一歩・・・また一歩・・・・
踏み出す先には、漆黒の闇。
闇色の衣を纏い、漆黒の髪を揺らし・・・
深い海を思わせるその蒼い瞳には冷酷さを宿す。
血を思わせる緋色の唇はどこか楽しそうに緩む。
第9話・・・偽りの真実
ジュデッカ・・・・
「いかがなさいましたか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
あれから10日程の時が流れた。
ハーデスの玉座から出てきたに対し、その背中を見ながらラダマンティスは話しかける。
冥界3巨頭より遥かに上の地位にいる。
ハーデスが唯一認めた・・・信用している冥闘士。
ハーデスの代わりに冥界を鎮圧する事が可能な冥闘士。
それが天剣星レーヴァテイン・・・だった。
ただじっと己を見つめるその瞳に冷たい一筋の汗を冥衣の中に感じつつ、
ラダマンティスはを見やる。
は踵を反し、ラダマンティスの方へ歩み寄る。
そして、すっとラダマンティスを見上げる。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・何か・・・お気に召されませんか・・・・」
ただ何も答えず、暫くじっとラダマンティスを見つめると、ゆっくりと身体が動いた。
すぅぅぅっとラダマンティスの唇に指を這わせ、そのままぐいっと顔を近づける。
「なっ!!!!」
「・・・・・・・・・・・・気に入らんのはお前の方だろう?・・・・」
耳元で低く囁かれるその言葉にゾクリと快感に近いものを感じる。
「な・・・に・・・を・・・・・・」
「・・・・・・・・・私がお前達以上の地位にいる事・・・・」
身体を離そうとするが、のその細い腕のどこにそんな力があるのか・・・・
ラダマンティスは身動き一つ取れなかった。
「私は・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・それとも私がお前に興味を持たぬ事か?」
そう言ってゆっくりと顔を近づける。
唇が触れるか触れないかの位置では離し続ける。
「くっくっくっ・・・・・・お前達は本当に私を楽しませてくれる・・・・・」
目を細めながらゆっくりとラダマンティスの唇に触れようとしたその瞬間だった。
「様。」
「・・・・・・・・・・・ふん」
すっと身体を離し、はラダマンティスの後ろに視線をやる。
そこに立っていたのはアイアコス・ミーノスの二人だった。
「お戯れも程々になさいませ。・・・お叱りを受けるのはラダマンティスなのですよ?」
「・・・・・・ミーノスか。」
「唯でさえ、貴女はハーデス様のご寵愛を受けていらっしゃる方なのですから。
まして、万が一の時には貴女様がハーデス様の代行者となられるのですよ?」
相手を貫くような視線・・・・そんな視線をに向けながら話すミーノスに、
はくくくっと喉で笑うと二人の間を抜けていった。
「おい、ラダマンティス!」
「・・・・・・何だ、アイアコス。」
「・・・・・・お前遊ばれてんぞ?」
「だろうな・・・・そういう方だ。」
「そういう方だってお前・・・・・・」
面白くなさそうに話すアイアコスに対し、ラダマンティスは静かに視線をの方へと向けた。
つい先日まではアテナの聖闘士だった者。
そして封印された魂と共に目覚めた冥闘士である者。
普通に考えて信用など出来ない。
だがハーデスはそんなを寵愛している。
何より自分達の忠誠心などくだらない事のように話すに対し、
ラダマンティスは多少の苛立ちを感じていた。
と同時に沸き起こる熱い欲情を押さえる事に必死になっていた。
誰をも魅了するあの緋色の唇、深い蒼の瞳。
その仕草全てに他の冥闘士はもちろん、ラダマンティスを含む3巨頭、
女であるパンドラでさえその姿に魅了し欲情を感じた。
― 信用していいものか・・・・
― アテナの聖闘士だったのだぞ?
― ですが同時に冥闘士でもあった方。
遅かれ早かれ目覚められたのでしょう?
― それはそうだけどよ・・・・
「どちらにしても、ハーデス様がお決めになられた事。
我々は従うのみだ・・・・」
そう呟くとハーデスの玉座の扉へと歩るき始めた。
「・・・・・・すべてはハーデス様の御心のままに・・・・・・ですか」
ミーノスの言葉に視線だけやり、ラダマンティスは扉を開いた。
「ラダマンティス、ミーノス、アイアコスの3名、ハーデス様のお召しにより参上致しました。」
漆黒のヴェールがするすると開き、玉座で片肘をついていたハーデスは
3人の姿に目を細めた。
「予定より少し遅かったではないか?」
「・・・・・は、様と少々話をしておりましたので・・・・
申し訳ありませんでした。」
そう頭を垂れる3人に、ハーデスはくくっと笑う。
「そうか、あれと話をな・・・・くくくく。ラダマンティス。」
「はっ・・・」
「お前達のうち、特にお前はあれを信用しておらんのだろう?」
「そのような事は・・・・」
「よい、実際、あれもお前達を信用などしておりはせん。」
ハーデスは実に楽しそうに話す。
「アイアコス、ミーノス」
「「はっ・・・」」
「お前達もそうであろう?」
その言葉にアイアコスはただ無言のままだったが、
ミーノスはすっとハーデスに視線を向け話し出す。
「恐れながらハーデス様。我々だけではなく、他の冥闘士も同じものと存じます。
しかし、あの様の力は本物。我々も含め次第に慣れていくものかと・・・・」
その言葉にハーデスはただ静かに笑うと、すっと手を掲げた。
そこには鈍く輝く紫色の球体が3つ現れた。
その一つ一つが勢いよく3人の元へと飛んでいく。
「「「!?」」」
それぞれの手でその紫色の玉は変化した。
ラダマンティスのは中心に半分欠けた紫水晶が埋め込まれたのペンダントに・・・
アイアコスのは紫水晶のピアスに・・・
そしてミーノスには紫水晶とオニキスのブレスレットに・・・・
「ハーデス様・・・」
「一体・・・・」
「これは・・・」
「それは全てに渡した物の片割れ。その宝玉にはの力が多少封じてある」
ハーデス自身もその指に同じように紫水晶が埋め込まれたリングをしていた。
「そしてそれはとお前達のつながりにもらろう・・・」
「「「どういうことでしょうか・・・」」」
「そうだな・・・簡単に言うならばお前達もと同じ力を使えるという事だ。
余がしているものはあやつとの絆。お前達が持つ物はあやつとの信頼・・・そう言うことでよいか?」
ハーデスがそう答えると同時にミーノスはふっと振り返る。
そこには壁に寄りかかりながら腕を組み、じっと玉座を見つめるの姿があった。
「ハーデス様がそうしたいのならば、私に拒む権限はございません。
私はこの地で貴方と共にあればそれでよいのですから・・・」
「そうか・・・ならば・・・」
ふわりとの身体が浮きあがり、そのままハーデスの膝の上に座る。
そして3人に与えた対になるものをハーデス自身の手ではめていった。
「・・・・・・よいな?」
「・・・はい・・・・・・」
「ではお前達は戻るがいい・・・」
ハーデスの言葉に、ラダマンティス、アイアコス、ミーノスはそれぞれの物を身につけ玉座を跡にした。
残されたはまだハーデスの膝の上にいる。
「、いいかげんに芝居はよさぬか・・・」
「・・・私はハーデス様がおっしゃっている意味が分かりませんが?」
「くっくっ・・・まあいい。今のお前ならばアテナの首も取れよう・・・」
「・・・・・・・・・・・・聖戦をやられるおつもりか?」
ゆっくりハーデスが顔を近付けていく。
「・・・いや、まだだ・・・・余から行動は起こさぬ。」
「・・・・・・っん・・・・・・」
深く唇を侵食されながらもは瞳を閉じた。
そして想いを馳せる。
これから先に起こるであろう・・・・
新たなる聖戦の事に・・・・・