己の力の無さにただ苛立ちを感じる

愛しい人が苦しんでいるのをただ見ているだけなのかと




第14話・・・日が昇るまで







が聖域を訪れてすでに5日が経った。
その間も、アテナや黄金聖闘士達は昼夜問わず、小宇宙を燃焼させていた。


「・・・・・・・アテナ」

「シオンですか・・・」


アテナ神殿で休んでいた女神に教皇シオンが言う。


「はい、いくらなんでも貴女様がお倒れになってはいけません。
黄金聖闘士と私が今日は参りますので、お休みください」

「ですが・・・彼女は眠る事無く闘っているのですよ?」


そう言ってアテナは黄金の杖を握り立ち上がろうとする。
しかし、さすがに体力も限界なのだろう。
ふらりと体を揺らし、シオンの方へとよろける。
シオンはそんなアテナを支えると、椅子に座らせた。


「ご無理をなさいますな・・・アテナ」

「すみません・・・シオン」

「貴女様が謝る事などございません。・・・ではアテナ。」

「お願いします・・・シオン」


アテナの言葉を聞くと、シオンは一礼しその場を去った。
小さくため息をつくと、アテナは己の手を見つめた。
苦しむの姿が目を閉じると瞼の裏に浮かぶ。
ぐっと杖を握る手に力を込めると、椅子に座ったまま祈りを始めた。



「がっ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「もう・・・5日か・・・」

・・・・」

「まだか・・・まだ足りないというのか」


教皇宮の一角でを囲むように黄金聖闘士が3人立っている。
シュラ、カミュ、ミロの3人だった。
その3人の中心に、自分の体を抱きしめるように、倒れているの姿があった。
シオンはその光景を見て、心苦しむ。


「・・・・・3人共、大丈夫か?」

「我々は大丈夫ですが・・・」


に手をかざす事を止めずにシュラが答える。
シオンは黙って頷くと、冥衣と聖衣を見た。
初日まで、禍々しい小宇宙を放っていた冥衣は
今、その勢いを弱めていた。


「アテナは・・・お疲れではないのですか?」

「カミュよ、だから今日は私が来たのだ。」

「教皇自ら??」


ミロは少し驚いた顔でシオンを見た。


「そうだ、・・・・・カミュ」

「はい・・・」

「今日はお前も休め」

「ですが・・・・」

「お前はこの5日、ろくに休みもせずにここにいるではないか」

「・・・・」

「今、お前が倒れてはアテナもも悲しむ。」

「教皇がそう言ってくれるとこいつも帰ると思いますよ」

「ミロ!!」

「・・・そうだ、カミュ。後は教皇と俺達でやる。」

「シュラ・・・分かった。」


カミュはその手を降ろすと、ザッと教皇へと頭を下げ、その場を後にする。
シオンはカミュが今まで立っていた位置に立つと、片手をにかざし、小宇宙を高めた。











「11日目・・・か」


宝瓶宮でベッドに座り、飲んでいた紅茶をサイドテーブルに置く。
髪をかきあげると、そのまま後ろに倒れこむ。


「あんなに・・・苦しんでいるのに私は何も・・・くっ!!!」


唇を噛み締め、目を閉じる。


「カミュ、いるか?」

「サガか・・・」


ふと寝室のドアの方から声が聞こえたと思うと
壁に寄りかかるサガの姿があった。


は?」

「今日はシャカとムウ、それにアフロディーテが行っている。ついでに愚弟もな」

「・・・そうか」

「眠れていないようだな・・・」

「ああ。」

「そんなでは、の元へは行かせられんな」

「・・・・・」

「もう11日」

「・・・・・」

「そろそろ結果が出てもおかしくないだろう?」

「ああ・・・・ん!!」


ふと顔を上げるカミュ。
サガもカミュの仕草に何かを感じる。
脳裏に響く小宇宙。


【おい、サガ!早く来い!!が!!】


「カノンか!」

「カミュ、行くぞ!!」

「ああ!!」

カミュとサガは聖衣を呼び、その身に纏うと教皇宮へと駆けだした。






教皇宮で、カノンがを抱きかかえていた。
ムウ達はアテナの元へと行ったのかその場にはいなかった。


!!」

「カノン!は!?」

「・・・・・・・・・・・」


悲痛な顔で二人を見るカノン。
カミュは言葉すら出ずにじっとカノンの腕の中にいるを見ていた。
やっと声が出たサガが、近寄りながらを見る。


「まさか・・・」

「・・・・勝手に・・・殺すな・・・・」

「「!!!!」」

「・・・・あぁ・・・・」

「無理はするな・・・」


カノンの腕の中で動こうとするに、カノンが制止する。
はそれに大人しく従っていた。


「聖衣は・・・冥衣は・・・・」

「・・・自分で見ろよ、サガ・・・・っ!!」

「カノン!」


カノンはがくりと膝をつく。
カミュとサガはカノンの傍へと駆け寄る。
そして視線を聖衣と冥衣の方へと向ける。


「「!!!!!」」


そこには、本来より輝きを増した聖衣と、小宇宙を全く放たない冥衣があった。


「やったのか?」

「・・・・冥衣の方は・・・・な」

「・・・・私の・・・方は・・・やはり時間が・・・足りな・・・か・・・た」

!?」

「少し・・・休ませ・・・て・・・」


そう言うと、はカクっと手を落とし、カノンの腕の中で気を失った。
カミュは切なそうにの手を握ると、その手から己の小宇宙を流し込んだ。
少しでも早く体力が回復するようにと・・・・

カノンは、カミュにを抱かせ、己はサガの肩を借りてアテナの間へと向かう。
アテナは4人が来るのを待っていた。


「カノン、御苦労さまでした。サガ、カミュも・・・」

「いいえ、アテナ」

「カノン、貴方は双児宮へお帰りなさい。そしてゆっくり休んで下さい。」

「はっ・・・ありがたきお言葉・・・」

「カノン、後でな」

「ああ。」


サガはカノンの肩を軽くポンと叩くとその苦労を労うように視線を向けた。
カノンは黙って頷くと、アテナに頭を下げその場を後にした。


「カミュ、サガ」

「「はっ」」

「時間が足りませんでした・・・・すみません」

「アテナ!!貴女様が詫びをするなど・・・」

「そうです!!」


サガとカミュはアテナに言う。


「それに冥衣はその力を失っております」

「これもアテナ、貴女様の小宇宙のおかげなのです。」

「それは私だけではありません。貴方達の力が大きいのですから・・・」

「「・・・・・・・」」

「とにかく、今はを少しでも眠らせてあげましょう・・・後は・・・・の小宇宙を信じて」

「「はっ」」








宝瓶宮でを休ませるようにとアテナに言われ、
カミュはを自分のベッドへと眠らせた。
上下する胸に安心するも、やはり時間が足りなかったと思う。
手に取った本をもう一度開き、ベッドの近くに椅子を起き座る。
そしてその本に目を通した。

そこに書かれている真実に、カミュは他に手はないかと考えを巡らせる。
しかし、疲れ切った体と頭ではなかなか考えがまとまらない。
カミュはため息をつくと、その場を後にし宝瓶宮内の庭園へと足を向けた。


満天の星を見上げるカミュ。
今日は新月。
月の光がない分、星が殊更美しく見える。
カミュは、ふっと視線を感じてその方向を見る。


!?」

「・・・やっぱりここにいた」

「体は!?まだ休んでいないと・・・っ!?」


の方へと駆けよると、心配そうに見つめた。



「・・・・・・・カミュ」


ふわりとカミュの髪が舞う。
は腕を伸ばし、カミュの体を抱きしめていた。


・・・・」

「・・・・ありがとう」

「私は当然の事をしただけだ・・・」

「いいえ・・・苦痛の中、いつもカミュの小宇宙を感じた。ここに居ても小宇宙を送ってくれたのでしょ?」

「私には・・・それしか出来なかった」

「嬉しかった・・・」

「らしくない・・・・な・・・」

「そう?」

「ああ・・・・貴女も・・・・私も・・・・」

「カ・・・・・」


唇がやけに熱く感じた
カミュがの体を抱きしめ、の唇を塞いでいた。


「・・・・・カミュ」

「・・・・・すまない」

「・・・・・・・・・・嬉しい・・・かな」

「そうか・・・・」


突然の行動だったのにも関わらず、拒絶する事無く微笑む
カミュはふっと笑うが、内心では悔しさで一杯だった。
自分の行動に一瞬後悔しながらも、
それ以上にに何もしてやれない自分が歯痒かった。


「・・・・・・もう・・・・戻らないと・・・・ね」

「冥界へか」

「ええ・・・・約束だからね・・・明日、朝日が昇るまではここにいれるけど・・・」

「・・・・・


の言葉にカミュは抱きしめる腕の力を込める。
その想いを感じたのか、はカミュの胸に顔を埋めて小さく呟いた。


「・・・・・ごめんなさい」

「・・・・・・すまない」


の呟きと同時にカミュも言葉を発する。
その言葉には少し目を開いてカミュを見た。


「何を?」

「・・・・・・これ以上私は貴女に何もしてやれない・・・だから」

「・・・・あるわ」

「?」

「カミュにしか出来ない事が」

「何が・・・出来ると言うのだ・・・


カミュがそう言ってしばらくの間無言だった
そしてもう一度、カミュの胸に顔を当てるとふっとカミュを見つめた。


「・・・・一つに・・・して」

「!?」

「今夜・・・一つにして」

!?・・・・何をいっ!!!」


の両手がカミュの頬に添えられ、そのままカミュは言葉を出せなかった。
触れたの手と唇は、まるで氷のように冷たかった。