永久とも思える永き年月・・・
ようやく巡って来たこの瞬間・・・

まだ完全に目覚めるには力が足らない・・・
だが、この想いを果たすには十分・・・






第三話・・・継承へ






『神話の時代、私はアテナに仕え、地上の愛と正義のためハーデスとの聖戦を闘った。』

サガ・カミュ・シュラの三人は椅子に腰掛け、
宙に浮いたまま天を仰ぎ語る・・・古きエイパスを見つめていた。

『ハーデスとの聖戦は永く続いた。仲間の聖闘士は次々に倒れていった。』

ふと神妙な顔付きになるサガたち。
かつて、自分たちもハーデスの走駆として仲間達と戦ったことを思い出した。

『最強を誇る黄金聖闘士達も疲れ果てていた。
当たり前といえばそうなのかもしれない。
冥闘士達の勢いはそれほどのものだった。』

「・・・それで?貴女が闇に堕ちたという理由は何なのだ?」

シュラが少し苛立ちを現しつつ問いかけた。
自分の古傷をえぐられる様な感覚になったのだろう。
そんなシュラでも一応、敬意を示していた。
かつての聖闘士、しかも神話の時代の聖闘士なのだからという理由らしい。
そんなシュラを見て、くくっと苦笑すると一呼吸おいてエイパスは語りだした。

『私は・・・人身御供となったのだよ・・・聖戦を終わらせるためにね。』

その言葉に目を見開くサガ。
俄かに信じられないという顔のシュラ。
そして、じっとエイパスを見つめるカミュ。

「まさか・・・そんな事が・・・」

『アテナの意思だ。それに私の意志でもある。』

サガの言葉に瞳を閉じたまま答える。

「アテナがそんな・・・」

『ハーデスからの申し出とは言え、仕方なかったのだ・・・』

シュラの言葉に苦笑して答える。

「・・・・・・・・・本当に自ら望んで?」

『・・・そうだ。』

カミュの言葉に少し悲しげな表情で答えた。
そして、ふわりと三人の目の前に降り立つと、泉の中に足を踏み入れた。

『本当に仕方なかったのだ。ハーデスからは女聖闘士と限定されていたし・・・』

当時生き残っていた女聖闘士は私だけだったと。

「・・・だ・・・だが、それでも貴女の纏う小宇宙は・・・」

「そ・・・そうだ。例えハーデスの下にいたとしても、その冥闘士特有の小宇宙は・・・」

『・・・簡単な事だ。私がハーデスに下った時、私からはエイパスの証を剥奪された。』

「なっ!!そんな事が・・・」

サガはカタンと音を立てて椅子から立ち上がり、
自分たちの後ろにいるエイパスを見る。
エイパスは水の中で手を天に掲げ、まるで月光をその身に集め、
自らを清めているかのように見えた。

「・・・・・・その小宇宙はそれが原因なのか?」

シュラの問いかけにエイパスは黙ったまま頷く。

『私とて、この様な地位も小宇宙はいらなかった。私の想いが強すぎたのかもしれない・・・』

「地位?想い?」

カミュの言葉にしばらく間をおいてエイパスは答えた。

『・・・地位とは天剣星レーヴァテインの冥闘士。
想いは・・・アクエリアスよ、お前にも分かるだろう?人を想うという事・・・』

エイパスの言葉にただ視線を逸らさずにいるカミュ。
真紅の瞳から何かを感じ取ったエイパスは視線を月へと戻した。

「・・・天剣星・・・正規の冥闘士か・・・だが我々が・・・」

『・・・私は正規の冥闘士でも特別な存在。身体を持たぬ唯一の冥闘士。
お前たちが知らなくても当然の事だ。』

シュラの言葉にエイパスは足を組み直しながら答えた。

『盟約により私の魂は転生を許されなかった。だが肉体だけは転生していった。
私と同じ身体・・・。それを冥界で眺めておくだけとは、何と悔しいことか・・・』

エイパスはふっと苦笑して足を組み、また宙へと浮いた。

『永久とも思えた・・・だが、私の想いは強かった。
アテナの為に生きたいと・・・その想いは別の魂を生んだ。
・・・エイパスの証は受け継がれもう一つの魂に宿った。
そして・・・ついに転生を許された私の身体へと戻った・・・』

「魂がふた・・・つ?・・・聖闘士と冥闘士・・・同じ身体・・・そっそれは!!!」

サガの言葉を遮る様にエイパスは水飛沫を飛ばして泉に落ちた。
はっとする三人。
一番早く動いたのはシュラだった。
泉に飛び込み、エイパスの身体を抱き上げる。
すでに意識はなく、その身体からはあの小宇宙はなかった。

「何だ!」

「分からん、だが・・・もうあの小宇宙はない。今感じるのはの小宇宙だ。」

カミュは取り合えずを自分の寝室に運ぶようにシュラに言うと、
サガと二人でリビングに向かった。





「サガ、先ほど何を言いかけた?」

サガにプランデーを手渡し、自分はと飲んでいたワインの残りを口に運んだ。

「同じ肉体に異なる力が宿るなど・・・想像が出来るか?」

「・・・相反する二つの力がぶつかればどうなるか分からんという事か?」

「そうだ・・・。」

カミュから渡されたブランデーを飲みつつ、
サガはふとリビングの入り口に目をやった。
入り口にもたれかかるようにシュラがこちらを見ている。

「・・・シュラ、は?」

「ああ、眠ってる。・・・少し顔色が悪いがな・・・」

そう言って、サガの隣に腰掛けた。
カミュはサガと同じブランデーをシュラに手渡した。
それを受け取り一気に喉に流し込んだシュラは、
カミュからボトルごと受け取り手酌をしながら呟いた。

「・・・やばいな・・・」

その呟きにサガが首をかしげる。

「何がだ?シュラ。」

「サガ、お前本当に気付いてなかったのか?」

「だから何がだ?」

「・・・のもう一つの小宇宙。」

サガはじっとシュラを見据えていた。
おそらく、シュラが言いたいのはかつてのサガの事を言っているのだろう。
己の中に善と悪を共有していたサガ。
今でも共有している事には変わりないのだが、
今ではほぼ完全といっていいほどコントロール出来ている。
そんなサガだからこそ、
いち早く気付くことが出来たのではないか?と。

「・・・・・・無茶をいうな、シュラ。」

先に口を開いたのはカミュだった。

「だが、は今後も監視しておく必要があるな。」

そう言ってワインを飲み干すと、すっと席を立った。

「どこへいく?」

サガの問いにふっと笑い時計を見た。

「もう遅いからな・・・貴方たちは帰った方がいい。私はここで眠る。」

さすがに寝室をに取られているからな。
一緒にいてはある意味私の方が危険なのでな。
と笑っていた。
そんなカミュを見ながら、サガとシュラも席を立つ。
時計の針はすでに午前2時を過ぎていた。

「ではまたな・・・」

「カミュ、何かあればすぐに言えよ。」

サガとシュラはそれぞれそう言うと、自宮に向けて帰って行った。
二人が帰るのを見送った後、カミュは静かに寝室へと足を運んだ。
自分のベッドで眠るの髪を一房取り、そっと口付けをする。
そして、また静かにドアを閉めて行った。