己が定めは何なのか…
光を宿したその闇の身体は苦悩する。

偽り続ける事が可か否か・・・
それは誰も知らない・・・

ただ・・・この地で遊び続けるのみ・・・
私にとってこの地の全ては遊技場・・・






第10話・・・地獄遊戯






「あははははははははははは!!!!!」

第7獄・・・10の壕(マルボジェ)のあるこの場所で、は高々と笑い声を上げる。

の足元には幾多の亡者どもの手が絡みつく。
その群れでの身体は上へ上へと押し上げられていた。
まるで人柱の頂上に立つ黒き女神のように・・・・

そんな亡者どもが一瞬にして悲鳴を上げ燃えていく。
その光景はまさに阿鼻叫喚であった。
そんな光景をじっと見つめる姿がある。

天貴星グリフォンのミーノスである。
腕を組みながら時折自分に絡みつく亡者を、
一瞬にして粉砕していく。
そしてふと自分の腕に嵌められたブレスレットが淡い紫色に光っていることに気付く。

「・・・・・・何ですか・・・この光は・・・」

そう小さく呟くと同時に、強風が巻き起こる。
一瞬瞳を閉じたが、瞳を開くと驚いた。
今にも触れそうな程近付いた真紅の唇。
そして、自分をじっと見つめるその蒼い瞳に吸い込まれそうになる。

「・・・私の監視か?・・・・・・グリフォン。」

「いえ、たまたま通りかかっただけですよ」

にこりと微笑みながら答えるミーノスに、は目を細めた。
ヘッドパーツを外しているミーノスは、その銀髪を冥界の風に靡かせた。

「それより、このブレスレットが先程から輝いているのはどういうことかお分かりですか?」

ふっと話を逸らすかのように、ミーノスが僅かにと距離を取って話す。
は己の腕にも嵌っている同じブレスレットを見て鼻で笑った。
そして視線を先程まで自分がいた場所に移しながら話し始めた。

「私が力を使ったからだ。・・・その力に連鎖して光を発しているのだろう。
ハーデスの考えは分からん。冥界だけではなく・・・
私がどこにいようとも冥闘士として生きていく鎖・・・それがその装飾具だ。
・・・お前達に監視の役目も担わせているのだろう?
ここまでしなくとも・・・私は逃げも隠れもしないと言うのに・・・」

ミーノスは、初めてが『ハーデス』と自分の仕える神の名を呼び捨てた事に
多少の驚きを隠せず、その瞳を見開いた。
それに気付いたはくくくっと手を口元に持っていき笑う。

「そんなに驚くことか?」

「それは・・・我ら冥闘士の主なのですよ?あの御方は・・・」

「そうだな・・・」

「貴女にとってもそれは同じでしょう?」

「そうかもしれんな・・・・」

「だったら・・・」

「ミーノス」

ふいに名で呼ばれる。
その名を呼んだは一瞬、憂いを帯びたように見えた。

「私は遊んでいるんだよ。・・・ここは私の遊び場・・・・邪魔はして欲しくないのだが」

その言葉をミーノスに冷たい視線を送りながら言う
ミーノスは先ほどの憂いは見間違いかと思った。

「・・・・・・・・・・・・・・去れ・・・・」

「・・・・・・・・・・・・分かりました。では、失礼致します。」

そう言ってミーノスは踵を反した。
数歩進み、ふと振り返るとの横顔が見えた。

『やはり・・・・・・』

ミーノスは口には出さなかったが、確信した。
今のの表情は明らかに憂いを帯びている。
その秀麗な横顔は、眉間に皺を寄せ、きつく瞳を閉じられていた。

「貴女は何を想っているのでしょうね・・・」

ふとそんな言葉を口にする。
同時にハッと自身の口を押さえた。

「私としたことが・・・・」

と苦笑しつつも考えを廻らせた。

いつからだったか・・・
こうもの事を気になりだしたのは・・
がハーデスの元へ下ってからもうすぐ2ヶ月になる。
その間に、二人だけで話をする機会もいくらかはあった。
が、それは全て冥界の治世についてだけで、
個人的なものなどひとつもない。

では何故?

ミーノスは地面を見つつ考えに耽っていたが、
自分を貫くような視線を感じ、顔を上げた。
その視線はから注がれていた。
ミーノスは髪を掻き揚げ小首をかしげながらを見た。

「・・・・・・・・・?」

は小さく唇を動かす。

『オ・マ・エ・ニ・キ・ョ・ウ・ミ・ガ・ア・ル・』

そう言ってにこりと微笑むに対し、ミーノスは珍しく固まってしまう。
今まで見たことがないのその微笑みに魅せられてしまった。
はそのまま冥衣の羽根を広げる。
その姿は正装したハーデスの姿を連想させた。

「・・・・・・っ!?」

ふわりと甘い香りがしたとミーノスが思うのと同時に、
唇に柔らかな感触があった。

「ここで私と遊びましょう?」


耳元で囁くの声に、ミーノスは苦笑しつつも瞳を閉じた。

「いいでしょう・・・・地獄遊戯といきますか・・・・」