『お前は俺を拒む事など出来ない。』

『うるさい』

『いい加減、認めたらどうだ?俺もお前だという事を・・・』

『もう黙れ!!』

『どう足掻こうが、お前は俺を理由にあの女を捨てたのだ』

『な、何を・・・』

『そうだろう?なぁ、サガ?
お前は俺を認めぬ余り、あの女さえも手放したのではないか?』


「黙れーー!!」

そう言う自分の叫び声で目を覚ましたサガ。

辺りを見回せば、執務室で、自分は机の上で眠っていたようだった。

サガはもう冷めてしまったコーヒーを手に取るとそれを口へと運んだ。


「・・・・結局・・・許されないのだろう?私は・・・フッ」


自傷気味に笑うと、サガは瞳を腕で覆う。

愛している・・・まだ愛している。

を愛している。

なのに、この悪がある限り・・・それは許されない。

いつを傷つけてしまうのか・・・分からない恐怖と不安。

傷つけ、この手から離れていくくらいならと自分から別れを持ち出した。

驚くほど、すんなりと別れて行った愛しい女の事を考えて・・・

それを頭から振り払うかのように毎日毎日執務をしていた。

時計を見れば、もう夜明けが近い。


コンコン


扉を叩く音が聞こえる。

サガはこんな時間に誰だと思ったが、席を立つと扉を開いた。


!?」

「・・・・・・・」


黙ったまま、俯いているに、サガは驚いた。

は、すっと部屋に入ると、今までサガが飲んでいたカップを取り換え、

新たに熱いコーヒーを入れ直した。


・・・」

「・・・あまり根を詰めると身体に悪いから・・・それに冷えたものは身体にも悪いから・・・」


そう言うと、はサガの方をちらりと見て、その場を去ろうとした。

サガは扉を出て行こうとしたの手を掴む。


「っ!?」

「・・・・・・・・れ」

「・・・・・離して」

「・・・・・・行かないで・・・くれ・・・」

「・・・・手を」

「・・・・行かないでくれ、

「・・・・ここにいるから・・・手を離して」


の言葉に、サガは手を離した。

自分が思った以上に、強く握っていたのだろう。

の手首は、サガの手形に赤くなっていた。


「・・・・」

「・・・・」


はサガの正面にあるソファに腰掛け、じっと窓の外を見ている。

サガは、が入れ直してくれたコーヒーを飲みながら、じっとを見ていた。


「・・・・もう夜が明ける」


先に言葉を発したのはだった。

サガは小さくそうだなと呟く。


「・・・・・貴方の中にいる黒い闇も」

「!!」

「私は知っていたわ、サガ」


そう言って、サガを見据える。

何も感情を出していない、そんな瞳で自分を見るに、サガはどこか悲しくなった。


「貴方は善であろうとしたけれど・・・でも私は認めて欲しかった。」

「何を・・・」

「人は・・・・」


はすっと立ち上がると、窓の方へと向かって歩き出す。

徐々に白んでくる聖域を見ながら、サガに話しかけ続けた。


「人は、決して善だけではないから・・・善と悪・・・その両方を持っているから人なのよ」

「・・・・だが・・・・私はその悪で女神をも・・・」

「業に溺れるのもまた・・・人ではないの?サガ」


の言葉が胸に突き刺さった気がした。

自分が思ってきた事は・・・自分を否定する事だった。

そんな自分も含めて・・・・

は愛してくれていたのではないのかと・・・


・・・私は・・・許されるならば・・・お前と共に・・・」

「サガ、私は貴方を許す事は出来ない」

「そ・・・うだな・・・」

「・・・・・勘違いしないで、サガ」


顔を上げるとがふわりと微笑んでいた。


「私は貴方の罪を許す事は出来ない。貴方の罪を許すのは貴方自身なのだから」



「私はそれを見守ることしか出来ないわ、サガ」

「っ・・・・」

「貴方は・・・優しいから私と離れる事を選んだのでしょう?」

「・・・・・・」

「本当は、私、待っていたのよ。貴方が私を求めてくれるのを・・・」

!」


そう言ってサガはの身体を引き寄せた。

この腕に抱くのは何カ月振りだろうか・・・

そんな事を考えながらも、サガはの温もりを感じていた。


「私は貴方を愛している、もちろん、貴方の中の闇も全てね?」

「・・・・・・」

「時間がかかるかもしれないけれど・・・一緒になればいい」

「・・・・がそう言うなら・・・出来るかもしれないな」

「ええ、きっと出来るわ。だって・・・」


悪の心を持った貴方も『貴方』なのだから


そっと重なる唇の熱を感じながら、サガの頭の中でもう一人の自分が笑った気がした。


『俺はお前でお前は俺だ。』

『そうだな・・・』

『俺は決して消えはしないぞ』

『だが・・・お前も私なのだろう・・・』