華麗に・・・妖艶に・・・
舞い上がるのは欲情の翼・・・




第11話・・・艶華乱舞






〜ジュデッカ〜


ぎしりと軋む蒼銀のベッド、揺れる二つの影。
漆黒の髪を乱し、うっすらと開かれた真紅の唇から漏れる熱い吐息。
白いその素肌は汗ばみ、伸ばされた腕は互いに絡み合う。


「・・・・・・・・・・・・っ!!」

「・・・・・っ!!!」

下から覗き込まれているこの状況。
は汗ばみ、額にくっついていたミーノスの銀髪をそっと手でどける。
まだ、息の上がっているとミーノス。
少し呼吸を整えながらも、ミーノスは苦笑した。
のその妖艶さに・・・

「まさか貴女と・・・などとは考えてもいませんでしたから。」

「普通はそうだろうな・・・・」

「ええ、全く。」

ゆらりと起き上がる
うっとおしそうに自分の黒髪を掻き揚げる。
手近にあったグラスを一気に傾けた後、また同じように注ぎ込まれるワイン。
そして、そのグラスをすっとミーノスへと向ける。


「お前も飲むか?」

「いえ、結構ですよ。」

「そうか。ワインは嫌いか?」

「そういうわけではないのですが・・・・少し苦手でしてね」

「くっくっ・・・私は好きだな・・・この色がまるで血の様で。」

はそう言うと、ワインを飲み干す。
口元から零れる紅いワインの滴がまたミーノスの欲情をそそった。
ミーノスはの腰に腕を回すとその滴を舐め取る。

「・・・・・・苦手ではないのか・・・・・・」

「くすくすくすくす・・・・・・・・すみません。
ですが、こうして飲むと美味しいものだと今、知りました。」

悪戯気味にを見つめ微笑むミーノスに、も笑う。

「そうか・・・・・・っ!!!」

しかし、は急に頭を抱え眉間に皺を寄せる。

「どうしましたか!?」

「いや・・・・・・っ・・・・・・ハーデスが呼んでいる・・・・・・」

はそう言うとすっとベッドから立ち上がり、掌に小宇宙を込める。
そこからは小さいが紫銀の光を放つ小さな風鳥が飛び立つ。
その光景があまりにも幻想的で、
また全く無駄のないの美しい裸体に思わずミーノスは魅入る。
はそのミーノスの視線を感じながらも、無言のまま歩いていく。

「ミーノス・・・・」

「あっ・・・はい、何でしょう?」

突然名を呼ばれ驚くも、ミーノスは柔らかな笑みをに向けた。

「一緒に浴びるか?」

「???」

「その汗ばんだままの身体で冥衣を纏えば、さすがに気持ちが悪いだろう?」

「しかし、ハーデス様が呼ばれているのでしょう?」

「いい・・・今、具合が悪いと言っておいた。・・それにこの状況のまま行く訳にもいかんだろう?」

その言葉にミーノスはそれもそうですねと答え、の後に続いた。














ぱしゃん・・・・ぱしゃん・・・・・



浴場に響く水の音。
ミーノスは湯船に浸かり、じっと目の前を見る。
そう・・・目の前には、湯船のふちに足を組みながら座り、自身の髪で遊んでいるの姿。

「・・・・・・こんなに広い浴場をいつも一人で?」

「悪いか?」

「いえ、そんな事はありませんが・・・」

「綺麗好きなのよ・・・こう見えてもね。」

浴場の入り口から端まで20mはあろう・・・。
その中心に大きな円形の湯船があり、湯船の中心には翼を広げた風鳥の像。
その像からお湯があふれ出していた。

「これも風鳥ですか?」

「ああ。」

その像の胸元に書かれている文字に眼をやる。

「・・・・・・・APUS・・・・・・」

「何が言いたい?」

「いえ、貴女は冥闘士になってもまだ忘れられないのですか?」

その言葉にふんと笑うと、はザブザブと湯船の中を歩く。
そしてミーノスの目の前に浸かり、じっと見つめた。

「過去は過去。それにしがみついていく気はない。
ただ、私はこれが好きなのだよ・・・気まぐれに生きるこの風鳥が。
美しい翼を羽ばたかせ、自由に生きるこの鳥がね・・・。」

「自由・・・ですか?」

「そうだよ。何人にも縛られず、自分の思うがままに。」

ざばっと音を立てては立ち上がる。

「さて、そろそろ出るか。のぼせるぞ?」

そうくすくすと笑いながらは出て行く。
ミーノスもそれに続いて浴場を後にした。














「ミーノス。」

「何ですか?アイアコス。」

ミーノスは己の館でアイアコスとくつろいでいた。
ふとアイアコスがミーノスの髪を一房取る。

「何なのです?」

「お前、と同じ香りがする。」

そう言いながらアイアコスは怪訝そうな眼でミーノスを見た。
ミーノスは苦笑しながら答える。

「ああ、先ほどご一緒したのですよ。」

その言葉にアイアコスは小首をかしげながらも

「ふーん、移り香か?」

とだけ答えた。

「貴方も気をつけた方がよさそうですね・・・・」

「何をだ?」

「あの方にですよ・・・」

か?何で?」

その質問に、ミーノスはさらっと自身の髪を梳き、
静かに瞳を閉じた。

「今にきっと分かりますが・・・・あの方は・・・・・・」

口元に笑みを浮かべて・・・・