これも運命だと受け入れるのは容易ではない。
人はそれぞれ生きる理由がある。
誰しも自分ではない誰かに必要とされているから。
だけど信じているものが同じでも生き方が違えば・・・
人は争うしか出来ないのか?
いや、例え同じ生き方をしていても
信じるものが違うのなら・・・
宿るものが違うのなら・・・
やはり争うことしか出来ないのか?
その理由が分からない限り私は・・・・・・
第一話・・・始まりの宴
「教皇補佐…どうしたのですか?」
鈴を鳴らしたような声に振り返る。
そこにはすっと凛々しく立つ銀色の聖衣を纏う女聖闘士がいた。
「ああ、か・・・。」
「・・・・・・貴方は今執務中ですよ。」
「今は二人だけだがな・・・」
「教皇補佐!」
「分かった。”風鳥座エイパスの”」
そう呼ぶとくすっと仮面の下で笑う。
風鳥・・・極楽鳥とはよく言ったものだとサガは思った。
彼女の聖衣はその名の通り美しい形をしている。
その小宇宙も黄金聖闘士に負けないほど。
そしてこのエイパスの白銀聖闘士はサガの想い人でもあった。
「それでいいのです。さて、教皇補佐。今日はお休みのはずでは?」
はふわりとマントをなびかせ、サガの目の前に座る。
その姿を見て、思わず苦笑するサガ。
「そのはずだったのだが、報告書がまだ残っていてな。」
「そうですか。」
「・・・仕方あるまい。これも私の仕事の一つだからな。」
不機嫌全開の。
相手が誰であろうと自分の思う通りに行動する。
それが出来なければ気に障り、普通に相手を罵る。
こんな気性だからこそ、他の黄金聖闘士達とも対等に話せるのだろう。
だからといって、黄金聖闘士達はを嫌ってはいない。
むしろ惹かれているものが殆どだった。
「だから私がわざわざ来たのでしょう?”教皇補佐”。」
明らかに不機嫌と分かっていても、サガにとってそれは愛しく想えた。
「そうだな、だがそうやってすねていては気になって終るものも終らんのだが。」
そっとに近寄り仮面に手をかける。
するとその手を捕らえられたサガ。
「この仮面は取れませんよ、教皇補佐。」
「・・・・・・・・・全く。」
「ふふっ、気が変わらなければ貴方が早く仕事を終えるのを待っています。では。」
そう言っては教皇宮を後にする。
その後ろ姿を見届けるとサガはまた目の前の書類に目を通し始めた。
サガが仕事を終えたのはもう夕方近くになっていた。
全ての書類を片付け、一息ついているとドアをノックする音が聞こえる。
「はい。」
そう答えたサガの声と同時にドアが開いた。
「シュラか・・・」
「ここに来たのが私では不満か?」
そう言いながらシュラは少し微笑む。
おそらくサガが予想していた人物とは違ったからだと。
「どうしたのだ?」
「エイパスから言付けを・・・」
エイパスという言葉にピクっと反応するサガ。
そんなサガを見て苦笑するシュラ。
「で、何と言っていたのだ?」
その問いに少し困った顔をしつつも、シュラは答えた。
「言付けは、『貴方との約束はまた今度。』だ。」
「そうか・・・」
ふぅっとため息をつくサガに、シュラもつられてため息をつく。
「どうしてお前まで・・・」
「貴方が仕事に真面目過ぎるのが悲しくて・・・なんてのは冗談だが・・・」
少しは自分の為と言う言葉を知っているのなら実行した方がいいとシュラは答えた。
そんなシュラの言葉に苦笑しつつ、サガは目の前のカップを手に取る。
「どちらにしてもあれは気分屋だ。」
サガはそう言うとシュラにもコーヒーを淹れて手渡す。
「確かに・・・だがそんな彼女に惹かれる聖闘士は沢山いる。」
「ああ・・・」
「貴方を含め、我々も・・・・。」
思わず噴出しそうになるサガを横目にシュラは平然としていた。
「違うか?サガ・・・?」
「・・・否定はしないさ。」
サガは苦笑した。
そして、目の前にある書類を片付け出す。
「で、このあとどうする?」
急に空いた時間。
しばらくサガは考えると、何か思い出したかのように呟いた。
「そういえば最近の聖域で妙な事が起こっていたな・・・」
「ああ、雑兵達の小宇宙が奪われるというやつか・・・」
最近の聖域では雑兵の小宇宙消失という怪事件が起こっていた。
それについてアテナも頭を抱えており、
黄金聖闘士全員と数名の白銀聖闘士で調査が行われていた。
その中にはもちろんエイパスの姿もあった。
「まだ何も掴めぬのか?」
「ああ、相手は何も手がかりを残していないので・・・」
「・・・取りあえず、それについての報告書も残っていたな。」
そう言いながらサガは深くため息をつき、また報告書との睨めっこを再開した。
付き合いますよ、と笑いシュラは机の上の資料に目を通し始めた。
「今日はサガと約束をしていたのではないのか?」
宝瓶宮の奥にある庭園でカミュはに話しかけていた。
その庭園は水に囲まれた幻想的なところ。
カミュはその時間のほとんどをこの場所で過ごすほど気に入っていた。
この庭園に入ったことがある者は親友のミロなど親しい者だけだった。
は聖衣を取り去り、アイスブルーのイブニングドレスを纏っていた。
そのアイスブルーより深めの蒼い瞳がカミュを見つめる。
手にはワイングラスが持たれており、赤いワインがゆらゆらと揺れていた。
「・・・・・・さぁ、何のことかしら?」
「・・・・・・相変わらず気紛れだな。」
「そう?」
「他の者に・・・サガに一度でも素顔を見せたことがあるのか?」
「ない。」
そう即答してグラスを一気に空にする。
すっと出されたグラスにカミュは苦笑しながらワインを注いだ。
「なら何故私には見せる?」
「さぁ・・・」
クスクスと笑いながら答え、空いている手で漆黒の髪をかき上げた。
[アテナに仕える女聖闘士は素顔を見られてはならない]
そんな決まり事があるにも関わらず、は気の向くまま素顔を見せる。
そんな自由奔放なに惹かれている事も事実とカミュは自嘲気味に笑う。
「カミュは飲まないの?」
差し出されたグラスはすでに空になっており、カミュはまたもや苦笑する。
そして出されたグラスを受け取ると、今度はがカミュにワインを注いだ。
「、お前は何故・・・」
「女聖闘士なのに素顔を見せる?何て愚問はよしてね。」
「全く・・・サガが泣くぞ。」
「あら?サガが私に気がある事知ってたの?」
「客観的に物事を見ていればすぐに分かる。」
「ふーん。」
「それなのに私はお前の素顔を見ている。」
「だから?」
だから?と言われても困るのだがと思いつつ、
これ以上質問はやめることにしたカミュ。
いくらクールなカミュでも、想い人の前ではただの男。
カミュもに気のある一人だった。
「ま、私としてはお前の素顔を知っているのが一人という事で満足だが・・・」
「本当に?」
挑発的な笑みを浮かべ、ふわりとカミュの膝の上に座る。
カミュの首に手を回し、そう耳元で囁いた。
「取りあえず今は・・・な。」
カミュはワインを飲みながら、の腰に腕を回す。
その光景はまるで恋人同士。
夜風になびくカミュの真紅の髪との漆黒の髪が絡み合う。
月の光に照らされた蒼い瞳は、妖艶で美しかった。
「そう言えば・・・」
何かを思い出したかのようにカミュは呟く。
「あの事件はどうなった?」
「ああ、小宇宙の消失?」
「ああ、雑兵といえど小宇宙がなければ色々と支障が出るだろう。」
「んー。何か引っかかるのよね・・・」
は急に神妙な面で考え出す。
「何がだ?」
「小宇宙を奪い取るだけで殺しはしない。」
「ああ。」
「アテナの聖闘士を無くすなら殺す方が早くないかしら。」
「・・・確かに」
カミュも同じことを考えていた。
小宇宙がなければ、聖衣を纏うことは出来ない。
武芸に秀でていたとしても、
海闘士や冥闘士クラスの者と戦うにはそれ相応の小宇宙が必要である。
「それに・・・」
「それに?」
「それに、わた・・・・・・・・・!?」
が何か言いかけた瞬間、動きが止まる。
辺りに立ち込める異様に甘い香り。
同時に来る強大なプレッシャー。
瞬時に二人の顔付きは戦士に変わる。
「そこか!!」
カミュが放つ凍気が一ヶ所を貫く。
ガタンと音がして何かが倒れてきた。
「何者だ!」
「カミュ!まだいる!」
そう叫ぶとはカミュの膝の上から舞い上がり、
小宇宙を高めて技を放つ。
「!」
とはが通常使う技。
相手に対し、風鳥の持つ鮮やかな羽を突き刺すもの。
数千の羽がの姿を隠すように舞い、
その羽により相手が幻を見ているうちにダメージを与えるというものだ。
「・・・・・・やったか?」
「多分・・・」
は自分の周りを舞う羽を手に乗せて言う。
が、次の瞬間の身体に激痛が走る。
「っああああ!!!!」
「!?」
その場にうずくまる。
そのに駆け寄り、身体を見るがどこにも以上はない。
「な・・・に・・・この痛みは・・・」
「大丈夫か?」
カミュがを抱き上げようとした。
が・・・
パァァァァァン・・・
思わず己の手を押さえるカミュ。
そしてじっとを見つめた。
「一体・・・何だというのだ・・・。」
カミュは目の前に起こった事実にただ呆然と立ち尽くしていた。