下ろした髪の長さは腰の下辺り。

色白の肌に一瞬目を奪われた。

艶やかとはこの事を言うのだろうか?

正直驚いた。










【 第二幕 己の正義を貫くために 】










「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


周囲に響く の悲鳴。

耳に手を当て、片目を閉じる沖田は、

斎藤の方に目をやる。

斎藤はと言うと、足元に薬入れを転がして呆気にとられていた。


「・・・・五月蠅い、阿呆」

ハッとして・・・だが何事もなかったかのように斎藤は薬入れを取ると、

スタスタと部屋に入ってきた。


「同性に裸見られたくらいで騒ぐな、阿呆」

「同性だろうが何だろうがいきなり見られたら恥ずかしいもんだ!!!」


はそう言いながら斎藤に向けての鞘を飛ばす。

斎藤はパシッとその鞘を掴むと、沖田の横に座り込んだ。


「傷はどうなんだ?沖田君?」

「さすがはさんと言ったところでしょうね。七日もあれば治りますよ。」

「そうか」


そう言うと斎藤は沖田に薬をやる。


「これ、斎藤さんの?」

「ああ、刀傷にはよく効く。くんに渡そうと思ってね。」

「よかったですね、さん。これ、本当によく効くんですよ?」


沖田はニコニコしながらに薬を見せた。

はと言うと、さも不機嫌そうに夜着を羽織った。


「・・・・・・・・有難うございました、斎藤さん」

「何だ、全く有り難くない言い方だな?」

「僕の肌を見ていいのは総司くんだけなんですよ!!!」


その言葉に斎藤は沖田とを交互に見る。


「お前ら・・・そう言う関係なのか?」

「・・・・・・さ、斎藤さん・・・・それは言ってはいけない言葉です・・・ほら・・・」


沖田が指差す方を振り返るとの手には

斎藤はやや冷や汗をかきながら沖田に救済を求める視線を送る。

が、沖田はやれやれといった顔で両手を上げた。


「斎藤さん・・・・僕は男色の気はないんですよ!!!!!!」


轟音と共に総司の部屋の障子が吹っ飛ぶ。

斎藤はと言うと、間一髪の剣を避け、空中で一回転すると中庭に降り立った。


「じょ・・・冗談だ。本気にするな・・・」

「嫌だなぁ、斎藤さん。僕だって、本気で斬ってませんよ?」


笑ってはいるが明らかに目が据わっているが斎藤に向かって言う。


「本気だったら斎藤さんのどっかに傷が出来てしまってますって」


そう言いながら障子を片付ける沖田を横目に、斎藤は額に手をやり

はぁっと盛大な溜息をついた。

斎藤はそのまま片手をあげて自室へと向かった。












沖田とはそれからずっと部屋で話をしていた。


「・・・・ぎりぎり気付かれなかったようですね。」

「だといいが・・・」

さん・・・」

「正体がばれたらここにはいられない・・・と思うだろう?」

「まぁ、貴女の性格上、そうだと思いますけど・・・」


沖田はお茶を飲みながら答える。

‐‐‐を見つめながら苦笑していた。


「斎藤さんは大丈夫だと思いますよ。」

「総司くん?」

「もし・・・」

「?」

「もし、僕に何かあった時は、後の事は斎藤さんに任せようと思っています。」

「そんな事言うな!」


は怒り声で答える。

今の沖田の体調を知っていたからだ。

肺を病んでいる沖田がいつまで戦えるのか分からない。

そのことで一番苦しんでいるのは沖田自身だということも知っている。

それでも自分の事を案じてくれる沖田に

もまた苦しんでいた。


「あはは、そう怒らないでください。」

「総司くんが変な事を言うからだ!」

「はは・・ゴホッ・・・・」

「総!!!」

「大丈夫ですよ。でも、さん。」

「何だ?」

「本当に大切な事なんです。もし、もし僕に何かあったら・・・」

「・・・・・・」

「僕は斎藤さんに全てを話します。」

「・・・・・その前に僕は消えるよ?」

「そうはさせませんよ。僕の後は貴女が継ぐんだ。」

「総司・・・くん」

「少なくとも、貴女は誰よりも強い。僕や斎藤さんよりもね。
だから僕の今の地位を継げるし、誰も文句は言わないですよ。」

「・・・・・・・・」

「それに、貴女は斎藤さんの事、慕っているんでしょ?」

「なっ・・・」

「隠し事なんてできませんよ、何年僕たちは一緒にいると思ってるんです?」


そう言って笑う沖田には参ったという表情を浮かべた。


「今は・・・僕たちの正義を貫くだけだよ、総司くん」

「・・・・さん」

「今は・・・僕は であって、ではないからね。」


寂しげに笑ったを総司は哀しいなと思いながら見つめた。









斎藤は自室の床につく。

深夜過ぎというのにやたらと頭が冴えていた。


「・・・・・・何だったんだ・・・あれは」


頭に浮かぶのは先ほどのの姿。

後ろ姿だったとは言え、一瞬感じた欲情。

斎藤は苦笑すると、布団から出て厨房へと向かう。


(馬鹿な・・・あいつはどう見ても男だし・・・俺はどうかしているのか?)


そんな事を考えていてふと歩みを止める。


(あれは・・・・・・か?)


中庭に立つ人影。

さぁぁぁっと雲が晴れ、月光に映し出されたその姿に斎藤は息を呑んだ。

長い髪を夜風に靡かせ、じっと月を仰ぐの姿は

とても幻想的で儚く見える。

斎藤は気配を殺し、その姿をじっと見ていた。


「・・・・綺麗だな」


思わず声に出してしまった斎藤。

その声に、はハッと振り返る。

壁に寄り掛かって腕を組む斎藤の姿に、いけないものでも見られたような気分になる。


「何をしていた?」

「月見だよ・・・綺麗だろう?」

「ああ、そうだな」

「そう言う斎藤さんは何をしにこんな時間に?」

「俺は何か飲もうかと思ってな・・・」

「月見酒でもしますか?」

「まぁ・・・それも悪くないな。」


そう言う斎藤に、はいつもの笑顔ですっと手を挙げた。

その手にはすでに酒瓶が用意されていた。


「ずいぶん用意がいいんだな」

「知らなかったのですか?僕はいつもここで一人月見酒を楽しんでいたんですよ」

「・・・・・・・・・・」

「ま、こんな夜中に起きている人の方が珍しいけれど」

「そうだろうな・・・」


斎藤とは縁側に座ると杯を交わす。

杯をぐいっと飲み干すと、はすぐにまた酒を注いだ。

その様子を斎藤は見て苦笑する。


「よく飲むな・・・」

「酒は身を清めるし・・・それに・・・」

「それに何だ?」


じっと見つめてくる斎藤に、わずかに鼓動が速くなるがフッと笑って答えた。


「忘れたい事を忘れられるからかな?」

「人斬りか?」

「あの感触・・・悲鳴・・・憎悪と絶望に満ちた瞳・・・目を閉じると嫌でも浮かんでくる」

「・・・・・・・」

「あいつらの怨念は僕が一人で受けていればいいんだ」

くん、お前あまり人斬りに向いていないな」

「ははははは、酔っているのか?」

「これくらいでは酔わん」

「僕はただ自分の正義のために剣を振っているんだ」

「お前の正義は何だ?」


斎藤の質問に、しばらく考えたあとには答えた。


「愛し合う者同士が殺し合わない世の中。
そうし向けさせない世の中。
それを邪魔する世の中の悪をすべてなくしてやる。」


そう言いながら憂いを帯びた瞳を月に向けた。

斎藤はそんなの姿を見ながら、杯を傾けた。

そんな会話をしている内にもう酒瓶を3本以上は空けている。

さすがの斎藤も酔いが回ってきたのか、眠気に襲われ始めた。

ふと隣を見ると、も酔いが回っているようだった。


「おい、寝るか?」

「あ、ああ」


そう言って立ち上がろうとする

だが急に立ち上がったせいか、足元がふら付き倒れそうになった。


「わっ!」

「阿呆っ!!」


どんと斎藤が手を差し伸べる。

お互い抱き合うような体制。

は胸が一層高まる。

斎藤はちょうど腰のあたりに腕が回っていた。

が、その腰の柔らかさが変だと気付いた斎藤はふっとを見た。

酒のせいだと言うことは分かりきっていたが

情事を思わせるような顔つき。

細く白いうなじ、そこから見える首筋など、どう見ても女を連想させた。


「・・・・・・・・・」


ふと名前を呼び捨てで呼ぶ。

はバツが悪そうに


「悪い!」


と言ってばっと離れると、は足を自室へ向けた。

残された斎藤は自分の手に残った感触が女であったと確信した。

そして小さく笑う。


「・・・沖田くんに聞いてみるか・・・」






      

(2009/03/31 UP)