貴方は私を必要としてくれた。
この事実が…また…こんなにも私を苦しめていることを知っていますか?
そして、こんなにも私を幸せにしてくれていることを知っていますか?
そして、この幸せを貴方と護りたいと切に想います。



「あなた…シャカ…起きてください。」

柔らかな春の陽だまりの様な存在にシャカはゆっくりと上体を起こし始める。

「ああ、。どうしたのだ?」

はシャカがいるだろう場所に向かって歩き出す。
シャカはそんなの手をそっと引き寄せ。頬に手を添える。

「すみません、お疲れのところを起こしてしまいまして…でも」

そういうの表情が曇っていることをシャカはすぐに気付く。

「話してみたまえ…」

シャカはそう言ってをそっと抱きしめる。

「夢を見ました。」

「どんな夢かね?」

は静かに話を始めた。

「私がまだ聖闘士の時の夢です。」

「…そうか。」





は女聖闘士の候補としてこの聖地にやってきた。
彼女の小宇宙は絶大なもので、黄金聖闘士に匹敵する程だった。
の師として抜擢されたのはサガ。
サガは彼女を立派に育ててきた。
彼女が聖闘士として戦い始めて4年後。
担当していた地区で大きな戦いがあった。
はその時村人を護り重症をおった。
そして、同時にその場にいたシャカに素顔を見られた。

『うっ…シャカ…様…な…にを』

『じっとしていたまえ。今、傷を治そう。』

シャカは傷ついたにヒーリングを行う。
しかし、シャカのヒーリングでも治せないものがあった。
それはの視力。
傷は完全に治しても、視力だけは戻らなかった。

『シャカ様…はっ!私、仮面を…』

仮面がなくなっている事に気付いたはとっさに顔を隠す。

『すまない…しかし仮面は私が来たときにはすでに粉々になっていた。』

『素顔を見られた女聖闘士は、その相手を殺すか…愛するか…』

はそう言ってシャカの方を向く。

『…私には貴方を殺せそうにありませんね』

そう言って微笑んだ。

『私は君になら殺されてもいいと思っていたのだがね』

シャカは優しい声でそう言うとをそっと抱き上げた。

『シャカ様!?』

『知っていたか?神に最も近い男と称されるこのシャカでも愛している女性がいるということを…』

『だって…シャカ様でも人間ですから』

はそっとシャカの頬に手を添える。

『私、ずっとシャカ様が好きでしたから』

『奇遇だな…私も、君が好きだったのだよ。』






「懐かしいな・・・あの時、私は君の素顔を見れて良かったと思っている。」

シャカは自分の腕の中にいるに言う。

「?」

「本当に、君がこの聖地に来たときから私の胸は躍っていたのだ。」

「シャカ程の方が?」

はふっと笑う。

「私とて恋くらいしたい。私という存在はこの世から去ったとしても、私の子供にその意思は伝えたい。」

『それが生きると言うことなのだから』

二人の声が重なる。
同時に笑い声も。

「私は目が見えません。でもその代償は十分すぎるほどです。」

「そうか?」

「そうです。だって、私には最愛の夫がいて…ここに新しい命が…」

そう言って自分の腹部をさする。

「…本当かね!!!」

「はい…アテナが祝福してくださいました。」

シャカは思わずを抱き上げる。

「きゃっ!シャカ!」

「私はなんと幸せ者なのか…。身体を大事にしてくれたまえ。」

シャカはに優しく口付ける。

「はい。」

「…そうと決まればあやつらにも報告せねば…」

「他の聖闘士方にですか?」

「そうだ。君に負担がかからないようにしてもらわねば…」

かなり力の入っているシャカを見ては微笑んだ。

「あなた…これからはこの子にも愛情を与えてくださいね」

「もちろんだとも…私が護るべき存在が増えたのだな」

シャカはをそっと横たわらせる。

「まだ日は昇っていない。もう少し休むがよい。」

「シャカは?」

「私も休もう。」

そう言ってシャカは腕の中にを抱き眠りについた。









数日後、処女宮以外の宮でシャカの説教を聴く黄金聖闘士たちの哀れな姿があったとか…