Un destino del pensamiento
(想いの行く先)
−後編−
がシュラの告白を聞いてから数日後・・・・・。
いつもと変わらない様子で、サガの実務を補佐していた。
が、微妙な変化にシュラの親友であるアフロディーテだけは気づいていて。
任務の報告に来たアフロがにそっと声をかける。
「・・・何か悩みでもあるのかい?目の下に隈が出来ている。」
化粧で誤魔化したつもりのだが、聖闘士一の美を誇るアフロの目は誤魔化せなかったよう・・・・。
「さすがにアフロディーテの目は誤魔化せないね・・・・実はちょっと。」
少し困ったような表情を浮かべるに、アフロディーテは優しく微笑む。
「私でよかったら、話を聞くよ。」
アフロディーテの気遣いには少し考えた風に首を傾げては小さな声で答えた。
「・・・じゃあ、今晩泊まってもいい?きっと話が長くなるから。」
の思わぬ提案に、アフロは一瞬驚いた顔をしたがすぐにそれは笑みに変わり・・・・。
アフロディーテにとっては可愛い妹のような存在・・・聖域に来た理由がシュラを追いかけて来たと
聞いた時から彼女の力になれればと。
聖域で苦楽を共にした親友であるシュラの幼馴染みだからなおさらだったのかもしれない。
「わかったよ、特上の紅茶を用意して待っているよ。」
二人の会話を報告しに目を通していたサガは内心苦笑していた。
(シュラが知ったらどうなることやら。)
そして職務を終えたが、アフロディーテの元を訪ねたのは言うまでもなく・・・・・。
「・・・・と言うわけなの。」
アフロディーテの紅茶を飲みながら、は自分の悩みを打ち明けた。
話し終えるまで黙って聞いていたアフロディーテだが、実は気づいていた・・・シュラが想う人の事を。
しかしそれはアフロディーテから言うべき事ではない、シュラ自身が伝えなくてはいけないのだから。
「・・・まだ、誰かだとはっきりした訳ではないよ。まだまだ君にもチャンスはある、ここで諦めては駄目だよ。」
とにかく良い方向へとの気持ちを向けさせねば、アフロディーテはそんな思いでを励ます。
「・・・うん、そうだね。はっきりと聞いた訳じゃないし・・・ありがとう、アフロ。」
少し元気になったのか、は昼間よりも幾分良い表情を浮かべている。
「苦しくなったら、また私が話を聞くよ。」
(ただ、シュラに知られたら大変だろうけど。)
内心そう思いながらも、可愛い妹ようなの為ならと考えるアフロディーテだった。
がアフロディーテの所へ泊まってから3日後の事。
珍しくデスマスクが執務室で書類とにらめっこしていた。
おそらくは報告書を溜め込んでいて、サガに咎められたのであろう。
はそんなデスマスクにブラックを淹れてデスクの上に置く。
「お、悪いな。」
コーヒーの匂いにデスマスクは顔を上げる。
こう見えてもとデスマスクは酒飲み友達でもある。
外見に似合わず、は酒に強い。以前黄金聖闘士全員とを交えて飲んだ所、最後までデスマスクに
付き合ったのはだけだった。
以来、時々とデスマスクは飲むようになり・・・・・もっともシュラはあまり快く思っていないらしく、アフロディーテ
にからかわれていたが。
「どういたしまして。まあ、溜め込んでいたデスの自業自得なんでしょうけど。」
クスクスと笑うに、デスマスクは眉間に皺を寄せる。
「・・・・・笑うな。」
そんな二人の会話を、偶然にも執務室にいたシュラが聞き耳を立てていて。
(・・・・・の奴、アフロの次はデスマスクか。)
は友情以上の感情は持っていない・・・・そうとわかっていてもシュラは自分の気持ちが抑えられなく
なりそうになる。
シュラにとってはもはや幼馴染みではない、けれど彼女はどうなのだろうか?
そう考えると胸の中はますます苦しくなっていく。
シュラのそんな苦悩も知らず、とデスマスクの会話は弾んでいき・・・・。
「そうだ・・・デス、久しぶりに飲み明かさない?」
「んぁ?そうだな・・・・ここ最近、お前と飲んでねぇな。」
が相手だと、とことん飲めるのでデスマスクとしては願ってもない誘い。
それを耳にしたシュラの小宇宙が一瞬殺気だったのに気づいたのは、サガぐらいで。
(まったく・・・シュラも嫉妬するぐらいなら言ってしまえばいいのにな。)
サガも気づいていた、以前シュラから好きな人がいる事と、がアフロの所に泊まったという話を聞いて
彼が不機嫌になったという事から。
(まあ、そろそろ決め時だろうな・・・・。)
デスマスクと楽しく話をしていると表情にこそ出していないが不機嫌なシュラを見て、サガは二人を見守る
事にした。
執務を終えたその夜・・・はデスマスクの部屋で飲んでいた。
「・・・・・おい、。」
「なあに?」
デスマスクもの小宇宙に少し陰りがあることには気づいていた・・・・ただが隠そうとしているので
気づかない振りをしていたが。
アフロの所に泊まったという話もデスマスクは耳にしていて、おそらくはシュラ絡みの事だと推測出来る。
「何かあったのか?」
じーっとを見るデスマスク、意外にも彼は洞察力には優れていて。
アフロディーテ同様、はデスマスクにも隠し事は出来ないでいた。
「こういう時は鋭いんだね、デス。」
どうせなら普段の仕事に生かしてくれればと、小声で言ってみたりする。
「そいつは余計なお世話だ。」
にデコピンをすると、ずいっと顔を近づける。
「痛いな・・もう。でもデスにも隠し事は出来ないね。」
はグラスに注がれていた水割りを飲むと、ぽつぽつと話し始めた。
(・・・・世話の焼ける二人だな。)
話を聞き、確信してデスマスクはテレパシーでシュラに連絡する。
明け方になったらを迎えに来い・・・あとはお前次第だとも告げる。
「ま、とりあえずは酒飲んで嫌なことは忘れろや。」
「そうする。」
空になったグラスにウィスキーと水を注ぐデスマスク。
それをぐいぐいと飲むに、まだまだ精神的には子供だなと思う。
それでもなんとなく助けてやりたいと思うのは、の笑顔の為かもしれない。
滅多に酔わないデスマスクが少しほろ酔いになって思ったのは内緒だけれど。
デスマスクから連絡を受けたシュラは眠らずに、夜が明けるのを待っていた。
(後は自分でどうにかしろか・・・・デスらしいな。)
シュラが思うような仲ではない事はデスマスクのテレパシーで充分にわかった。
でもどこかすっきりしないのは、やはりの答えを聞くのが怖いからだろう。
「・・・・・らしくないな。」
告白をして今の関係が壊れるのが恐ろしい・・・・の笑顔が自分に向けられなくなるかもしれない。
だが、このままずっとこの関係でいられる保証はない。
自分はアテナの聖闘士・・・・戦いの中で命を落とすかもしれない。
だからこそ気持ちを伝えなければ・・・・伝えないまま命果てる事だけはしたくない。
「迎えにいくか・・・・。」
シュラは立ち上がり、巨蟹宮へと向かう・・・との関係を先へと進める為に。
「デス・・・ありがとね。」
「おう、いつでも相手になってやるぜ。」
デスマスクと飲み明かしたは自分の部屋へと戻る為、巨蟹宮を後にする。
獅子宮へと向かう階段の途中で、こちらへ向かってくる人影を見つけた。
こんな時間に誰だろうと、は目を凝らしてみる。
「迎えに来た・・・。」
「あ・・・・シュラ。」
今、にとって逢いたくない相手・・・・シュラ。
このところ、シュラの機嫌があまり良くないと聞いていて、何となく後ろめたさがにはあったから。
が戸惑っていると、シュラが近づき彼女を手を握った。
シュラの行動には驚いて見上げる・・・・心なしかシュラの耳が赤い、それは朝焼けのせいだけではない
気がした。
「・・・・話したいことがある、いいか?」
「う、うん。」
いつになく真剣な眼差しなシュラに、もただ頷く。
(何かあったのかな?)
シュラに手を握られたまま、は彼と共に魔羯宮へと向かった。
魔羯宮のシュラの私室へ入ると、はシュラの腕の中に閉じ込められた。
先ほどからシュラの行動に驚かされてばかり。
普段は冷静なシュラだが、今はなんだか焦っているようにも思える。
「シュラ?」
が声をかけると、シュラは抱きしめている腕の力を少しだけ抜いていく。
「本当はもっとかっこよく決めたかったんだがな・・・・・。」
シュラは少しだけ気まずそうな顔をしながら、それでもをじっと見つめる。
自分を見つめるシュラの瞳に、は頬が熱くなっていくのがわかった・・・彼の瞳がいつもと違って熱っぽいから。
「・・・・俺にとって今までは幼馴染みで妹のような存在だった。」
シュラの手がに頬に触れる・・・・そして愛おしそうに優しく撫で始める。
その感触とシュラの言葉に、の鼓動は早鐘を打ち始めていく。
「だが・・・最近になって気づいたんだ。、お前が他の男に笑顔を見せていると胸の中がもやもやして堪らない
と言うことに。」
「シュラ・・・・それって。」
驚いた・・・表情に表さないシュラが、実は嫉妬していたなんて。
自分ばかりが嫉妬しているのかと思っていた。
「もう俺の中でお前は幼馴染みじゃない・・・・愛しいと思う一人の女性になっていたんだ。」
シュラの手がの頬を包み込む。
愛おしげな視線をに送りながら、その先を告げる。
「俺が好きなのは・・・・お前なんだ。これからも俺の傍にいて欲しい。幼馴染みとしてではなく、俺の
愛する唯一人の女性(ひと)として。」
シュラの好きな人が自分だったとは・・・・は再び驚きながらもこれまでの行動を反省する。
と、同時に自分の行動で嫉妬してくれた事に嬉しさを感じていた・・・それだけシュラに愛されているのだと。
「・・・・お前は俺の事をまだ幼馴染みだと思っているのか?」
少し不安げなシュラに対し、は笑顔で首を横に振る・・・そして。
「シュラ・・・・大好きよ、一人の男性として。ずっとずっと貴方の傍にいたい・・・・。」
の気持ちを聞いて、シュラは安堵の笑みを浮かべる。
そしてを再びぎゅっと抱きしめては、顔を近づけていく。
「どんな事があっても、必ずの元に戻ってくる・・・・・。」
「うん・・・私は貴方が戻ってきて安らげる場所になるから・・・・。」
ゆっくりと瞼を閉じていく、そして優しく口づけられ・・・二人の想いが一つに重なった瞬間だった。
El destino del pensamiento en un corazon
(想いの行く先は心の中へ)
終
――――――あとがき――――――
伊吹水澪様から素敵な夢の後編を頂きました!!
素敵過ぎますっ!私には書けません(爆)
本当に本当にありがとうございます!
末長く宜しくお願い致します!!!