温かい日だまりのようなその微笑みに
いつも俺のこの荒れた心は癒されていた
少しでも近くに居たくて
お前に触れていたくて
同じ星の元に生まれた事を幸運に思っていた
Season of prayer 〜ただ時が過ぎ去るだけ・・・〜
磨羯宮でシュラは今日何度目になるか分からないため息をついた。
時刻はすでに午前3時を回っている。
任務に差支えがない休日の夜とはいえ、ここ最近のシュラは眠れずにいた。
「・・・」
ふと言葉を出せばその名だけ。
目の前にあるグラスとその横に置いてある小さなペンダント。
シュラはそのペンダントに手を伸ばした。
パチン
小さく音を立てて、ペンダントをあけると、そこには優しく微笑む女性の姿があった。
栗毛色の髪、
もう二度と見られない蒼い空の瞳
全てが何よりも愛おしい
「女々しいな・・・」
別れを告げたのは自分だった。
これ以上、を自分の所に置く事は出来ないと分かっていた。
血ぬられた手で何度も抱いた。
自分の中に生まれる狂気のような嫉妬に何度もを泣かせてしまった。
それでも、微笑みかけてくれるが愛しくて仕方なかった。
『どうして・・・どうしてなの!?ねぇ、シュラ!?』
『すまん、』
『・・・・っ!!』
シュラの両腕を掴み、震えているを抱きしめようとした。
しかし、シュラはぐっと拳を握ると、顔を背ける。
『俺は・・・もうお前を愛してやる事は出来ない』
『だから理由を・・・理由を言ってよ!!シュラ!!』
『・・・・・』
『私、何かシュラにした!?私のせいなの!?』
『・・・すまん』
『謝ってばっかりじゃ分かんないよ!!私の事が・・・邪魔なの・・ね?』
『・・・俺は・・・』
<俺はお前を愛している・・・愛しているからこそ・・・俺は・・・>
一度、ぎゅっと閉じた瞳をあけると、シュラはを自分の身体から引き離した。
その行動に、の目は大きく開かれる。
『お前を愛してやる事も、共にいてやる事も、もはや出来ない』
『シュ・・・ラ・・・』
『俺はアテナの聖闘士。アテナの為だけに生き、そして死ぬ運命だ』
『そ・・・そんなの・・・わか『分かっているなどとは言わせない』
『なっ・・・何で・・・』
『俺はアテナの為ならお前だって殺す・・・』
『シュラ・・・』
『・・・・・・・・・』
そう言うシュラの瞳は人を殺す時に見せる冷たい瞳。
の身体がびくっと大きく震えた。
『・・・・・・私・・・シュラになら殺されてもいいと思ってる』
『・・・・・・・』
『その瞳にはアテナ様しか映っていなくても・・・一緒にいられればそれで幸せだった。』
『・・・・・・・・』
『私を見て微笑んでくれる瞳が好きで・・・で・・・も・・・もう・・・
もう貴方が居ないのなら・・・世界なんてないものと同じなの・・・シュラ』
『・・・・!?』
すっと目の前のテーブルに置かれていた果物ナイフに視線を移す。
そして・・・
『もう・・・何も見えないのと同じ・・・なの・・・・・・・ああああああ!!!!』
『!!!!』
シュラが手を伸ばした時には既に遅かった。
は果物ナイフで両目を切りつけていた。
カランと音を立ててナイフが落ちる。
両手で覆い隠すの指の隙間からは、赤い滴が止めどなく溢れる。
ガタガタと震えているに、シュラは手を差し出すが、
はその手が触れた途端、床を這いずるようにシュラから離れた。
『こ・・・これで・・・いいわ・・・うぅ・・・くっ・・・』
『何がいいものか!!早く手当てを・・・』
『い・・・いいの・・・もう・・・』
『・・・・・・おっ・・・おい!!!!』
シュラは振り払われる手を掴み、その顔を見る。
もうの目は深く閉じられ、赤い涙が流れていた。
『わ、わた・・・し、分かって・・・た・・・』
『!!』
『きっと・・・シュ・・・シュラは・・・私の為に・・・そう言うだろう・・・って。
だ、だって貴方は・・・アテナの聖闘士だから・・・だから・・・』
相当痛みがあるだろうに、は精いっぱい微笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
『こう・・・すれば・・・貴方も・・・私・・・も・・・別れ・・・られるで・・・しょ?』
<だから己の目を潰したのか?わざと、足手まといになると思われるように・・・>
シュラはの身体を抱きしめようとする。
が、はそれを強く拒んだ。
とっさに小宇宙で呼んでいたムウが、磨羯宮にかけつけ、とシュラを見る。
『!貴女は何という事を・・・』
『そ、その声は・・・ムウ様?』
『早く治療をしなければ・・・』
『いいのです・・・私は・・・このままで・・・それよりも・・・どうぞ・・・私をここから連れ出してください。』
それだけ言うと、ふっと気が緩んだのかは意識をなくした。
力なく床に倒れこもうとするの身体を、シュラはぐっと引き抱きしめた。
『シュラ・・・全て貴方の為です。』
それだけムウは言うとすっと両手を差し出す。
をこちらへと言わんばかりに。
シュラは一度、をじっと見つめると、黙ったままムウの腕にを預ける。
『・・・・頼む』
『ええ、分かっています』
カラン・・・
グラスの中の氷が溶け動く。
シュラは一気にそれを飲み干すと、また新たにボトルをあけた。
ムウの話では今、はどこかの孤児院で過ごしているという。
聖戦も終わり、平和になった今なら会いに行けるのかもしれない。
それでも俺はどんな顔で会えばいいのか分からず
今も胸が張り裂けそうになっている。
ただ・・・過ぎ去っていく時の流れが残酷過ぎて・・・・
それでも俺は忘れる事など出来ない
誰よりも・・・を愛しているから・・・
あの微笑みと温もりを・・・
いつかまたこの腕に抱けると願いながら今日も時間だけが過ぎ去っていく・・・
====あとがき====
以前カミュverで書いたものです。
あの時のあとがきにも書きましたが
この題で全員作ってみようと思います・・・多分(苦笑)