昔から知っているこの人は
いつも無口で、素直じゃない。
なにかにつけて人の世を憂い、どこか人見下したような言い方ばっかり
それでも私に向ける言葉の隅に優しさがあるの知っているから
だから、私は今日もこの宮へと足を運ぶ。
「また来たのかね?。」
「悪い?シャカ。」
「いや、君が来るのは私の茶の時間だからな。」
そう言うと、蓮の台からすっと降り立ち、の眼の前へと歩いてくる。
本当に目を閉じているのかと疑うほどに。
「さて、今日の茶菓子は何かね?」
「今日は私の手作りのケーキよ。と言っても簡単なチョコレートケーキだけどね」
そう言って持っていたバスケットを差し出す。
シャカはそれを受け取ると、プライベートルームへと向かう。
は少し肩をすくめながらも、シャカの後を追う。
シャカはリビングに行き、席に着く。
はキッチンに立つと、お湯を沸かして手際よくお茶の準備をした。
「さてと・・・って!シャカ!!」
「・・・・何だね?」
「もう・・・食べてる・・・・」
「君にしては上出来ではないか?甘さも程よいし、柔らかくて美味だな」
「はぁ・・・はい、お茶。」
「ふむ・・・では頂くか」
そう言ってお茶を飲むシャカ。
シャカって本当に綺麗よね・・・なんて事を考えつつ、
もお茶に口を付ける。
しかし、忘れていた。。。。
「あつっ・・・・」
「・・・・君は馬鹿かね?自分が猫舌だという事を忘れるなぞ・・・」
「あーすみませんね。もう・・・ふぅ・・・ふぅ・・・ん、美味しい。」
「・・・・・・・全く、君は見ていて飽きないな。」
「え?」
「コロコロと表情を良く変える。」
「そう?」
「全く、もっと落ち着くという事を少し学ばなければな」
「はいはい。」
「・・・・・・・」
シャカの言葉に適当に相槌を打ちながらはケーキを手に取る。
我ながら上出来と思いながら食べていると、
ふとシャカが自分をじっと見つめていた。
『ふーん、綺麗な蒼い目なんだ・・・・ん?蒼い・・・目??』
ガシャン
「きゃっ!!」
「・・・何をしているのかね。」
「だ、だだだだだ・・・」
「だ?」
「だって、目・・・開いて・・・」
「ああ、目か」
「目かって!!わ、私まだ死にたくないです!!!!!」
「・・・・私は神話のメデューサか何かか・・・」
「だ、だって!!だってぇぇぇ!!」
「・・・・全く・・・」
そう小さく呟くとシャカは席を立ち、の元へと歩き出す。
そしておもむろにの顔をこちらに向けさせる。
「っ!!!」
一瞬何が起こっているのかには分からなかった。
ただ、感じるのは自分の唇に何か温かいものが触れている事。
目の前に、ある見慣れた顔。
さらりと頬にかかる黄金の髪。
ゆっくりと離れるその顔に、は固まってしまった。
「・・・・分かったかね」
「わ・・・分かりません!!」
「私が目を開いたのは、実際にこの目に君を映したかったからだ。」
「わ、私、殺されるかと思った・・・」
「・・・・・光栄に思いたまえ。」
「はいっ???」
「このシャカの伴侶になれるのだ。」
「あの〜」
「まぁ、断る理由などはなかろう?」
「えっと〜」
「事実、今しがた口付をしたとて何も拒絶されなかったのだからな。」
「それは!!シャカがいきなりキスなんかしてくるからで・・・」
「ではいきなりではなかったらよかったのだな?」
「えっと・・・あの・・・その」
ジワリともう一度に近づくシャカにはカタっと音を立てながら席を立つ。
「君は私が何故、この処女宮に何も言わずに入れているのか分からなかったのかね?」
「えっ?お茶の世話してくれるからと・・・か・・・」
一歩一歩近づいてくるシャカ。
トンとついに部屋の端にまで来てしまった。
シャカはふっと口元を緩めると、の顔の両脇に手を置く。
「私は君を愛しく思っていたからこの宮に入れていたのだ」
「え・・・・っと・・・・っ!!」
また唇に感触。
もうどこまで自分の都合で動いているのかと半分諦める。
「・・・で、先ほどの質問だが、断る理由はあるのかね?ないのかね?」
「・・・・ありません」
「では早速、アテナに報告に行かねばな」
そう言ってシャカはスタスタと聖衣を纏おうとする。
はただその場所に呆然と立っていたのだが、シャカはふっと動きを止める。
そしてまたに近づくと、すっとの身体を抱き上げた。
「ひゃっ!!」
「もう少し色気のある声は出せないのかね?」
「だ、だって・・・」
「だってと君はそれしか言えないのか・・・まぁいい。」
「あの〜シャカ?」
「何だね」
「どこに行かれてるのでしょうか・・・」
「どことは・・・寝所だが?」
「はいぃぃぃ!?!?!?」
「想いも通じた事だ。アテナへの報告の前に既成事実とやらを作って置いた方がよかろう」
「シャっ・・・シャカーーー!!!」
「五月蠅い口だな・・・そうか・・・」
「シャ・・・・っふ・・・ん!!」
反撃の声も空しく、の口を己の口で塞ぎながら、シャカは器用に寝所の扉をあける。
そして、そのまま二人は寝所へと消えていった。