ここはどこなのだろう・・・・・
ここには私だけがいる。
純白の翼を震わせ苦しそうに表情を歪めて・・・・・

でも

もう一人の私もいる。
漆黒の翼を弄びながら冷笑している・・・・

そして純白の私は消えていく・・・・






第8話・・・喰われた魂






「・・・・・・・・・ハーデス様には・・・・指一本・・・・触れさせ・・・・は・・・・しない・・・・」


その言葉にその場にいたハーデス以外の者は動揺した。

・・・・貴女は・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

アテナがに駆け寄ろうとするが、それをサガとシュラが制止する。

「アテナ!いけません!!!」

はもう完全にハーデスの軍門になったということか。」

シュラがそう言い放つと、はすっと姿勢を正し、ハーデスの足元に平伏した。

「・・・・・・お怪我は・・・・ございませんか・・・・・」

「・・・・・・」

ハーデスは無言のまま、の頬を一撫でする。
その時のの表情にカミュは苛立ちを感じた。
いや、カミュだけではなく、他の聖闘士も同じだった。

の恍惚としたその表情に・・・・


「おい、どういうこった!!何でが!?」

デスマスクがサガに向かって叫ぶ。

「私の・・・知ったことか」

動揺を隠しきれないサガだったが、それでも冷静さを取り戻そうとしているのが分かる。
アテナは悲痛の表情を浮かべつつも、すっとハーデスにお辞儀をした。
そして・・・・


「ハーデス、この話はもう終わりでいいですわ。・・・・・それがの意思ならば、
私はもう何も言うことはありません。」

「「「「アテナ!?」」」」

4人の黄金聖闘士達は驚く。

「分かってもらえて何よりだ・・・・・」

「ですが・・・・・」

アテナの小宇宙が少し高まる。
手にしたニケの杖をハーデスに向けながら、

「貴方がもし、の意思をコントロールしているのであれば、
容赦は致しません。・・・・・よろしいですわね?」

その威厳に満ちた言葉に、ハーデスはただ喉の奥で笑う。

「ああ、如何様にもするがいい。・・・その場合、強硬手段でも取るのなら、
こちらとて容赦はせん。・・・・いくら前聖戦で負けたとはいえ、余にもそれなりの
プライドというものがあるからな・・・・・」

と答えた。
そして、己のマントにを包み込むと、静かにその場を後にした。
残されたアテナと聖闘士達は、ただ悔しさを噛み締めるだけだった。






聖域・・・・

アテナから神殿に来るようにと言われたカミュ。

「・・・・カミュ。」

「はっ、何でしょう。アテナ・・・・」

「先ほど、貴方がハーデスに言った言葉の意味を教えてください。」

アテナの問いに、カミュは暫くして答えた。

「・・・・今まで、からは常に2つの小宇宙を感じておりました。
それは冥闘士としてのものと、聖闘士としてのものですが。
あの時、全く聖闘士の小宇宙が感じられなかったのです。」

「ええ、それは私も気付いておりました。それからあの瞳・・・・・」

「瞳?」

カミュの言葉にアテナは首をかしげた。

「は、はいつもその瞳に強い意志を秘めておりました。
アテナに対する忠誠心や愛情・・・・・それが全く感じ取れなかった。
・・・・いえ、初めから知らないかのような視線をアテナに向けておりました。」

そこまで聞くと、アテナはふぅっとため息をついた。
確かにから己に向けられた視線は、まるで初めて見る人のようなものだった。

「しかし、カミュ。・・・・ハーデスだけでしょうか?」

「は?」

「ハーデスの力だけでそこまでの事が出来るのでしょうか?」

「・・・・・」

「例え神とは言え、そこまで完全にコントロール出来るとは思えないのです。
・・・・カミュ、何か他に思い当たる事はありませんか?」

「他に・・・・ですか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしや!!!!」

カミュはそう叫ぶと同時に己の拳を強く握り締めた。










「くっくっくっ・・・・・・」

「ハーデス様?」

先ほどから笑い続けるハーデスにパンドラが首をかしげた。
ハーデスの膝の上には、がその身を預けていた。

「いや・・・・何でもない。・・・・パンドラ、もう下がれ。」

「はい、では失礼致します。」

パタンと静かに扉が閉まる。
ハーデスはを抱きかかえたまま、自分の寝台に向かって歩き出した。
そっとを寝かせる。

「・・・・くっくっくっくっ・・・・・今までよく保てた方だ。」

ハーデスだけは知っていたのだ。
天剣星の真の力の事を。
人としての意思が少しでも揺らいだ時、その力は容易く意思を喰らう事を。

「・・・・・くくくくっ・・・・・それでいい。
その力に喰われたままでいい。」

「ハーデス・・・・さ・・・・ま・・・・・」

ふと瞳を開け、ハーデスを見つめる
ハーデスはを抱き起こすと、そのまま腕の中に閉じ込める。

「くっくっ・・・・よ。そなたは余のモノだ。
それを望んだのはお前自身なのだからな・・・・」

「は・・・い・・・・永遠に・・・・ハーデス様の・・・・もの・・・・」


ただハーデスの高笑いだけがその場に響いた。