいの?」

「いや・・・・・・・・こうして俺に抱かれようとしているのに殺気を抑えずに抵抗するとはな・・・・・・」

終始殺気を放つに対し、サガも挑発的な笑みを浮かべる。

「だって、私は・・・・・・・・・」

「あいつがいいというのか?・・・・・・・・・お前も・・・・・・・・・」

「・・・・・・別に」

「口では何とでも言えるからな・・・・・・だが・・・・・・
まあいいだろう・・・・・・」

そのままの身体を強く抱きしめながら、その蒼銀の髪を後ろに引っ張る。

「くっ・・・・・・・・・」

目の前にサガの真紅の瞳。
その瞳に満ちた憎悪と欲望に、さすがのもごくりと喉を鳴らす。

「今、ここにいるのはこの俺だ。・・・・・・あいつではなくな。例え、あいつが俺を忌み嫌おうと
間違いなく俺自身なのだ。・・・・・・あいつが普段抑えている欲望・憎悪・ねたみ・そねみ・・・・・・
その全てが俺の糧となっている。」

「そ・・・う・・・・・・」

「あいつが我慢すればするほど、俺の力は強大になる。・・・・・・それはお前も知っているのだろう?」

一瞬、サガの紅い瞳に悲しみが現れた気がした。

「サガ・・・・貴方・・」

「・・・・・・・・・・・黙れ」

強引に唇を塞がれる
しかし、そんな行為ですら、にとってはサガの苦しみの一つにしか取れなかった。


教皇として、人々に崇められ尊敬されるサガ。
教皇の名にふさわしいように振舞うサガ。

しかし、そんなサガも一人の人間なのだから。
普通の人と同じように感情があるのだから・・・・


ただ、サガが人より善悪が極端なだけだという事も知っている。

だから敢えて何も抵抗はしなかったし・・・・
何も言わない・・・・

それがにとってのサガへの愛情表現なのだから。





「ん・・・・・・・・・はっ・・・・・・・・・サガ。」

「何だ・・・・・・・・・」

「『貴方』も私を愛している?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・貴方は答えてくれないの?」

苦笑しながらサガを見るに変わらぬ表情のままサガはの衣服に手をかける。

「言葉にせぬと分からんのか?」

「そうね。少なくとも『サガ』は言ってくれるわ。・・・愛していると」

「俺は口が裂けてもそんな戯言は言わん・・・・・・」

そのままサガはを抱きかかえ、教皇の間へと歩き始める。

「・・・・・・そうね、貴方はそんな言葉嫌いですもの・・・・・・」

はそんなサガを見てくすっと笑うと、身体が落ちないようにサガの首に腕を回した。

「誘っているのか?」

「いいえ、身体が落ちる事の心配をしているだけ。」

「俺には誘われているようにしか思えんがな・・・・・・」

「それは個人の考えだわ?」

「まぁいい。・・・・・・どちらにしろ、俺は俺で楽しむだけだ・・・・・・」

「そう、お手柔らかにね?」

「どうかな・・・・・・・・・」

ニヒルな笑みを浮かべながらサガはを抱く。
そんなサガの行為に甘い感覚を覚えつつ、はその感覚に酔いしれていった。

「私は『貴方』も愛しているわ、サガ・・・」

「ふん・・・・・・俺は好きな様にさせてもらうだけだ・・・・・・」



サガの瞳に宿る想いが愛情だと気付いていても、
それをサガ自身が気付いていたとしても・・・・・