愛しいと想っていた。
こんなに愛しいと想ったのは初めてだった。
なのに、貴女はもういない。
あの声も…あの微笑みも…あの温もりも…
全て思い出となってしまった。
『ねぇ、シャカ。』
『なんだね?』
『人は死んでも消えるわけではないのよね?』
は沙羅の木の下で瞑想をしていた私に呟く。
私が心許した初めての女性。
そして、私が唯一沙羅双樹の園に入ることを許した女性だった。
『確かに、その人は世界から躯は消えてしまうやもしれん。』
私はの腕を引き、その躯を己の腕の中に納める。
『だが、存在はきえることなどない。』
私はそっとを抱き締める。
『シャカ…』
は私の胸に顔を埋める。
『人は転生し、また産まれる。死とは、
その躯でやるべき役目を終えて新しい生を受ける為の…
だから、本来悲しむ必要などないのかもしれぬ。』
の顎に手を添えて、顔を上げさせた。
触れるだけのキス。
それが何よりも幸せを感じることが出来た。
『私がもし死んだら、シャカは悲しまないの?』
『いや・・・悲しむだろう。』
『今、悲しむ必要はないって言ったよ?』
『それはそうだが・・・やはりそれでも人は悲しむ。
その人の面影や温もりを二度と感じられないのだ。』
『そっか・・・でも悲しむシャカは見たくないな・・・』
はそう言って私にしがみ付く。
僅かに肩が震えていた。
『どうしたと言うのかね・・・。』
私はその震える肩を抱き締めた。
その細くか弱い身体を。
『怖くなったの・・・』
『何がだね?』
『シャカが消えてしまったらって・・・』
の瞳には涙が溜まっていた。
この娘は私を想って泣いているのか。
なんと健気な・・・
そして思いやりのある娘なのだろうか・・・
私は心からそう想った。
そして、心からが愛しいと。
『ならば、ずっと私の側にいればよい・・・』
『シャカ・・・』
『ずっと離れずに、私の側にいればよい・・・』
『うん!』
抱き締めれば感じる温もりが心地よく、
その笑顔は本当に元気をくれる。
そして、その声が聞けるだけで、
幸せを感じれた。
しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。
元々病弱だった。
病魔はすぐにの身体を蝕んでいった。
そして・・・
『シャカ・・・私・・・死んじゃう・・・けど』
『弱気なことをいうではない!』
『でも・・・きっと・・・また・・・シャカの・・・もとに・・・』
『!』
『シャ・・・カ・・・好・・・き』
『・・・私も・・・愛している・・・』
そして、私の胸の中で・・・
は眠りについた。
「・・・君はどこに産まれて来るのだ。」
一人、沙羅双樹の根元で呟く。
あれからすぐ、は眠りについてしまった。
私を残して・・・
ふと、沙羅の花びらが舞った。
「・・・・・・」
その花びらの一枚が私の掌に落ちた。
「私は・・・こんなにを愛していたのか・・・」
そっと花びらにキスを落とした。
そして、空に向けて花びらを飛ばす。
ヒラヒラを舞いながら飛び去る花びらを
私は切なげに見つめた。
もし、運命というものがあるのなら・・・
また、巡り逢える日がくるだろう・・・
そして、また私達は惹かれる。
愛しいと想っていた。
今でも愛しいと想っている。
なのに、貴女はもういない。
あの声も…あの微笑みも…あの温もりも…
私の中で生き続けている。
私が死ぬまで・・・