第6話・・・無限の時間
「やめてぇぇぇぇぇぇ!!!!」
教皇の間の寝室から声が響く。
時計の針は夜中の3時を指していた。
「どうしたのだ!?!!」
シオンが執務室から駆けつける。
はベッドの上でカタカタと震えながらその身体を抱きしめていた。
「あ・・・ぅう・・・あっ・・・あいつが・・・来る・・・」
「あいつ?」
シオンがの顔を覗く。
普段のからは想像が出来ないほど怯えた表情。
その瞳には光が差していない。
シオンはの両肩を掴む。
「!しっかりするのだ!!」
シオンの言葉には顔を上げ、シオンを見る。
が・・・
「ア・・・テナ・・・を・・・」
「何・・・?」
「私は・・・護らねば・・・・・・」
シオンはの肩を掴んだまま、身体を揺さぶる。
「しっかりするのだ!!!!!」
「あっ・・・!!シ・・・オン?」
瞳に光が戻り、今度はしっかりとシオンを見るの姿に
安堵の息をもらすシオン。
「あっ・・・ごめん。シオン・・・」
は苦笑し、シオンに誤る。
「いや・・・夢でも見ていたのか?」
「・・・うん。・・・嫌な夢。でも、所詮は夢だ。ごめん、シオン。
まだ夜中なんだよね・・・ってかここ占領していたのか。」
ある程度上級の聖闘士なら黄金聖闘士の代わりに執務をする。
は風鳥座の白銀聖闘士。
しかもその実力は黄金聖闘士の勝るとも劣らない。
それには書類処理が早いし正確であった為、よく執務を手伝っていた。
「ああ、気にすることはない。遅くまで付き合わせているのだから。
まったく・・・サガやカミュがいてくれればもっと捗るのだろうが・・・」
「仕方ないよ、シオン。彼らは今任務でここを離れているんだ。」
「そうだな・・・。・・・・・・。」
「ん?」
「私以外に誰がお前の素顔を知っているのだ?」
「んーーー。カミュかな?」
「ほぉ・・・お前の想い人はカミュか。・・・・・・な訳があるまい。
お前は気まぐれだからな。」
「よくご存知で。さすがシオン。歳の功だね〜『お父さん』♪」
はおちゃらけた口調で言う。
そんなはシオンにとって娘のような存在。
もともと、を聖域に呼び、聖闘士として訓練させて張本人が
シオンその人だからだった。
にとっても、シオンは父親のような存在だった為、
仮面を外す事に何のためらいもなかった。
もっとも、その気まぐれな性格もあったが・・・。
「まあ、243年も生きていれば・・・ってお前は」
「くすくす、ごめんなさい。今は私の方が年上ですけどね。」
「・・・・・・はぁ。さ、まだ夜中だ。もう少し寝るがいい。
明日もまた手伝ってもらわねばなるまい。」
「明日の担当は誰?」
「アイオリアとシャカだ。」
「シャカはいいんだけど・・・あの筋肉馬鹿・・・って!!」
こつんと頭を叩くシオン。
「仮にも黄金聖闘士だ。少しは尊敬をだな・・・」
「はぁーい。んじゃ『お父さん』!お休みなさい!!」
がばりとシーツを頭までかぶり横になるにシオンは苦笑しつつも
おやすみと言い寝室を後にした。
「・・・・・・イン・・・レーヴァテインよ。」
ゆっくりと瞳を開ければ、目の前にハーデスの姿があった。
はその姿を見た途端、自分の置かれた状況を確認する。
黒を基調とした空間。
質素ではあるが、その隅々に置かれたものはどれも高級さを醸し出している。
一目でそこがハーデスの寝所だと分かった。
そして、がいる場所は大きなベッドの上だった。
《そ・・・うか・・・私はハーデス様の寝所にいるのか・・・っ!?》
がばっと起き上がるに、ハーデスは不適な笑みを浮かべる。
ハーデスはの横に寝そべっており、喉を鳴らして笑う。
「くくっ・・・目覚めたか?レーヴァテインよ。」
「ハーデス・・・・・・様・・・・・・」
は改めて状況を確認する。
《確か・・・ハーデス様と二人になって・・・それからアテナとの会談の話をして・・・
それから・・・・・・それから・・・・・・?》
その後の記憶が全くない。
しかし、その間にも誰かの腕に抱かれていた感触がはっきりと残っている。
自分の身体を見れば、冥衣も何も纏っておらず、
その身体を隠すものはシーツ以外なかった。
「わ・・・たし・・・・・・は・・・・・・。」
「くくくくっ。何か不満でもあるのか?」
「・・・・・・いえ・・・」
「お前の聖域での生活を見ていた。それからその身体の感触も・・・な。
昔はよくこうしていたものだ・・・」
そう言って、の身体からシーツを剥ぎ取り、己の腕の中に収めるハーデス。
《私・・・嫌じゃ・・・・・・ない?・・・・・・何・・・何故、この腕の中がこんなにも心地いいの?
どうして・・・拒め・・・・・ない・・・・・・?》
は抵抗せずに、ハーデスの腕の中に黙っていた。
すると、ハーデスはを見て言った。
「レーヴァテインよ・・・今はと呼んだ方がよいのか?」
「・・・・・・ご随意に。」
「では。アテナとの会談、余は別に受けてもよい。」
その言葉に頭上のハーデスを見る。
「・・・・・・会談場所もアテナの好きにするがいい。・・・・・・だが、。
お前はそれまでここで余と過ごすのだ。」
「それは・・・」
「反論は許さぬ。・・・・・・もっともお前は私に逆らうことなど出来ようはずもないがな・・・」
その言葉通り、は抵抗出来なかった。
そして、ハーデスがそっとの額に手をかざす。
「ハーデス様!何・・・を・・・・・・・・・!?」
急に意識が遠のいていく。
「もう暫く、眠るがよい。この腕の中でな・・・」
薄れ行く意識の中、ハーデスの低い笑い声だけがの脳裏に響いていた。
「ラダマンティス、はどこにいるのだ。」
サガが目の前にいるラダマンティスに問いかける。
サガ達は、応接間に通されていた。
「ハーデス様のところだ。」
ぶっきら棒にサガに応えるラダマンティス。
ラダマンティスは目の前のブランデーグラスに入っている氷を
カランカランと鳴らす。
デスマスクはぐいっとグラスを空にし、またブランデーを注ぎ足した。
「はどうなるのだ?」
瞳を閉じて何か考えていたカミュはすっと瞳を開け、
その鋭いラダマンティス視線でを見据える。
ラダマンティスはふんと鼻で笑い、
「だから言っているだろう。全てはハーデス様次第だと。
私に聞いても何も変わらん。」
と答えた。
ばたん・・・・
扉が開き、中に漆黒のローブを纏い、
同じように漆黒の髪を揺らせ深い海底を宿したような瞳で
一行を見つめる人物が入ってきた。
「ハーデス様!?」
ざっと膝まつくラダマンティス。
カミュやサガ、デスマスクはハーデスと呼ばれた人物を見た。
「よい、ラダマンティス。・・・アテナの聖闘士達か・・・」
「・・・・・・そうだ。」
サガがキッとハーデスを睨む。
カミュはその身体に凍気を纏い、サガと同じようにハーデスを睨む。
デスマスクはさも面白くなさげにハーデスを睨んだ。
「・・・アテナに伝えるがいい。会談の件了承したと。」
「ハーデス、は・・・」
カミュの言葉にハーデスは視線をカミュに移し、
ふっと笑う。
「あの者はアテナとの会談まで余と冥界にいる。」