あたしは他人との馴れ合いなんかしたくないと思ってた。
だって、いつか離れてしまうから。
そんな事を考えるようになってから、世界を見る目が変わった。
何をしても、冷めた自分がいる。
だからって、それを表に出せば周りは何かしら気を使って寄ってくる。
それが嫌だった。
だから、私は笑顔で過ごすようになった。
偽りの笑顔で・・・





「今日も天気がいいですね。」

ムウは白羊宮の外で大きく背伸びをした。
ここのところ、大きな事件もなく平和が続いている。
アテナはこの機会にと、サガやカノンを連れて日本に行った。
理由は星矢たちと逢うためだとすぐに分かったが。

「さて、今日はどうやって過ごしましょうか・・・」

久しぶりに聖衣を脱いでどこかに出かけるのもいいかもしれない。
いつもは自宮にこもって、読書や聖衣の修復などをしている。
こんなにいい天気なら外に出るのもいいかもしれないとムウは支度を始めた。

「さて、とりあえずシャカの所にでも行きますか。」

そう言うとムウはシャカのいる処女宮へと歩き出した。
しばらく歩くと、目の前に見知った女官がいた。

「いい天気ですね、。」

ムウはその女官へ声をかける。

「・・・あっ!ムウ様!おはようございます!!」

底抜けに明るい笑みとはこの事をいうのか。
ムウに向けられたその笑顔と声はとても明るかった。

「今日は休みではないのですか?」

「ええ、でも掃除だけはしなきゃって。」

「そうですか、頑張ってくださいね。」

「はい、ありがとうございます!!」

そう言ってムウはと別れた。



私も正直ではないですね。

ムウは心の中で思う。
本当はをどこかに誘おうと思った。
他の黄金聖闘士たちはどうか知らないが、
ムウはの笑みが偽りではないかと思っていた。

その思いが生まれたのは、1ヶ月前。
アテナの誕生祝いで皆が集まった時。
いつもは侍女服に身を包む女官たちも着飾って、
パーティーに参加していた。
当然、も。
他の女官たちが仲間の黄金聖闘士たちと楽しげに話をするのに比べ、
は会場の隅でその光景を笑顔で眺めているだけだった。

いや・・・上辺だけの笑みとすぐにムウは分かった。
瞳が違ったのだ。

『冷めた瞳』

その時、ムウがいつも見ているはそこにはなく、
ただ物事を冷めた視線で見るがそこにいた。





「あの笑みは・・・本物何でしょうか。」

「君らしくない表情だな・・・ムウ。」

いつの間にか処女宮に着いていたムウ。
入り口で立っていたシャカがフッと笑いながら近付いてきた。

「シャカ、私はそんなにおかしな表情でもしているのですか?」

ムウの問いにシャカはクッと喉を鳴らして笑う。

「ああ、まるで恋に悩む乙女の様な顔だ。」

「乙女・・・ですか。・・・ふぅ。」

「どうかしたのかね。私でよければ相談に乗るが・・・」

シャカに勧められるまま、ムウは処女宮に入る。

「シャカ、貴方は本心を隠して笑う事をどう思いますか?」

「ふむ・・・悲しい事かもしれん。」

シャカはムウにお茶を出しながら、答える。

「しかし、その本人にとってそれが最大の自己防御とも言えるのではないか?」

シャカが言うには、自分の生まれや関係、精神的苦痛から逃れる手段の一つ。
それが本人にとって最大の防御法なのだと言った。

「・・・そうですか。」

「・・・か?」

「・・・・・・ええ。」

「惚れたか・・・ムウよ。」

「悪いですか!!」

ムウは真剣な眼差しでシャカを見た。
その閉じられた双瞼の奥に優しい小宇宙を感じる。

「いや、ならば少しづつ援護すればいい。」

「はい?」

「その防御が緩むよう。おそらく、は自分しか信じていないのだろう。」


自分しかいない。
誰の助けも要らない。


そう思う気持ちが強いからではないのか、とシャカは言う。

「なるほど・・・分かりました。ありがとうございました、シャカ。」

「礼には及ばん。君らしくしていれば良いだけの事だ。」



シャカに挨拶をし、ムウはの姿を探した。

初めは少しづつ、馴染むことからだと・・・