何もやる気が起こらない。

人と話すのも嫌。

外の空気を吸うのも嫌。


はじっと自室の隅にうずくまっていた。

ドアの外に誰かの気配がする。

きっとを心配して来た黄金聖闘士だろう。


、もう限界だろう・・・」


その声はシュラのものだった。

そして、シュラの声に続いて別の声。


「私達は貴女が心配なのですよ・・・
ね、少しでいいから口にして下さい。」


アフロディーテの声が聞こえる。

だが、はその声に反応しない。



ドンッ!!!



音と同時にドアが破られる。


「・・・・・・いい加減にしろ・・・・・・私が悪かったと言っているだろう!!」


苛立ちながら冷たく言い放つ人。

は一瞬怯えたようにその人物に視線を移す。

が、すぐに自分の膝に顔を埋めた。


「やりすぎだ、サガ。」


「そうだよ、君らしくもない・・・が怯えてしまう。」


「・・・・・・」


サガは他の聖闘士の言葉に耳を傾けることなく

無言でに近づくと顔を無理やり上にあげさせる。


「あ・・・」


そのやつれた姿に刃が胸に刺さるような痛みを感じるが

自分のせいだと分かっても、その姿に対しても怒りが込み上げてくる。


、いい加減にしろ。」

「いっ・・・いやっ!」


顎にかけられていたサガの手を振り払うと

フラフラとよろけながら隣の部屋へと逃げ込んだ。

サガは相変わらず眉間にしわを寄せてそのドアを見る。

アフロディーテとシュラはやれやれと言った顔でサガを見る。

サガはと言うと、ふぅっと溜息をついて、2人を見た。


「すまないな、2人とも。面倒をかけてしまって。」

「全く、彼女があんなに酷い姿になっているのに貴方は何て冷たい言い方をするんだい?」

「俺はサガに同情したいのだが・・・今回はお前が悪いな。」


元はサガが仕事に託けて、との約束を破ってしまったからであった。

仕事に真面目なサガ。

それを知っていてはサガと一緒いたのだが、

今回は時期が悪かった。

と約束をした日、

それはとサガが初めて気持ちが通じ合った日だった。

が、サガは仕事が終わらず、約束の時間を5時間も過ぎてから現れた。

しかも・・・春雨の中、はずっと待っていた為、肺炎になって寝込んでしまったのだ。

そんなをサガは一度しか見舞わず、仕事をしていたのだった。

にとってそれが悲しくて悲しくて仕方なく、

その気持ちは段々サガの裏切り行為に思えてきたのだった。


「・・・・・・・っく・・・・・・・ひっ・・・・・ゲホゲホ・・・・」


隣の部屋でベッドに潜り込み涙を流しながら咳き込む

約束の日から1週間は過ぎていると言うのに、まだ熱は下がらず咳も止まらない。

挙句の果てに涙も止まらない。

食欲はもちろん、何もする気がしない。

の体は限界に近かった。

それを心配して毎日食事を持ってきてくれるアフロディーテとシュラも

日に日に痩せ衰えていくの姿を見かねてサガに話したのだった。




二人きりになった部屋。

扉越しにサガは小さく言った。


「・・・・、入るぞ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


答えはない。

サガはそっとドアに手をかける。

鍵はかかっていなかった。

ゆっくりと奥にあるベッドへと近寄る。


、先ほどは悪かった。」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「苛立ってしまったのだ・・・自分自身に対して・・・
お前をこんな風にするつもりはなかった。」

「・・・・・・・・・ケホッ」


小さく聞こえた咳に、サガは布団越しにの背中をさする。


「苦しいのか?」

「・・・・・・・・」

「当たり前だな・・・、こちらを見てくれないか?」


出来るだけ優しく、サガはそう言うと、そっと布団をどけた。

素直に出てきたやつれたの顔に、

また胸が痛む。

サガは手に小宇宙を集中させると、ゆっくりとの額に触れる。

暖かな小宇宙がの額から体に流れ込む。


「・・・きらっ・・・サガなんか嫌い・・・」

「・・・ああ、嫌われて当然だ。より仕事を優先させてしまった・・・」

「・・・っく・・・ひっく・・・き・・らい」

「分かっている」

「ひっく・・・う・・・・サ・・・ガなんて・・・サガなんて・・・きら・・・・」

「・・・・・、愛している。」

「サガ!!」


わぁぁと涙を流しながらサガの手にすがる

サガは泣き続けるを優しく抱きしめた。


「すまなかった、もう・・・こんな思いはさせないから・・・」

「サガぁ・・・ケホケホ」

「ほら、もう泣き止め。苦しいだろう?」

「っく・・・う・・うん・・・っく・・・ど、どこにも行かない・・・っく・・・で・・・」

「ああ、ずっと側にいるから・・・」

「眠るまででいいの・・・側に・・・」

・・・・」

「サガ・・・・好・・・・き」


そう言うとゆっくりとは瞼を閉じた。

体力が回復してない上に、泣き疲れたのだろう。

そんなをサガは抱きしめたままでいた。

サラサラとの髪を撫でながら、サガもそのまま眠りについた。


「もう・・・離れはしないから・・・・私の・・・・」




それから1週間程、サガは仕事をせず、朝から晩までずっとの側にいた。

おかげで聖域では仕事がなかなか進まず、カノンが海界から出向いたが、

それでも書類は増える一方で、シオンが頭を抱えていたそうだ。