揺れる視界
霞む相手の姿。
明らかに出血が多すぎると分かっていた。
それでも己の手にある刀を握りしめ、今一度、目の前の敵に構える。
全ては己の真実に出会う為に・・・
【第二十幕 龍甦る時 秘められた華が咲く前】
「止めも、勝利の余韻もまだ早い・・・。、お前もまだここで果てる者ではないはずだ。」
「おっと。すっかり忘れていたぜ、まだ負け犬が残っていやがった。」
そこに立つのは四乃森蒼紫。
剣心の奥義をその身体に受け、満身創痍の蒼紫。
傷ついたその身体で、今、志々雄に挑もうとしていた。
「ちなみに最強の華は俺が持ってるぜ?倒して墓に備えてやったらどうだ。」
ろくな戦力にもならないくせにと鼻で笑う志々雄であったが、ふとの方に目を向けた。
「・・・・おめぇもまだやるってか?」
「ええ、貴方を少しでも消耗させておかないと、後悔するわ。・・・これで・・・終わりにしなければ・・・ね?」
そう言うと、はすっと刀を納める。
今にも切りかかろうとしていた蒼紫の動きが止まる・・・
いや、動けなかった。
蒼紫だけではなく、その場にいた者みなが動けなかった。
の剣気に・・・
そしてその冷酷な蒼い眼に・・・
「ま・・・まさか・・・零眼・・・?」
「な、何よ!?それ・・・ちょっと方治!!」
方治が冷や汗をかきながら呟く。
「私も話に聞いただけだが・・・家の正真正銘の継承者だけに見られる眼だと聞く。」
足元には血だまりを作りながらは立っていた。
が、蒼紫がの肩に手をかけると同時に、志々雄が蒼紫へと標的を定め切りかかっていく。
蒼紫は防戦一方、志々雄の猛攻を必死に防ぐことだけが精一杯な状態だ。
壁の隅に追いやられると思いきや、地の理を生かして逆に蒼紫は志々雄の背後を取ってみせた。
そこで身体の不自由さを顧みず、蒼紫は奥義・回転剣舞六連を繰り出す。
「遅ぇッ!!」
それも、志々雄の肘打ちによって阻止されてしまいついに蒼紫は小太刀を手放してしまった。
「天翔龍閃で今のお前の攻撃力は皆無。お前に出来る事といえば、最初から『時間稼ぎ』なんだよっ!!」
焔霊による攻撃を諸に受け、ガクッと蒼紫も志々雄の力の前に倒れた。
「所詮お前は抜刀斎と同類。俺に勝てる訳がねぇのさ。」
「・・・・・抜刀斎と同類かは分からん・・・が、奴がお前より弱いとは俺にはどうしても思えん。」
戯言と志々雄が嘲笑おうとしたその時―――。
「ならば私のコレはどうかしら?」
そう言うとは黎明刀を納刀したまま、縮地で志々雄の前に現れた。
冷ややかな闇を宿した眼を志々雄に向けながら、冷たく笑う。
「無の零眼・・・別名、死を招く零への眼か・・・・その出血量で立っているのもすげぇがな?」
「これでも暗殺家業を統べる者、蒼紫よりは頑丈なのかもしれないね!!!!!!」
そう叫ぶと、は瞬時に抜刀し、志々雄へと切りつける。
キィィィィィィィィィィィィン
「こんな所で終わるような人は誰一人ここにはいない・・・」
「てめぇの事は買っていたんだが・・・・・・な?」
ニヤリと笑みを浮かべながら刀を振り下ろす。
は苦笑しながら思う。
やはり闘いの中で感じるこの剣気が心地よく、
快感に感じてしまう己は光を浴びて生きていくことなど出来ないのだと。
その頃、かろうじて意識だけが戻りつつあった斎藤は、
身に覚えのある気配を感じ、必死に覚醒しようとしていた。
かろうじて立っているへと志々雄の刀が振り下ろされようとした瞬間――――
ざぁぁっと一陣の風が二人の間を吹きぬけた。
「剣心・・・・」
「ようやく起きやがったか。」
の目の前には、見覚えのある刀…逆刃刀・真打だ。
「・・・下がっていろ・・・・・・ッ。」
「剣…心」
の方をちらりと見る剣心の一瞬の隙をつき、志々雄は剣心の胸倉を掴みあげる。
「もっと痛めつけねぇとマトモに闘えねぇらしいな。もう一発喰らっておくか?」
「あぁぁッ!!!」
「なッ・・・」
志々雄が紅蓮腕を食らわせようと、剣心の手の手甲に刃を向けたが
寸前に剣心は目を見開き、逆刃刀の柄で志々雄の腕に打撃を与え、その手から逃れた。
不意打ちを受け、手甲に着火させてしまい自らを巻き込んで大爆発を起こした。
ついに雌雄を決する時がやってきた。
ようやく怯んだ志々雄に、攻撃を加える時が訪れたのを剣心が見逃す訳もなかった。
天高く舞い上がった剣心は龍槌閃・龍翔閃のニ連撃を放つが
この程度では終わる事はない。
龍巻閃『凩』『旋』『嵐』の5連撃を受けて尚、志々雄は倒れることなく狂気の笑みを浮かべる。
「どうした!それで終いかッ!!」
剣心の攻撃に屈することなく笑みすら浮かべながら焔霊を繰り出す志々雄。
それは剣心の胸を容赦なく焼き刻む。
だが剣心は、怯することなく破れた志々雄の包帯を掴み、彼の動きを奪う。
「傷の痛みなどそれを超える気迫と覚悟で耐えればいい。だが、力弱くとも懸命に生きようとする人達まで
その痛みを当然に強いる貴様の時代など、絶対に来させはせん!!!」
包帯をぐぃと引っ張り寄せると、そこへ九頭龍閃を見舞い
そのまま志々雄を壁まで吹き飛ばした。
「・・・・っ」
腹部に感じる激痛に顔を少しばかり歪めるも、は志々雄と剣心の闘いを見守る。
(結局…私は殺す事でしか役に立たないのか…私は、『生』を守る為の闘いには不要の存在なのだな)
そう心の中で苦笑する。
カツンと足音が聞こえ、その音は幾度となく聴いていた音。
の身体の芯を震わせる…
ポンと軽く、の肩に触れる大きな手に、逃げる事なくは小さくため息をついた。
「大人しくしていろ、後は奴の闘いだ。」
「斎藤さん・・・・。」
「阿呆が・・・」
「いっ!!!」
斎藤が、の腹部に手を押しつける。
見る見るうちに斎藤の手袋は赤く染まる。
の腹部に当てた手は出血を抑える為だろうが、激痛には変わりない。
気が遠くなるほどだったが、それでも必死に意識を保とうとする。
斎藤は、器用に手での傷を抑えながらも、その視線の先は雌雄を決する二人にあった。
「我慢しろ・・・自業自得だ。」
「・・・・・・・」
「俺から逃げられるわけないだろうが・・・」
「・・・・・・そんなに押さえてたら痛みが激しい・・・」
「だから我慢しろと言っている」
「普通、女にそんな事する?」
「フン、お前は普通の女よりタフだろうが・・・」
そう言いながらも、斎藤が心底心配している事が分かったは
黙って斎藤に背を預けた。
それが心地よかったのか、斎藤も口の端を緩めて、
傷口を抑えていないもう片方の手でを抱きしめた。
(2010/02/05 UP)