憎い・・・憎い・・・憎い・・・
黒い感情が私の中で渦巻き始める・・・
今の自分は創られた幻想の世界の住人
けれど、今だけはただ貴方の側に・・・
【第十四幕 憎しみの黒き桜が舞う前兆】
斎藤と二人で森を抜ける。
村が見え始めた時、斎藤は刀に手をかける。
「斎藤さん?」
「・・・・・フン」
ちらりと斎藤の視線を追う
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!親父!!お袋!!!わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そこには泣き叫び、地に伏せる少年とその背中をさする少女の姿。
「ねぇ、しっかりして!ねぇ!!」
少女---巻町操は隣りに膝まづいている少年---英次を揺さぶる
「辛いのはわかるけど、ここでへたり込んでる場合じゃないのよ!泣いたって死んだ人は返らないんだから。
今はまず、立ちなさい!!」
操が必死に英次に呼び掛ける。
その二人の背後に忍び寄る影が一つ
「ぁ・・・っ!!」
(ドクン!!!)
その様子に小さく呻き、片手で頭を抱える。
「他所者には・・・死あるのみ!」
操が気付き振り返ると、そこには敵が二人を突き刺そうと槍を構えていた。
突きだされた槍を、間一髪で操は英次を抱えて避ける。
すぐさま操は体勢を立て直し、飛苦無を構える。
「他所者には死ある・・・・」
---ザシュッ
男の口元から突き出た刀を操と栄次は唖然として見る。
それはもう一人---斎藤も同じだった。
「・・・・・・・っ!!」
何も考えていなかった。
ただ目の前で殺されそうになっている少女達が、自分の記憶の中に何かと重なったのは事実だった。
は未だ片手で頭を抑えたまま、男から刀を抜くと、ヒュっと小さな音を立てて刀に付いた血を振り払った。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
未だ刀を見つめているの隣に立ち、斎藤は剣心を横目で睨みながら言葉を発した。
「フン、あの野郎、京都へ向かっているとばかり思っていたら・・・こんな所で、何油売っていやがる!」
全ての敵を倒した剣心は操たちの方へを視線を移す。
そこには刀を見つめると操、栄次・・・そして・・・
「オイ、こんな所で何道草食っているんだ」
「!!何故、お前たちがここに・・・」
「仕事だよ。ここに放った俺の部下から今、志々雄がいると連絡がはいってな。
討伐隊の京都到着までまだ時間があるから足を伸ばした訳だ。もっとも、そいつは行方知れずになっちまったがな」
その言葉に剣心はハッとして栄次の方を見る。
「まさか・・・あの少年の兄は警視庁の密偵・・・」
「少年?」
操は栄次をそっと前に出し、斎藤はその姿と剣心の言葉に合点がいったようだった。
「そうか、三島栄一郎は元々この新月村の出身。だからこそ、怪しまれずに入れるだろうと送り込んだが」
フンと鼻を鳴らしながら斎藤は言葉を続ける。
「馬鹿な男だ。俺の到着を待っていればいいものを」
「ちょっと、あんた。死んだ部下に対してそんな言い草はないんじゃない!」
斎藤のその言葉に操は居た堪れなくなり強い口調で斎藤を攻撃する。
斎藤はそんな操を見て・・・
「オイ、なんだこの---」
頭の中で順番に浮かび上がる人物と動物
高荷の女医者 → → → 狐
神谷道場の娘 → → → 狸
目の前の小娘 → → → 鼬
「---イタチ娘は」
・・・・・・・・ブチッ
「殺す!ブッ殺す!!くらえ!!貫殺飛苦な・・」
「まぁまぁ。落ち着いて」
「フン・・・・・・!」
そんな三人の様子を未だ見ることなく刀を持ち続けているに気付き、
斎藤はさっとの方へを向かうとそっと肩に触れようとした。
「おい、大丈・・・・」
「・・・・・・・な・・・・」
「!!」
「私に触るな!!!!!!!!」
「!・・・っち!!この阿呆!!!」
その言葉に栄次を含め、その場にいた斎藤以外の全員がを見る。
斎藤は舌打ちしながら抜刀した。
キィィィィン
刀がぶつかり合う音が響く。
ギリギリと斎藤の刀を押しやる。
どこにそんな力があるのか斎藤にもわからなかった。
「おい!・・・・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・っ!!」
頭を押さえながら、顔を上げたの目に斎藤は絶句した。
それは全てに対し何も感じていないような・・・紫の目
幕末の頃・・・一度だけ見た・・・あの・・・人斬りの暗殺者【】の目そのものだった。
「・・・・・・っ・・・!!!」
ガランと音を立てて刀を落とす。
斎藤は納刀し、の様子を見る。
「・・・・・・あ・・・・・・・」
「大丈夫か」
「あ・・・・ええ。すみません。」
いつもの笑顔で斎藤を見る。
だが、何かまた雰囲気が違って見えた斎藤。
声をかけようとした時、操が口を開いた。
「・・・姐?」
「・・・・貴女は・・・操?」
ゆっくりと操の方を見る。
操はパァっと明るくなり、に抱きついた。
「姐!!どこに行ってたの!?蒼紫様、凄く心配して探してたんだよ!」
「ごめんなさい・・・」
「謝らなくてもいいよ!だってやっと会えたんだもん!」
「そう・・・ね。」
「おい、」
斎藤が操から半ば強引にを奪い取る。
「きゃっ!」
「あ!姐!・・・何すんの!!」
「五月蠅い、イタチ娘。」
「くぁぁぁぁぁぁ!!!ムカつく不良警官!!」
「み、操殿、落ち着くでござるよ・・・」
「離せ!緋村!!今度こそ!!!」
「操殿!!」
そんな緋村と操の様子を気にすることなく、斎藤はを振り向かせた。
眼光は少し和らいではいるが、先ほどの雰囲気はまだ抜けきっていなかった。
「思い・・・出したのか?」
「断片的に・・・」
「・・・・・・・」
「ただ、その・・・」
「幕末の事はまだか」
「何か・・・もう少し何かあれば・・・」
「・・・・平気か?」
「はい。斎藤さんがいますから・・・」
「・・・・・フッ、お前の側にいると俺はいつ殺されるのやら・・・」
「あ、すみません。」
そう言って苦笑するに、斎藤は少し柔らかい笑みを浮かべた。
「・・・早く降ろして弔ってやろう」
剣心は斎藤たちに向かってそう言うと、英次の両親の遺体を見る
「・・・・そうね」
操が答えるが・・・
「待て!」
その言葉と同時に出て来たのは新月村の村長と村男達だった。
男たちは剣心達を見ながら口を開く。
「それを降ろしちゃあならん!」
村長の言葉に剣心達は眼光鋭く見つめる。
「勝手に降ろしてもし尖角の怒りにふれてみい。儂ら、村の者はひとたまりもない。
尖角の許しが出るまでそれはそのままにしておくんじゃ。」
剣心達を指さしながらそう言う村長。
栄次は下を向きながら小さく怒りに満ちた拳を震わせている。
「何言ってんのよ!同じ村の仲間でしょ。その人達がこんな目にあってもまだあんた達はその尖角とやらにしたがうっての!」
操がそう叫ぶが、村長たちの意思は変わらないようだった。
「尖角に刃向かえば死・・・じゃが・・・刃向かわねば生きる事はできる!これ以上事を荒立たせぬよう、
村のためじゃ、お前ら他所者と三島の者は今すぐこの村を出て言ってもらう。英次、いいな。」
「この・・・」
怒りながら飛び出そうとする操。
それを止めたのは意外にも斎藤だった。
「怒るな。自分の命を懸けてまで人間の誇りと尊厳を守ろうと出来る者などそうはいないもんだ。
ただ、生きるなら家畜同然。誇りも尊厳も必要ないからな」
斎藤は操の頭をガシっと掴みながらも村人達を睨み付けた。
「何とでも言え。」
「他所者に何がわかる。」
「大体、お前ら警察がだらしないから。」
「そうだ、そうだ。」
「とにかく、遺体を降ろすのは我々が許さん。お前らはさっさと出ていけ!」
ザシュッ・・・ザシュッ・・・
剣心が栄次の両親を吊るしている縄を斬り、二人を地に下ろした。
まだ文句を言ってくる村人に、剣心が睨みつけると、村人達は怯えながらもその場を後にした。
栄次の両親を弔うと、斎藤は剣心と志々雄の館へ向かった。
斎藤のすぐ後ろにはの姿。
本当は操と共に栄次の側に置いておこうと思ったが、先ほどのような事があったら
間違いなく、二人はただでは済まないだろう。
剣心に視線を移すと、剣心も同感と言った表情を浮かべたので連れて来たのだ。
志々雄の館の門前には瀬田宗次郎が立っていた。
「緋村抜刀斎さんに斎藤一さんですね。・・・・それから・・・」
「そ・・・宗くん・・・」
宗次郎は相変わらず、ニコニコとしている。
斎藤と剣心は驚いてを見る。
「まさか、貴女も来るとは思っていませんでしたよ。」
「そ・・・そんな・・・それじゃ・・・斎藤さんたちの敵って・・・」
「はい、僕も含め、志々雄さんもですよ。その様子じゃまだまだ記憶の方は戻っていないようですね」
「・・・・どういうことだ。」
斎藤は宗次郎を睨む。
宗次郎はやれやれと言った手つきで斎藤に話す。
「さんが記憶を失っている間、僕が面倒を見ていたんですよ。彼女、ボロボロになって僕の前に現れたので。
詳しいことは志々雄さんに聞いて下さい。僕が答えると志々雄さんから怒られてしまいますからね。」
そう言いながら宗次郎は志々雄が待ちかねているので来るようにと促す。
ちらりとを見ると、信じられないといった表情で宗次郎を見ていた。
斎藤は小さくため息をすると、の耳元で囁く。
「・・・・・知っていたのか?」
「いいえ・・・・・私の事・・・敵と見做して今斬りますか?」
じっと斎藤を見つめると斎藤はフッと笑って一度だけ首を振った。
その様子に安堵し、は斎藤の服の裾をぐっと握る。
「斎藤さん・・・・」
「何だ・・・」
「貴方の側に・・・いたい・・・・」
「・・・・・・・・・・知っている」
そう言うと斎藤は先を行く剣心の後を追った。
の手を一度ぐっと強く握り返して・・・・
(2009/04/18 UP)