何だ、この胸に宿る蒼い炎は…
ああ、これが『嫉妬』というものか。


カミュは自宮のリビングでじっとしていた。
もう日は暮れたというのに、部屋に明かりが灯る気配すらない。
あるとするなら、辺りを覆うような冷気だけだった。

「…私が…嫉妬しているというのか?」

ふふっと自嘲気味に笑うと、近くの棚にあるウォッカを取り出す。
そして、ストレートでそれを飲み干した。
喉の焼けるような感覚。

「……全く、私も人という事か…」

カミュがこうなったのは彼の恋人に原因がある。
いや、正確にはその恋人の周囲なのだが。




聖域の近くの湖。
そこは、『彼女』のお気に入りの場所だった。


「やぁ、!今日も綺麗だね。私のところでお茶でもしないかい?」

「アフロディーテ!お茶??んー今から沙織とデートなんだ。」

アフロディーテが声をかけた女性。
腰までの黒髪を風になびかせ、ふわりと柔らかく微笑む。
決して絶世の美人というわけではないが、その内に秘めたものに惹かれる。
彼女はと言う名で、カミュの恋人である。

「アテナと?なら仕方ないね。」

「うん、ごめんね?」

「いや、気にする事はないよ。」

そんな会話が終ったと思いきや…

「ああ、ではないか?」

、こんにちわ。」

「シオン、ムウ。珍しいね、ここに来るなんて?」

シオンとムウの二人はにこやかにに話しかけた。

、そういえばアテナが探していらっしゃったが?」

「そうそう、沙織と出掛ける約束してたんだ!」

「その事なのですが、先程アテナがを見つけたらこれを渡して欲しいと。」

そう言ってムウはに手紙を渡した。

【ごめんね、お姉さま。急用が入ってしまって出掛けられなくなりましたの。】

その手紙には財団の仕事が入ってしまったので、
お出かけはまた今度と書いてあった。

「そっか、仕事なら仕方ないもんね。」

がそういって笑う。
ムウとシオン、それからアフロディーテ。
3人は少なくともに惹かれていた。
が、はカミュの恋人という事をちゃんと知っていたので、
仲のよいお友達付き合いをしていたのだった。

「じゃあ、。今から双魚宮でお茶をしよう!貴方達もどうぞ。」

言うや早いか、アフロディーテはの手を取り、さっさの自宮に戻る。






「きゃははははは!やだ、シオン!」

「私は本当の事を言っているのだ!小さい頃何かは…」

「やめてくださいよ!シオン!」

「いいじゃないかい。ムウ、君を苛めるネタになって。」

双魚宮、アフロディーテの自慢の薔薇園で優雅にお茶会が開かれていた。
3時間程経った頃。

「そういえば、そろそろ帰った方がいいのではないか?」

シオンの言葉にはっとする

「きゃっ、もうこんな時間!帰らなきゃカミュが心配する!」

慌てて立ち上がり、宝瓶宮に向かって走り出す

「気をつけてお帰り。」

「またお話しましょうね、。」

「また、皆で語ろう。」

3人に手を振りながらは急いで宝瓶宮へと戻った。




「ただいま!…カミュ?」

宝瓶宮には明かりは灯っていなかった。

「寒い…カミュいるの?」

あまりの寒さに身震いしながらは宮の奥に歩みを進める。
この寒さはカミュがいる証拠。

「カミュ?」

リビングのソファに人影を見つけ、そっと近寄る。

「…カミュ?どうしたの?明かりもつけないで。…ッ!!!」

突然腕を引っ張られる。
は驚き、身を硬くした。

「……カっ、カミュ!?」

「・・・・・・・・・。」

抱き締められるのは嫌ではない。
だが、いつもと力の入れ方に不審を抱く。

「どうしたの?ねぇ、カミュ?」

「・・・・・・・・・だ。」

「えっ?」

「・・・・・・何でもない。」

そう言ってを離し、明かりをつける。
一瞬、眩しさで目を閉じた。
ゆっくり目を開けると、カミュの後姿が見えた。

「どうしたの?何か、いつもと違うよ?」

そう言ってそっとカミュに触れようとした瞬間。
パシンッ
という乾いた音が部屋に響く。

「……カ…ミュ…」

「………!す、すまない。」

唖然として手を押さえながらカミュを見る
カミュは自分の起こした行動に戸惑いながらも、表情には出さず謝った。

「…いいよ。何か疲れたから寝るね。…おやすみなさい」

!」

「・・・・・・・・」

名前を呼ばれ、ビクッとするがすぐには寝室へ向かって歩き出した。
一人残されたカミュはその場に立ち竦むしかなかった。