貴方を愛していると言えるなら、
どんなに心が晴れるだろうか?
それでも言わない・・・言えない理由がある。
貴方が聖闘士だからじゃない。
私が聖闘士だからじゃない。
冥闘士だからでもない。
貴方の立場も私の立場も関係ないの。
私が選んだ道が変わってしまったから・・・・
第7話・・・決別の刻
「ようこそアテナ。」
ハーデスは応接室の向かい側に立つアテナに向かって冷笑を浮かべる。
アテナの後ろにはカミュ、シュラ、サガ、デスマスクの4人が立ち護衛として
この冥界に来ていた。
「ええ、ハーデス。私との会談を快く引き受けてくださり、ありがとうございます。」
アテナはそういい、頭を下げる。
ハーデスはアテナやカミュ達に席に着くように言うと、
奥からパンドラを呼んだ。
「パンドラ、アテナ達に何か飲み物でも。・・・・ああ、心配はいらん。
盟約上、毒を仕込もうなどという考えはないからな。」
そう言いながら、ハーデスは己を睨み付ける黄金聖闘士達に笑いかける。
「で、アテナ。話というのは・・・」
「もちろんの事です。ハーデス、貴方の性格上、
簡単に返しては頂けないのでしょう?」
優雅に出された紅茶を飲みながらも、アテナはしっかりとハーデスを見据える。
その視線に眉一つ動かすことなく、ハーデスはただ喉の奥で笑った。
「あれはこちらにとって唯一無二の存在。・・・・まあ、そちらにしても
変わらぬと言えばそうなのかもしれんがな。
だが、今、この状況で天剣星としてのがいなくなれば、
間違いなく亡者共は暴れだす。
力で制するのは避けたいのだ・・・・私も疲れるしな」
とハーデスが答える。
しかし、アテナも
「ですが、風鳥座の聖闘士としての力はこちらにとっても大事なのです。
そちら同様、星座の守護も一人のみ。はもともと私の聖闘士なのですよ?
本来の盟約はもう期限が切れているはずではないのですか?
・・・貴方程の力があれば、彼女の癒着した魂もどうにかなるのでしょう?」
と強く言うが、ハーデスも負けじと答え続けた。
しばらく無言の小競り合いが続く。
その沈黙を破ったのは、パンドラの声だった。
「ハーデス様・・・・」
「パンドラか、何用だ?」
「そろそろ・・・・・」
「ああ、もう準備が出来たのか・・・・アテナよ。」
「はい。」
「の準備が出来たようだ。後は本人に聞くといい。
余もあやつの本心が聞きたい。余の前だから・・・・
という事もあるしな。」
「そうですね。では本人の意思次第では貴方も手を貸して
頂けるという意味で捕らえても宜しいのですね?」
「ああ。」
ギィィィィィ
カツン・・・・カツン・・・・・
冷たい靴音を響かせ、冥衣に身を包んだが姿を現した。
ヘッドから全てを完全に纏ったはハーデスとアテナのちょうど中間に立つ。
「ア・・・・テナ・・・・貴女様には・・・・ご機嫌麗しく・・・・・」
そう言って膝をつく。
アテナはやや神妙な面持ちでを見つめた。
「・・・・・」
に対し、アテナは胸に手を置き微笑した。
「カミュ・・・シュラ・・・・サガ・・・・デスマスク・・・・貴方達も・・・・・」
4人の顔を見るの視線からは全く感情が表れていなかった。
「・・・、貴女が聖衣ではなく冥衣を纏っているという事が・・・
答えなのですか?」
静かにアテナが問いかける。
は無言のまま、ゆっくりと頷いた。
「なっ!!!」
ガタンと音を立てて立ち上がる黄金聖闘士達。
ただ、カミュだけは座ったままを見つめた。
「アテナ・・・私は・・・天剣星として・・・・この地に留まります。
・・・・アテナの聖闘士としての資格・・・・今この場でお返し・・・・します。
・・・・・・どうか、次の継承者へ・・・・」
途切れ途切れに答えるに対し、サガは己が拳を握り締める。
デスマスクは今にも飛び掛りそうな勢いでを睨む。
シュラはただ視線を逸らしているだけだった。
「・・・・・・・ハーデス、貴方に聴きたい事がある。」
カミュがハーデスに視線を移し、冷たく見据えた。
「水瓶座の聖闘士か・・・・何だ。」
「・・・・貴方はそうまでしてを離したくないのか?」
「・・・・・・・・・どういうことだ・・・・」
「聖闘士としての記憶を完全に封じるとはな。さすがは冥王ということだろう。
だが、そこまでしてに執着する理由は何だ。」
「アテナにも言ったはず。天剣星としての力は唯一無二。
ここで失うわけにはいかん・・・それに余はに何もしておらんが?
・・・・くっくっ・・・・そう、何もな・・・・・」
「・・・・・言わぬつもりか・・・・」
「・・・・ほぉ、ならばどうするのだ?」
ハーデスの周りに異様な小宇宙の高まりを感じる。
それにも関わらず、カミュはすっと立ち上がりハーデスに向かって歩き出す。
「・・・・・・・こうするまでだ。・・・・・・・ダイヤモンドダスト!!!!」
カミュの手から凍気が放たれる。
「「「「カミュ!!!!」」」」
アテナを初め、黄金聖闘士達がカミュに向かって叫ぶ。
ハーデスはくくっと喉の奥で笑うと、すっと手を上げた。
パキィィィィィィィン
次の瞬間、カミュの凍気は辺りに雪の結晶となって舞い落ちた。
ハーデスの前には、が立っている。
の身体から立ち上がる冷たい小宇宙。
その瞳にはカミュが捕らえられていた。
そして・・・・どこまでも冷たい声でその言葉を発した。
「・・・・・・・・・ハーデス様には・・・・指一本・・・・触れさせ・・・・は・・・・しない・・・・」
